聖剣の無茶振り  イケメン連れてこい?そんなの自分で探せ!

酒原美波

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第五章 絶壁の地

聖剣の無茶ぶり

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1.クリスマスイヴ
 東京スペシャルドーム球場では、いま阿鼻叫喚の悲鳴と号泣が飛び交っていた。まさにクリスマスの奇跡ならぬ、クリスマスの悲劇。
 クリスマスイブの東京スペシャルドーム球場では、人気アイドル『聖剣の騎士団』がライヴを行っていた。本編が終わってアンコールに出てきた4人だったが、観客の黄色い声が飛び交う中で御嶽リョウが、大学卒業予定の来年でもって、『聖剣の騎士団』から脱退、芸能界引退を発表したのだ。

 『聖剣の騎士団』にリーダーはいない。リードボーカルとダンス担当も、持ち回りで役割を果たす。
 『聖剣の騎士団』の他の3名は、俳優やバラエティー活動をしていたが、リョウだけは学業専念を理由に、グループ活動以外の仕事を断っていた。他の3人は生涯の仕事として芸能界を選択したが、元々リョウは芸能界入りを考えていなかった。しかし事務所からの執拗なスカウトに屈して、リョウは大学卒業までという契約を、瀧宮会長同席の上で事務所と交わしたのである。
 リョウの人気は4人の中でトップを誇る。華やかさのある整った顔立ち、歌とダンスの才能は勿論だが、無意識に垂れ流していた魅了の魔術も起因しているのだろう。
「みんなには申し訳ないと思っている。だがこれは俺が芸能活動する上で、親父から出された条件だった。大学での成績を落とさない、卒業したら芸能活動をやめて、親父の会社で働くこと。みんなを悲しませて、グループに迷惑をかけることははじめから分かっていたけど、俺は仲間と活動したかった。俺の我が儘で皆を振り回して、本当にゴメン」
 クールな御嶽リョウが深々と頭を下げる。リョウの芸名が母の実家の名字であること、リョウの父親が大企業・滝宮総合化学株式会社の会長のことは話題に出したことがない。しかしこの情報化社会において、リョウの正体は公然の秘密だった。
「リョウの脱退は、俺たちの活動当初から決まっていた。みんなを騙す結果になっても、俺もジュンもタケルも、リョウと一緒にアイドルの高みに登ってみたかったんだ。黙ってて、すまない」
 次に富士森タツヤが頭を下げた。
「来年の今日のライヴでもって、リョウは卒業する。だけど俺たちは『聖剣の騎士団』を続けるから、これからも応援宜しくお願いします!」
 麻生ジュンが頭を下げた。
「来年の今日まで、今まで以上に駆け抜ける。みんな、ついてきれくれるよな!」
 岩木タケルが発破をかけると、涙声の声援がドーム内から一斉に上がった。
 そのすぐ後に序奏が流れ、リョウのボーカル担当の新曲「彗星」が始まった。『聖剣の騎士団』は歌番組やライヴでも生歌で勝負する数少ないアイドルグループだったので、リョウの疾走感溢れる歌は、本来なら皆を歓喜させただろう。だが声量のお化けと言われるほどのリョウの声さえ霞むほど、ドームのファンの泣き叫ぶ声が響いていた。

