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【番外編】side マーク④ 部下が恋心を自覚した
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サイラスは、しばらくは沈んでいたけれど、徐々に普段の調子に戻っていった。相変わらず週一回のルナとのお茶の時間は死守するし、お土産選びに余念がない。変わっていないように見えて少しだけサイラスは変わった。困っている人がいたら手を貸したり、仕事をできるだけ普通の手順でしたり。相変わらず色付き眼鏡と分厚い手袋は手放せないみたいだけど。
たまに『焼きてぇ…』『殺してぇ…』って独り言が聞こえるけど、それ魚のことだよね?
それから数年が経った。人に壁はつくるものの、着任時の尖った感じからだいぶ丸くなったサイラスに、周りの人はやっと思春期の難しい時を抜けたのかと思っていた。実際は、幼女に恋したのをきっかけにアレコレあって、少しだけ精神的に成長しただけなんだけどな!!
そんなある日、ギルド長の執務室に帰り、執務用の机の椅子を引いた時のことだ。
椅子が収まっていた空間に、サイラスが背を丸めて座り込んでいる。どうしようどうしようと頭を抱えるサイラスにこっちが頭を抱えたくなる。
今 度 は な ん だ?
「毎回毎回、変なところから登場するなよ。今度はどうした?」
なんとか執務用の机の下から、ぐにゃぐにゃになったサイラスを引きずり出して、応接用のソファーに座らせる。
「マークどうしよう。俺ルナのこと好きみたい。あっ好きって犬猫を好きっていうあれじゃなくて、女の子として好きってことで、恋とか愛とか的なことで、将来は結婚して、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで添い遂げて、死んでも一緒にいたいし、むしろ死んでも一緒で、生まれ変わってもまた一緒にいたくて、とにかくずっと一緒にいるってかんじの好きなんだけど」
え、 今 さ ら ?
そして重い。恋を自覚してないのも驚きだけど、その思いの重さにドン引きする。ヤクさんはそんな話しないだろうし、俺も恋愛というものに疎そうなサイラスにあえて、そういった話をふらないようにしていた。サイラスは二十歳になってようやく、自分の恋愛感情を自覚したようだ。激重だけど。
「ねー二十歳と十歳って、だめなの? この前読んだ小説に幼女趣味とかロリコンって書いてあったんだけど! 僕がルナを好きなのってダメなの? おかしいの?」
「まぁ、十七歳の時に、七歳好きって言った時は、やばいなって思ったけど……」
二十歳と十歳か……うーん、絵面的にまだちょっとアレなかんじはある。
二十五歳と十五歳……まだ、ギリギリアウト?
三十歳と二十歳、これなら大丈夫なかんじだなぁ。
「なんでなんで、確かにルナが七歳の時から好きだけど、だめなの? ルナと同い年だったら、ルナが七歳の時に好きでもおかしくないんでしょ?」
「まーそうだな。同い年なら、小さい頃から好きってむしろ純愛っぽいな……年が開いてると、小さい頃から好きってなんか変態っぽいんだよな……」
「僕ほど純粋にルナを好きな奴なんていないのに! ねぇ、マークどうすればいい? 僕の体を十年若返らせればいいかな? それとも、十年後のルナの所に今の僕が行けばいい? あれ、そうすると今のルナが一人ぽっちになっちゃう? ねぇ、僕どうすればいいの? どうすればルナと同い年になれるの?」
ついには、禁断の時魔術にまで手を出そうとしているのを見て焦って、年を経ればおかしくなくなるから、それまで、清い関係でいれば大丈夫だとなんとか説得して、事なきを得た。
本人が自覚した愛はそれからドンドン重くなっていった。
ルナの十二歳の誕生日前のことだ。
「あ、依頼入ってた南の孤島の古竜倒しに行ってくるわ」
なんかちょっとそこまで魚釣りに行ってくるわ、くらいのノリで、止める間もなくふらっと出かけ、サクッと古竜を倒して帰ってきた。
えーと、その古竜、S級冒険者がパーティーで綿密な作戦立てて、長期戦で相打ち覚悟で挑む相手だからね。その底知れない力をもっと世界の役に立ててくれないかなぁ。くれないよね。
「ルナの誕生日に紫の魔石をプレゼントしたかったんだよね。魔術の付与たくさんできる大きい石。古竜の魔核になってる魔石って幸運の加護ついてるでしょ。周囲の人間に怪しまれるから、防御はつけられないんだよねー。えーと、感情察知に音情報通信、位置情報感知……。認識阻害はこの石を察知されないよう指定っと」
もう、何も言えない。形に残るものはダメだという制約を潜り抜けるために、魔石に周りの人から認識されないよう認識阻害をかける手の込みよう。ヤクさんの許可は降りるのか?
そんな俺の心配をよそに、無事、ルナの手に魔石が渡ったらしい。この魔石のすごさを知ったら、倒れるんじゃないか?
「んー家って先に準備しておいた方がいいのかな?やっぱり一緒に探すところからはじめたほうがいいかな? ルナの好みもあるしなぁ」
それからサイラスは、王都で二人で住む家を熱心に探しはじめた。時々、首から下げた古竜の逆鱗を撫でながら。古竜の逆鱗がどうやら、ルナにあげた紫の魔石と対になっていて、ルナの感情や周りの音や位置を知る受信機になっているらしい。いちおう常時受信しているわけではなく、ルナの強い感情を感知するときだけ、受信するようになっているらしいが。これはセーフなのか?っていうか、まだ恋人同士じゃないよな? まだ相手十二歳だしなぁ。なんかもう、結婚した俺の嫁!みたいになってるけど、ルナとそのあたり、すり合わせてるんだろうな?
