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【番外編】side マーク① 取扱い注意物件の部下との出会い
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部下が幼女相手に恋に落ちて、手に負えなくなった俺の話を聞いてくれるかい?
え、俺が誰かって? この話の主人公ではないけど、一応自己紹介しておくね。王都の冒険者ギルドの本部のギルド長を務めるマーク、三十六歳、かわいい嫁と娘がいる既婚者。ずっと平穏だった人生に波風が立つようになったのはいつの頃からか……
ギルド上層部の汚職の一斉摘発で上役がごそっと抜けて、A級ランクを持っていることと、無難に仕事をこなせて、円滑に人間関係を進められる人畜無害な人って選出だろーなと思わされる、突然の本部ギルド長就任か?
それとも、部下としてあいつが赴任して来たことだろうか……?
「初めまして。サイラスです。第三支部から来ました。ギルド職員二年目です。冒険者ランクはS級。魔術師。鑑定スキル持ちです。よろしくお願いします」
はじめは至極まともに見えたんだ。冒険者やギルド職員は厳ついというイメージがあるかもしれないが、魔術師や事務方など力勝負ではない分野もあるので、小柄で細くて色白なのは、そこまで珍しいことではなかった。ただ、中性的な美貌に色恋の揉め事を想像して、少しげんなりした。それを加味しても、圧倒的な魔力量、多彩な魔術の技術、しかも貴重な鑑定スキル持ち!の加入に気分が高揚する。ギルド長として、毎日キリキリしながら仕事を回していた俺は、きっとサイラスのおかげで仕事が楽になるに違いないと期待していた。
しかし、サイラスはその圧倒的チートな能力に反して、クソほどもやる気のない男だった。
「サイラス、またさぼってるのか?」
ギルドの事務室のソファーにぐてっと体を預けている様は、銀色の髪と細身の体と相まって、まるで猫のようだ。冒険者達の目に付く、受付のゾーンではないのが救いだが、ギルド職員としてあるまじき姿だ。
「あーギルド長。お疲れさまでーす。僕、本日の業務終わりましたんで。倉庫に溜まってた未鑑定の素材、全部鑑定して、鑑定結果の紙つけて、分類整理しましたよー。終わったのに、帰っちゃだめっていわれたから、ここで時間つぶしてるんですけど」
「え? あの量を? もう終わったのか?」
「へへへ。広域鑑定っていう魔術編み出したんです。あと、自動書記を付帯して。一撃ですよ。分類、整理は生成した土人形にやらせました。人間がやるとケアレスミスとか起こるけど、魔術で自動でやればそういうのもないし、便利ですよねぇ~」
ここまでくると、魔術を作りだす圧倒的センスやそれだけの魔術を発動する魔力量に驚けばいいのか、それだけの能力を早く仕事を終わらせたい一心で使うことに憤ればいいのかわからない。
サイラスは割り振られた業務だけを忠実にこなし、決してそれ以上の事をすることはなかった。ただ業務時間内に、業務をこなし、余った時間はひたすらぼーっとして、定時が来るとさっさと帰る。
恵まれた才能を積極的に生かそうとせず、若干十六歳にして、死んだ魚のような目をしていて、無気力なサイラスに苛立つこともあった。だが、共闘しているときに、いつも掛けている色付き眼鏡が外れて、左が紫、右が空色の綺麗なオッドアイの中に、人生の闇を覗き込んだ者の持つ虚無感を見てから、そのままのサイラスを受け入れようと心に決めた。
サイラスは業務へのやる気もないが、人間関係を円満にしようという気もなかった。
「サイラスさんの着任祝いに今日はパーっと行きましょうか!」
「いいですねぇ。ぜひ僕抜きで行って来てください。僕、成人してますけどお酒もお酒を飲んで絡んでくる人も大嫌いなんで」
サイラスの着任初日にギルド一のお調子者が声をかけると、サイラスはうんうん頷きながら、場を凍らせた。
「あと、僕、結構潔癖症なんで、体に触れないでくださいね」
そいつが組んだ手を肩から払いのけると、分厚い手袋をした手で肩をぱっぱと払い、洗浄の魔術をかけた。
「今日は挨拶だけで、仕事はないって聞いてますんで、帰りますね。お疲れさま」
小柄で細身、華奢な体つきに銀色のふわふわな髪、色付き眼鏡のおかげで瞳の色はわからないが、レンズ越しにもわかる涼し気な切れ長の目、鼻筋や顔の輪郭もシャープで、全体的にやわらかい猫のような風貌の彼から、放たれる爆弾発言の数々。
しーんと静まり返ったギルド内で、皆思うことは同じだった。
―――コイツ、触るな危険案件だ
え、俺が誰かって? この話の主人公ではないけど、一応自己紹介しておくね。王都の冒険者ギルドの本部のギルド長を務めるマーク、三十六歳、かわいい嫁と娘がいる既婚者。ずっと平穏だった人生に波風が立つようになったのはいつの頃からか……
ギルド上層部の汚職の一斉摘発で上役がごそっと抜けて、A級ランクを持っていることと、無難に仕事をこなせて、円滑に人間関係を進められる人畜無害な人って選出だろーなと思わされる、突然の本部ギルド長就任か?