「よく民放テレビで生放送できたなーと思ったら、提供が滝宮総合化学株式会社なんですね。そりゃ、コマーシャル挟まずに放映できるはずだわ。ブライド殿下、親馬鹿過ぎると言われませんか?」
 リビングのソファを脇に押しやり、ダイニングテーブルをテレビの前に移動させ、出前の餃子付きチャーシュー麺を食べながら、隣で関西風天津飯と餃子セットを頬張る瀧宮会長に、花蓮は尋ねた。
 既に来年の東京スペシャルドーム球場を『聖剣の騎士団』のために押さえているのだから、大した親馬鹿ぶりだ。今日も歌番組のために、仕事を午前中で切り上げて、花蓮の家のリビングでライヴ放送が始まるのを待機していた。
「いい褒め言葉だな。本当は妻や次男と同じく、貴賓席最前列で見たかったが、さすがに長男や重役たちに止められた。遼のファンが暴動を起こして、私が襲われかねないと」
 瀧宮会長は心底から残念そうに言った。本当は臨場感溢れるライヴ会場で、息子の勇姿を観たかったのだ。
 ちなみに長男が会場入りしなかったのは、本社および傘下企業を含むクリスマス会の主催者だったからである。長男社長は「芸能活動している遼はともかく、家族が誰も参加しないとは嘆かわしい」と文句を言っていたが、次男から「別に兄さん自慢のお義姉さんがいるから、俺たちいなくてもいいじゃん」と返り討ちされた。そういう問題ではなく、本当は長男社長も末弟の引退宣言ライヴを見に行きたかったボヤキで、「今年だけはクリスマス会無しでも大丈夫じゃないか?」と重役会議で提案したら、猛反対を喰らったという。今頃は、豪華ホテルの広間で主催者の役割を果たしながら、隙あらばスマホで生放送ライヴを観ているに違いない。
「花蓮くんこそ、わざわざ遼がバックステージパスまで用意したのに、足を運ばなかったのはどうしてだ?」
 リビングの棚の上には、『聖剣の騎士団』関係者用バックステージパスと貴賓席チケットが放り投げられている。
「いま歌っている曲で喧嘩したんです。なにがサプライズだ!」
 花蓮は餃子を箸で突き刺した。今月はじめから上映開始した劇場版『創世記激闘大戦・圧勝編』の主題歌は、いまリョウが歌っている『彗星』だった。歌詞は御嶽リョウが初作詞したものだが、ヒーローを讃えるのに乗じて、花蓮の推しのザイール司令官を何気にディスっていた。そもそも『創世記激闘大戦』を呪いの言葉を吐くほど嫌っているくせに、主題歌を担当するとは、いい度胸じゃないか。
「いい曲だと思うがーあ、いや、そんな顔で睨まずとも良いだろうに」
 殺気を漲らせた花蓮から凶悪な視線をぶつけられた瀧宮会長は、たじろぐ。
「そういえば先月の皇帝戴冠式および遼の元帥就任式の舞踏会で、ファーストダンスを遼と踊らなかったことでも喧嘩していたな」
 瀧宮会長は話題をアニメから逸らす。花蓮の病的ともいえるオタク愛の話題は地雷だ。
「私はこれまでダンスを学んだことはありません。しかもデビュタントもしていないド田舎伯爵令嬢、いや今は貴族ですらない地球人です。そんな居た堪れない会場に呼び出されただけでも針の筵なのに、皇女殿下を差し置いてファーストダンスなんてしたら殺意の的になって、うっかり私も反撃して血みどろの舞踏会しちゃうじゃないですか」
「それもそうだ。皇帝陛下や大臣らはともかく、花蓮くんと私は、完全にあの舞踏会は場違いだった」
 瀧宮会長も、事情知らない輩から「見知らぬ初老のジジイが、何で紛れ込んでる」と、冷たい視線を浴びせられ、危うく喧嘩を買うところだった。
「舞踏会なんて柄じゃないと言っても、遼が執拗に拘るから、皇帝陛下からも泣きつかれてホットラインが鳴り止まずに妥協しましたけど、少なくとも私が行く必要なかったですよね。瀧宮会長は、息子の晴れ姿を見たかった動機がありましたが」
「舞台裏からコッソリ見れれば満足だったのだがなぁ。まあ、過ぎたことを言っても仕方がない。ところでクリスマスイヴなのに、こんな日に友人から誘われなかったのかい?」
 会社のクリスマスを放りだして、ここへ駆けつけた瀧宮会長がよく言う。だいだい都筑家のテレビでは小さすぎてよく見えないと(それでも65型あった)、会社からリビングの壁を占拠するほどの超大型テレビを持ち込んで設置した瀧宮会長には呆れた。ただ、これは貸し出しでなく、花蓮へのクリスマスプレゼントも兼ねていると言うから、あとで超大型テレビでアニメのブルーレイディスクを観ようと花蓮はワクワクしていた。
「今日は高校時代からのオタク仲間と、クリスマス恒例アニメ鑑賞会に誘われていましたけど、こんなのが付きまとっていたら、リョウに行動が筒抜けじゃないですか」
 花蓮は左小指の指輪を見せつつ、足元の純白の毛をしたサモエドを右手で指し示す。このサモエドは犬に擬態しているが、本当は南の大陸の魔の森へ遼が出向いて服従させたフェンリルだった。遼に忠誠を誓って契約したフェンリルは、花蓮の行動を逐一監視している。他にも追跡用に、執念が凝り固まったピンキーリングを装着された。当初は左手薬指用だったのを、花蓮との大喧嘩で、ピンキーリングに妥協させた。本当はGPS指輪なんてつけたくもなかったが、そこだけは遼も譲らなかった。
 ドームライヴに行くつもりは無いが、瀧宮会長とライヴを観ている姿勢だけは示しておかないと、後でまた遼と喧嘩になる。それが面倒くさい。花蓮はこの超大型テレビで、『創世記激闘大戦』のブルーレイを早く観たいのだ。歴代のアニメ放映版も、劇場版も全て。まあ、それも中断を余儀なくされるは分かっているが。
「絶壁の地へ赴くのは、来月半ばの予定ですよね。瀧宮会長は、年始の大事な時期に長期間音信不通状態になっても大丈夫なんですか?」
「年度末に行うより、まだ1月中旬の方が都合がいいんだ。花蓮くんこそ、大学は大丈夫なのか?」
