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【番外編】 少しだけ立ち止まる日があってもいい③ side サイラス
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予想外に、村長の家で時間を食ってしまったので、師匠の小屋に着いた頃には、空は茜色に染まっていた。
最後に、もう一度、師匠の小屋、小屋に置かれたもの、横たわる師匠を見納めして、扉に鍵をかける。
小屋から少し距離を置いたところから、まず、師匠の小屋のまわりに延焼を防ぐための防御壁を魔術で構築した。隣に立つルナの手を握る。
「ルナ、発動するよ」
隣で真剣な目をしたルナが師匠の小屋から目を離さずに、静かにうなずいた。
かつて、最愛のルナを虐げるこの村を焼き尽くしてやろうという憎しみから生み出された最上級の火魔術の黒い炎が師匠の小屋を覆う。黒い炎が師匠の小屋を燃やしていく様を見ながら、とりとめもなく思いがあふれてくる。
一般的に知られている火魔術の最上級のものは青い炎で、もちろん燃えカスはでる。でも、僕が証拠を残したくない一心で編みだした黒い炎は、燃やした後、塵一つ残らない。燃やした物を宇宙に空間をつなげて、拡散させるイメージで作ったら、燃えカスが残らない仕様になった。本当に宇宙に燃えカスが拡散されているのかは、わからない。
師匠、灰も残らずに燃やし尽くされちゃったら、輪廻の輪に乗れないかなぁ。でも本人の指定なんだよね。なんだよ、燃えカスすら残したくないって。でも、想像するに師匠の人生はきっと辛いことが多すぎるものだったんだろう。灰になって、宇宙を漂ってゆっくりするぐらいで丁度いいのかもしれない。生きていくのって楽しい事ばっかりじゃないからな。そして、気が向いたら、またふらりと輪廻の輪に戻ってくればいいんじゃないかな?
ありがとうって最後に聞こえたけどさ、ありがとうを言うのは僕の方だ。会うと憎まれ口叩いてばかりで、碌に感謝の気持ちを伝えたこともないけれど。
自分の身に余る膨大な魔力を持つ僕に自分の持てる術を教えてくれて、ありがとう。
やる気がなくて、ふてくされていて、甘ったれだったガキに根気よくつきあってくれたよな。まーげんこつもよくくらったけど。この膨大な魔力を操る力がなかったら、この見た目も相まって、ルナみたいに誰かに目をつけられて囲われ、虐げられていたかもしれない。今、この魔力を操る術があるおかげで、居場所を手に入れて、自分と最愛の人を守ることができている。
師匠がなにを思って他人と一線を引いていたかはわからない。きっとその黒い目と膨大な魔力量。僕と同じように人を人とも思わぬような扱いを受けたことがあるのは想像に難くない。他人を救うことはできないって口酸っぱく言ってたけどさ。意図してなくたって、人はどうしても人に影響を与える生きものだ。少なくとも、僕とルナは間違いなく師匠に救われている。
背後で物音がしたので、周囲に探索魔術をかけると、この小屋を少し遠巻きにするように人がぽつりぽつりといるようだ。悪意は感じられず、静かに弔う気配があった。
なぁ、救われたの僕とルナだけじゃないかもしれないぜ? 悪意がいっぱいの村に見えて、師匠の薬に救われて、感謝している人もいるのかもしれないぞ。
そう思うと、人間であるってそう悪いもんじゃないなって思えるな。人と関わって生きていくのも、悪くないかもしれない。ルナやマーク以外にも心許せる人が現れるのかもしれない。その可能性は、頭の片隅に置いておいてもいいのかもな。もちろん、僕の最愛で最高で一番がルナなのは未来永劫変わらないけど。
師匠がいなくなったことで僕の心には大きな穴がぽっかり空いた。その穴はきっといつまでも埋まることはなくて、きっと日常生活だとか仕事だとか最愛のルナのこととかで、一時忘れることはあるんだろう。でも、そのぽっかりと空いた穴を思い出したときは、後悔なのか、寂しさなのか、感謝なのか、いろいろ混じった今感じてるこの思いも一緒に思い出そう。そして、再び戻っていこう、良い事ばっかりじゃない辛いこともある、でも愛おしい日常へ。
そうやって、生きていったら、きっと次会う時には、花丸もらえるよな! 師匠!
