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2 私が私の気持ちに気づくまでの日々
14 仕事と恋の着地地点
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週初めの店での恒例の朝礼にて、エリックが皆の前でパンパンと手を叩いた。
「ハイ、今日の朝礼はちょっと長くなりまーす。だから、みんな適当に座って聞いてちょうだい。大事な話だからね。ハッキリさせておきたいことがあるのよね」
言葉の軽さと裏腹に真剣な表情のエリックに、店の従業員に緊張が走る。事務の女の子はなぜか得意げな顔をして、エリックの真正面に座った。
「アタシね、あんまり職業に序列をつけるの好きじゃないのよねぇ。確かにデザインがなければこの店が成り立たないし、かといって、お金や事務関係のお仕事も大事だし」
エリックはそこで言葉を切って、一同を見回した。
「でもね、そっちから序列をつけてくるなら、こっちも手加減しないってこと。いいこと、アタシはデザイナーもお針子も事務も全部、大事な仕事で働くみんなには感謝しているわよ。でもね、覚えておいて。すてきなドレスや服が作れなければ、この店は成り立たないのよ。あえて、序列をつけるなら、デザイナーが命なのよ。優秀な事務職員と天才的なデザイナーなら、アタシがどっちをとるかなんて明白よね」
得意げに腕を組んで、エリックの真ん前に座っている事務員の子の顔が蒼白になる。
「デザインならアタシにもできると思っているみたいだけど、実は違うのよ。アタシには少しのデザインのセンスと、それを広げる力があるだけ。美しい物からインスピレーションをもらって、形にしているの。リリアンは本物の天才なの。なにもないところから生み出せるの。自分の心から湧き出るものをデザインに表現しているの。アタシにはひっくりかえっても真似できないわ。まぁ、天才にありがちだけど、実務やそれを商売にしていく力はまったくないから、そこでちゃんとアタシの出番があるわけだけど……
わかるかしら、純粋にデザインの才能でいったら、リリアンは抜けてるのよ。そんな天才を、ちょっとばかり読み書きができないからってアタシが手放すと思う? 他に代わりがきかないのよ」
エリックは、一同を見回しながら、淡々と話し続ける。
「アタシがリリアンを特別扱いするせいで、ここの空気を悪くしていたことは謝るわ。でも、勝手にアタシの気持ちを決めつけて、リリアンを攻撃するのは違うんじゃないかしら? せめて、アタシに直談判してちょうだい。あ、直談判も受けたし、目に余るからこうして話してるんだけど。でも、大丈夫よ。リリアンが気に食わないなら辞めてちょうだい、なんて言わないから。チェルシーと話し合って、アタシは独立することにしたから。もちろん、リリアンは連れて行くわ。だから、これからは平和に仕事ができると思うわよ」
「エリックさん、私ただ、エリックさんのお役に立ちたくて……」
エリックの冷めた物言いと独立宣言に事務の女の子は涙目で訴える。店の事だけでなく、本気でエリックに想いを寄せていたのかもしれない。
「自分に自信があるんだかなんだか知らないけど、大きなお世話だわ。リリアンの事をきちんと説明したわよね。人の話はちゃんと聞きなさい。公私混同もだめだと思ったから、店は抜けるし、リリアンはプレスコット家から除籍して、結婚前提につきあうことになったから」
「けっこんぜんてい?」
店の片隅で、話を聞いていたリリアンは頭をかしげる。エリックそんなこと言ってたかなぁ? 確かにおつきあいすることにはなったけど……
「ハーイ、ちょっと……かなり空気悪くなっちゃったけど、これからもがんばっていきましょー。あー、別にエリックと喧嘩したとか、リリアンに問題があるからじゃなくて、方向性の違いも出て来たし、お互い大人になったから、道を分かつだけだから。このお店は既製服中心で、エリックが新しく立ち上げるのはオーダーメイドのお店よ。
私が好き勝手に動いて、店の事をエリックに任せすぎてキャパオーバーになっていたのも原因なのよね。みんなにも色々と不満もたまっているみたいだから、来週から順次、私が面談する予定だから、これからもよろしくね! エリックに付いて行きたい人は遠慮せず相談してちょうだい。
だいたいね、エリック如きにキャーキャー言っててどうするのよ? もっといい男はたくさんいるわよ。希望者には紹介するから声をかけてね。あと、エリックの代わりに色々と調整してくれるイケメン入ります! でも、私のなので、観賞用でーす。
アイダ、これからも期待してるわよ! 若いうちは視野も狭いし、色々と思いこみで動いたり失敗するものよ。エリックの事は諦めて、その分、仕事をしてちょうだい」
エリックの珍しく真剣できつい物言いに、沈んでいた空気がチェルシーのおかげで軽くなる。さらに、チェルシーの横に立つ長身で精悍な男性にみんなの目は釘付けになった。