「単位は足りてますし、北欧の仮想家族に緊急で呼ばれたことにしておけば、コチラは何とかなりますから。でも遼も付いてくるんですよね。タイガと上手くやれるかな?」
「タイガ君も、すっかりグレイ伯爵家に馴染んだようだな。あとは魔道具を使いこなす訓練だが、護身術だけでもマスターしてくれないと、我々も未開の地では、容易に助けられるとも限らないからな」
「さすが悪名高い絶壁の地ですね。当初は聖剣スカイドラゴンを求める、にわか冒険者で溢れていたようですが、続々と脱落者が出て、いまは1割程度だとか。私らが到着するころには、更に減っているでしょうね」
 戴冠式をはじめとする一連の行事が一段落して、アリオス新皇帝が皇帝にしか開けられない禁忌の宝物庫を開けた。そこからタイガが使えそうな魔道具を取り出して、いまタイガはグレイ伯爵邸で魔道具での特訓を、トーイから受けている。
 剣術と体術は引き続きグレイ伯爵家の兵長から習っているが、魔道具に関しては聖剣アースブレーカーがアリオス新皇帝に命じて、トーイを騎士団からの出向させ、タイガに魔道具を使った特殊訓練を受けさせることになったのだ。
「しかしクリスマスに中華というのも、なかなか変わっていて面白いものだな」
 12月は国内海外を含む取引先からの招きでクリスマス漬けにされ、洋食続きで毎年辟易としていたのだ。
「遼から、『俺のいないクリスマスに、クリスマス料理を食べるな』と厳命されているんですよ。別にキリスト教徒でもないのに、遼って変な拘りがあるんですよね。毎年、クリスマスはドームライヴですし、その前もリハーサルで忙しいのだから、わざわざクリスマスに拘る必要もないのに。先日も毎度のことながら、遼の作ったクリスマス料理を、遼のマンションで一緒に食べました。去年までイヴ当日は、オタク仲間とアニメ鑑賞をしながら、フライドチキンクリスマスをしてましたけど、遼が魔力に目覚めてから終始監視されて、息抜きも出来やしない」
 そう言いつつも、花蓮は今日以外のオタ活はしっかり実行していた。クリスマスシーズンは、アニメグッズ特典付きコラボが沢山ある。クリスマスイヴ当日にフライドチキンやクリスマス料理を食べなきゃ良いのだと、昨日もコラボ開催中のファミレスとファストフードは回ってきた。12月はほぼコラボ開催の食事をメインにしていたので、後で遼に「自炊して野菜を食え!」と怒られるだろう。今月の遼は、アンダラ帝国のお披露目の引き続きと、今日を含めた昨日と明日の3日間クリスマスドームライヴの準備で多忙を極め、12月前半の前倒しクリスマスおうちデート以外は、短時間のリモートデートのみだった。
「今日の引退発表ライヴ生放送がなければ、コラボグッズ付きクリスマススペシャルファストフードを持って、タイガとクリスマスしても良かったんですけどね」
「遼の逆鱗を買うような真似は止めてくれ」
 瀧宮会長は、頭を抱えながら呻く。我が子ながら、花蓮に対する独占欲は異常だと、瀧宮会長も勘づいている。
「だってアンダラ帝国には、クリスマスの概念がないじゃないですが。しいていえば銀陽節がクリスマスにあたりますが、あれはクリスマスというより、酒宴祭ですから」
 アンダラ帝国は南の大陸だけに、平均気温も高く、雪も数千メートル級の高山で積もる程度。1年を通じて作物の生育と収穫ができるが、冬至と夏至を重んじる風習は異世界でも共通のようだ。ちなみにアンダラ帝国では、冬至は銀陽節、夏至は金陽節と言う名で、大々的なお祭りが各地で開かれ、皇帝参列の神殿行事も皇都を挙げて行われる。日本でいうところの正月行事が年に2度行われるようなものだ。
「大人はベロベロに酔っ払い、子供も祭り当日だけはジュースで割ったワインを飲める、無礼講の銀陽節か。懐かしいな。もっとも歌って飲んで食べているときは楽しいが、終わった後の二日酔いが酷すぎた。ポーションも酔い止め薬も胃薬も、あの前後は例年入手困難で、二日酔いで苦しんでいるときは、次こそ節制すると毎回誓っていたが」
 瀧宮会長は、アンダラ帝国の皇子時代を回想する。銀陽節も金陽節も、神殿儀式は厳粛な雰囲気のなかで行われたが、その後は皇宮でも無礼講の祝宴となって、皇宮の貯蔵庫の酒の4割はこの時期に消費される。
「日本と逆ですよね。日本は大掃除をして新年を迎え、アンダラ帝国では銀陽節と金陽節の後が大掃除ですから」
「あれを大掃除と一緒にして良いのだろうか。かと言って掃除しなければ、内も外も街中が汚くて臭くて…思い出したくもないな。特に食後は」
 まあ酒を飲みすぎた後の惨状がいかなるものかは、想像にお任せする。
「会長、デザートは和菓子がいいですか、それとも杏仁豆腐にしますか?」
 花蓮は遼の歌が終わって、他のメンバーのターンになった区切りに立ち上がる。
「和菓子かな。抹茶があれば更によいが」
「じゃ、抹茶もご用意しますよ。ハンドブレンダーを使えば、大量かつ直ぐに出来ますから」
 花蓮はそう言って立ち上がる。サモエドものっそり立ち上がると、律儀に花蓮についていく。ちなみに名前はサドとつけた。サモエドだからという、花蓮による安直な名付けだ。
 抹茶は大量に飲むものでは無いのだが、と瀧宮会長は思ったが、侘び寂びをこの規格外元伯爵令嬢に求めるだけ無駄だと思っていたので、何も言わなかった。
 耐熱ガラスピッチャーに入った大量の抹茶と、生茶菓子の詰め合わせが、食器を片付けたダイニングテーブルに並ぶ。なるほど、1人3個の和菓子なら、これだけの抹茶があって丁度いいかもしれない。
 彩りが美しく繊細な季節の練り切り和菓子を選びきれずに悩むのも分からないでもないが、「1人3個ノルマの和菓子もなかなかにキツイな」と思った瀧宮会長だった。