【ヤクばあちゃんの話 end】
最後に、もう一度、師匠の小屋、小屋に置かれたもの、横たわる師匠を見納めして、扉に鍵をかける。
小屋から少し距離を置いたところから、まず、師匠の小屋のまわりに延焼を防ぐための防御壁を魔術で構築した。隣に立つルナの手を握る。
「ルナ、発動するよ」
隣で真剣な目をしたルナが師匠の小屋から目を離さずに、静かにうなずいた。
かつて、最愛のルナを虐げるこの村を焼き尽くしてやろうという憎しみから生み出された最上級の火魔術の黒い炎が師匠の小屋を覆う。黒い炎が師匠の小屋を燃やしていく様を見ながら、とりとめもなく思いがあふれてくる。
一般的に知られている火魔術の最上級のものは青い炎で、もちろん燃えカスはでる。でも、僕が証拠を残したくない一心で編みだした黒い炎は、燃やした後、塵一つ残らない。燃やした物を宇宙に空間をつなげて、拡散させるイメージで作ったら、燃えカスが残らない仕様になった。本当に宇宙に燃えカスが拡散されているのかは、わからない。
師匠、灰も残らずに燃やし尽くされちゃったら、輪廻の輪に乗れないかなぁ。でも本人の指定なんだよね。なんだよ、燃えカスすら残したくないって。でも、想像するに師匠の人生はきっと辛いことが多すぎるものだったんだろう。灰になって、宇宙を漂ってゆっくりするぐらいで丁度いいのかもしれない。生きていくのって楽しい事ばっかりじゃないからな。そして、気が向いたら、またふらりと輪廻の輪に戻ってくればいいんじゃないかな?
ありがとうって最後に聞こえたけどさ、ありがとうを言うのは僕の方だ。会うと憎まれ口叩いてばかりで、碌に感謝の気持ちを伝えたこともないけれど。
自分の身に余る膨大な魔力を持つ僕に自分の持てる術を教えてくれて、ありがとう。
やる気がなくて、ふてくされていて、甘ったれだったガキに根気よくつきあってくれたよな。まーげんこつもよくくらったけど。この膨大な魔力を操る力がなかったら、この見た目も相まって、ルナみたいに誰かに目をつけられて囲われ、虐げられていたかもしれない。今、この魔力を操る術があるおかげで、居場所を手に入れて、自分と最愛の人を守ることができている。
師匠がなにを思って他人と一線を引いていたかはわからない。きっとその黒い目と膨大な魔力量。僕と同じように人を人とも思わぬような扱いを受けたことがあるのは想像に難くない。他人を救うことはできないって口酸っぱく言ってたけどさ。意図してなくたって、人はどうしても人に影響を与える生きものだ。少なくとも、僕とルナは間違いなく師匠に救われている。
背後で物音がしたので、周囲に探索魔術をかけると、この小屋を少し遠巻きにするように人がぽつりぽつりといるようだ。悪意は感じられず、静かに弔う気配があった。
なぁ、救われたの僕とルナだけじゃないかもしれないぜ? 悪意がいっぱいの村に見えて、師匠の薬に救われて、感謝している人もいるのかもしれないぞ。
そう思うと、人間であるってそう悪いもんじゃないなって思えるな。人と関わって生きていくのも、悪くないかもしれない。ルナやマーク以外にも心許せる人が現れるのかもしれない。その可能性は、頭の片隅に置いておいてもいいのかもな。もちろん、僕の最愛で最高で一番がルナなのは未来永劫変わらないけど。
師匠がいなくなったことで僕の心には大きな穴がぽっかり空いた。その穴はきっといつまでも埋まることはなくて、きっと日常生活だとか仕事だとか最愛のルナのこととかで、一時忘れることはあるんだろう。でも、そのぽっかりと空いた穴を思い出したときは、後悔なのか、寂しさなのか、感謝なのか、いろいろ混じった今感じてるこの思いも一緒に思い出そう。そして、再び戻っていこう、良い事ばっかりじゃない辛いこともある、でも愛おしい日常へ。
そうやって、生きていったら、きっと次会う時には、花丸もらえるよな! 師匠!
【ヤクばあちゃんの話 end】
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