おかげで、エリックがリリアンに関して苦言を呈したことも、エリックとリリアンがお店を辞める事への皆の動揺がおさまったので、チェルシーに感謝した。
「ハイ、今日の朝礼はちょっと長くなりまーす。だから、みんな適当に座って聞いてちょうだい。大事な話だからね。ハッキリさせておきたいことがあるのよね」
言葉の軽さと裏腹に真剣な表情のエリックに、店の従業員に緊張が走る。事務の女の子はなぜか得意げな顔をして、エリックの真正面に座った。
「アタシね、あんまり職業に序列をつけるの好きじゃないのよねぇ。確かにデザインがなければこの店が成り立たないし、かといって、お金や事務関係のお仕事も大事だし」
エリックはそこで言葉を切って、一同を見回した。
「でもね、そっちから序列をつけてくるなら、こっちも手加減しないってこと。いいこと、アタシはデザイナーもお針子も事務も全部、大事な仕事で働くみんなには感謝しているわよ。でもね、覚えておいて。すてきなドレスや服が作れなければ、この店は成り立たないのよ。あえて、序列をつけるなら、デザイナーが命なのよ。優秀な事務職員と天才的なデザイナーなら、アタシがどっちをとるかなんて明白よね」
得意げに腕を組んで、エリックの真ん前に座っている事務員の子の顔が蒼白になる。
「デザインならアタシにもできると思っているみたいだけど、実は違うのよ。アタシには少しのデザインのセンスと、それを広げる力があるだけ。美しい物からインスピレーションをもらって、形にしているの。リリアンは本物の天才なの。なにもないところから生み出せるの。自分の心から湧き出るものをデザインに表現しているの。アタシにはひっくりかえっても真似できないわ。まぁ、天才にありがちだけど、実務やそれを商売にしていく力はまったくないから、そこでちゃんとアタシの出番があるわけだけど……
わかるかしら、純粋にデザインの才能でいったら、リリアンは抜けてるのよ。そんな天才を、ちょっとばかり読み書きができないからってアタシが手放すと思う? 他に代わりがきかないのよ」
エリックは、一同を見回しながら、淡々と話し続ける。
「アタシがリリアンを特別扱いするせいで、ここの空気を悪くしていたことは謝るわ。でも、勝手にアタシの気持ちを決めつけて、リリアンを攻撃するのは違うんじゃないかしら? せめて、アタシに直談判してちょうだい。あ、直談判も受けたし、目に余るからこうして話してるんだけど。でも、大丈夫よ。リリアンが気に食わないなら辞めてちょうだい、なんて言わないから。チェルシーと話し合って、アタシは独立することにしたから。もちろん、リリアンは連れて行くわ。だから、これからは平和に仕事ができると思うわよ」
「エリックさん、私ただ、エリックさんのお役に立ちたくて……」
エリックの冷めた物言いと独立宣言に事務の女の子は涙目で訴える。店の事だけでなく、本気でエリックに想いを寄せていたのかもしれない。
「自分に自信があるんだかなんだか知らないけど、大きなお世話だわ。リリアンの事をきちんと説明したわよね。人の話はちゃんと聞きなさい。公私混同もだめだと思ったから、店は抜けるし、リリアンはプレスコット家から除籍して、結婚前提につきあうことになったから」
「けっこんぜんてい?」
店の片隅で、話を聞いていたリリアンは頭をかしげる。エリックそんなこと言ってたかなぁ? 確かにおつきあいすることにはなったけど……
「ハーイ、ちょっと……かなり空気悪くなっちゃったけど、これからもがんばっていきましょー。あー、別にエリックと喧嘩したとか、リリアンに問題があるからじゃなくて、方向性の違いも出て来たし、お互い大人になったから、道を分かつだけだから。このお店は既製服中心で、エリックが新しく立ち上げるのはオーダーメイドのお店よ。
私が好き勝手に動いて、店の事をエリックに任せすぎてキャパオーバーになっていたのも原因なのよね。みんなにも色々と不満もたまっているみたいだから、来週から順次、私が面談する予定だから、これからもよろしくね! エリックに付いて行きたい人は遠慮せず相談してちょうだい。
だいたいね、エリック如きにキャーキャー言っててどうするのよ? もっといい男はたくさんいるわよ。希望者には紹介するから声をかけてね。あと、エリックの代わりに色々と調整してくれるイケメン入ります! でも、私のなので、観賞用でーす。
アイダ、これからも期待してるわよ! 若いうちは視野も狭いし、色々と思いこみで動いたり失敗するものよ。エリックの事は諦めて、その分、仕事をしてちょうだい」
エリックの珍しく真剣できつい物言いに、沈んでいた空気がチェルシーのおかげで軽くなる。さらに、チェルシーの横に立つ長身で精悍な男性にみんなの目は釘付けになった。
おかげで、エリックがリリアンに関して苦言を呈したことも、エリックとリリアンがお店を辞める事への皆の動揺がおさまったので、チェルシーに感謝した。
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