それとも、部下としてあいつが赴任して来たことだろうか……?
「初めまして。サイラスです。第三支部から来ました。ギルド職員二年目です。冒険者ランクはS級。魔術師。鑑定スキル持ちです。よろしくお願いします」
はじめは至極まともに見えたんだ。冒険者やギルド職員は厳ついというイメージがあるかもしれないが、魔術師や事務方など力勝負ではない分野もあるので、小柄で細くて色白なのは、そこまで珍しいことではなかった。ただ、中性的な美貌に色恋の揉め事を想像して、少しげんなりした。それを加味しても、圧倒的な魔力量、多彩な魔術の技術、しかも貴重な鑑定スキル持ち!の加入に気分が高揚する。ギルド長として、毎日キリキリしながら仕事を回していた俺は、きっとサイラスのおかげで仕事が楽になるに違いないと期待していた。
しかし、サイラスはその圧倒的チートな能力に反して、クソほどもやる気のない男だった。
「サイラス、またさぼってるのか?」
ギルドの事務室のソファーにぐてっと体を預けている様は、銀色の髪と細身の体と相まって、まるで猫のようだ。冒険者達の目に付く、受付のゾーンではないのが救いだが、ギルド職員としてあるまじき姿だ。
「あーギルド長。お疲れさまでーす。僕、本日の業務終わりましたんで。倉庫に溜まってた未鑑定の素材、全部鑑定して、鑑定結果の紙つけて、分類整理しましたよー。終わったのに、帰っちゃだめっていわれたから、ここで時間つぶしてるんですけど」
「え? あの量を? もう終わったのか?」
「へへへ。広域鑑定っていう魔術編み出したんです。あと、自動書記を付帯して。一撃ですよ。分類、整理は生成した土人形にやらせました。人間がやるとケアレスミスとか起こるけど、魔術で自動でやればそういうのもないし、便利ですよねぇ~」
ここまでくると、魔術を作りだす圧倒的センスやそれだけの魔術を発動する魔力量に驚けばいいのか、それだけの能力を早く仕事を終わらせたい一心で使うことに憤ればいいのかわからない。
サイラスは割り振られた業務だけを忠実にこなし、決してそれ以上の事をすることはなかった。ただ業務時間内に、業務をこなし、余った時間はひたすらぼーっとして、定時が来るとさっさと帰る。
恵まれた才能を積極的に生かそうとせず、若干十六歳にして、死んだ魚のような目をしていて、無気力なサイラスに苛立つこともあった。だが、共闘しているときに、いつも掛けている色付き眼鏡が外れて、左が紫、右が空色の綺麗なオッドアイの中に、人生の闇を覗き込んだ者の持つ虚無感を見てから、そのままのサイラスを受け入れようと心に決めた。
サイラスは業務へのやる気もないが、人間関係を円満にしようという気もなかった。
「サイラスさんの着任祝いに今日はパーっと行きましょうか!」
「いいですねぇ。ぜひ僕抜きで行って来てください。僕、成人してますけどお酒もお酒を飲んで絡んでくる人も大嫌いなんで」
サイラスの着任初日にギルド一のお調子者が声をかけると、サイラスはうんうん頷きながら、場を凍らせた。
「あと、僕、結構潔癖症なんで、体に触れないでくださいね」
そいつが組んだ手を肩から払いのけると、分厚い手袋をした手で肩をぱっぱと払い、洗浄の魔術をかけた。
「今日は挨拶だけで、仕事はないって聞いてますんで、帰りますね。お疲れさま」
小柄で細身、華奢な体つきに銀色のふわふわな髪、色付き眼鏡のおかげで瞳の色はわからないが、レンズ越しにもわかる涼し気な切れ長の目、鼻筋や顔の輪郭もシャープで、全体的にやわらかい猫のような風貌の彼から、放たれる爆弾発言の数々。
しーんと静まり返ったギルド内で、皆思うことは同じだった。
―――コイツ、触るな危険案件だ
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