色々と気になることはあるものの、ご機嫌なサイラスに水を差さなくてもよいかと放置しておいた。
たまに『焼きてぇ…』『殺してぇ…』って独り言が聞こえるけど、それ魚のことだよね?
それから数年が経った。人に壁はつくるものの、着任時の尖った感じからだいぶ丸くなったサイラスに、周りの人はやっと思春期の難しい時を抜けたのかと思っていた。実際は、幼女に恋したのをきっかけにアレコレあって、少しだけ精神的に成長しただけなんだけどな!!
そんなある日、ギルド長の執務室に帰り、執務用の机の椅子を引いた時のことだ。
椅子が収まっていた空間に、サイラスが背を丸めて座り込んでいる。どうしようどうしようと頭を抱えるサイラスにこっちが頭を抱えたくなる。
今 度 は な ん だ?
「毎回毎回、変なところから登場するなよ。今度はどうした?」
なんとか執務用の机の下から、ぐにゃぐにゃになったサイラスを引きずり出して、応接用のソファーに座らせる。
「マークどうしよう。俺ルナのこと好きみたい。あっ好きって犬猫を好きっていうあれじゃなくて、女の子として好きってことで、恋とか愛とか的なことで、将来は結婚して、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで添い遂げて、死んでも一緒にいたいし、むしろ死んでも一緒で、生まれ変わってもまた一緒にいたくて、とにかくずっと一緒にいるってかんじの好きなんだけど」
え、 今 さ ら ?
そして重い。恋を自覚してないのも驚きだけど、その思いの重さにドン引きする。ヤクさんはそんな話しないだろうし、俺も恋愛というものに疎そうなサイラスにあえて、そういった話をふらないようにしていた。サイラスは二十歳になってようやく、自分の恋愛感情を自覚したようだ。激重だけど。
「ねー二十歳と十歳って、だめなの? この前読んだ小説に幼女趣味とかロリコンって書いてあったんだけど! 僕がルナを好きなのってダメなの? おかしいの?」
「まぁ、十七歳の時に、七歳好きって言った時は、やばいなって思ったけど……」
二十歳と十歳か……うーん、絵面的にまだちょっとアレなかんじはある。
二十五歳と十五歳……まだ、ギリギリアウト?
三十歳と二十歳、これなら大丈夫なかんじだなぁ。
「なんでなんで、確かにルナが七歳の時から好きだけど、だめなの? ルナと同い年だったら、ルナが七歳の時に好きでもおかしくないんでしょ?」
「まーそうだな。同い年なら、小さい頃から好きってむしろ純愛っぽいな……年が開いてると、小さい頃から好きってなんか変態っぽいんだよな……」
「僕ほど純粋にルナを好きな奴なんていないのに! ねぇ、マークどうすればいい? 僕の体を十年若返らせればいいかな? それとも、十年後のルナの所に今の僕が行けばいい? あれ、そうすると今のルナが一人ぽっちになっちゃう? ねぇ、僕どうすればいいの? どうすればルナと同い年になれるの?」
ついには、禁断の時魔術にまで手を出そうとしているのを見て焦って、年を経ればおかしくなくなるから、それまで、清い関係でいれば大丈夫だとなんとか説得して、事なきを得た。
本人が自覚した愛はそれからドンドン重くなっていった。
ルナの十二歳の誕生日前のことだ。
「あ、依頼入ってた南の孤島の古竜倒しに行ってくるわ」
なんかちょっとそこまで魚釣りに行ってくるわ、くらいのノリで、止める間もなくふらっと出かけ、サクッと古竜を倒して帰ってきた。
えーと、その古竜、S級冒険者がパーティーで綿密な作戦立てて、長期戦で相打ち覚悟で挑む相手だからね。その底知れない力をもっと世界の役に立ててくれないかなぁ。くれないよね。
「ルナの誕生日に紫の魔石をプレゼントしたかったんだよね。魔術の付与たくさんできる大きい石。古竜の魔核になってる魔石って幸運の加護ついてるでしょ。周囲の人間に怪しまれるから、防御はつけられないんだよねー。えーと、感情察知に音情報通信、位置情報感知……。認識阻害はこの石を察知されないよう指定っと」
もう、何も言えない。形に残るものはダメだという制約を潜り抜けるために、魔石に周りの人から認識されないよう認識阻害をかける手の込みよう。ヤクさんの許可は降りるのか?
そんな俺の心配をよそに、無事、ルナの手に魔石が渡ったらしい。この魔石のすごさを知ったら、倒れるんじゃないか?
「んー家って先に準備しておいた方がいいのかな?やっぱり一緒に探すところからはじめたほうがいいかな? ルナの好みもあるしなぁ」
それからサイラスは、王都で二人で住む家を熱心に探しはじめた。時々、首から下げた古竜の逆鱗を撫でながら。古竜の逆鱗がどうやら、ルナにあげた紫の魔石と対になっていて、ルナの感情や周りの音や位置を知る受信機になっているらしい。いちおう常時受信しているわけではなく、ルナの強い感情を感知するときだけ、受信するようになっているらしいが。これはセーフなのか?っていうか、まだ恋人同士じゃないよな? まだ相手十二歳だしなぁ。なんかもう、結婚した俺の嫁!みたいになってるけど、ルナとそのあたり、すり合わせてるんだろうな?
色々と気になることはあるものの、ご機嫌なサイラスに水を差さなくてもよいかと放置しておいた。
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