2.冒険者訓練
 「今頃、地球はクリスマスかなぁ」と、ぎこちない手でビールジョッキを傾けて飲みながら、タイガは思う。毎年クリスマスは特に芸能活動が忙しく、運が良ければ仕事場のビュッフェのクリスマス料理にありつける程度だったから、取り立てて楽しい思い出はない。特に12月はアニメコラボが多数出回るので買い食いに行きたかったのに、事務所からファストフードは禁じられていたので、グッズはネットの中古ショップを利用して購入していた。
「タイガ、遠慮せずにもっと飲め!」
 いつもは厳しい強面のザック兵長が、ヘベレケに酔っ払いながら、隣に座るタイガの背中を乱暴に叩く。叩いたと同時に、ザック兵長は悲鳴をあげた。タイガが身につけている魔道具のプレートアーマーから電気が発生して、ザック兵長の体に静電気の強力版が駆け巡ったのだ。
「兵長、無闇に触ったら危険だと伝えたのに」
「うるさい!こんな祭りの日にまで、無骨な鎧を着ているおまえが悪いんだろうが!」
「トーイ様からの命令なので。絶壁の地へ行くまでに馴染むよう、風呂以外は寝ている時もプレートアーマーを身に着けろと」
 いまは無礼講な食事中なので無骨な西洋兜は脱いで、斜めがけポシェット式のマジックバックに入れてあるが、風呂と食事中以外は頭から手足に至るまで全身をプレートアーマー(金属製鎧)を着て慣れるように命じられているのだ。更に左腰には大振りの剣を下げなければならず、これも風呂と食事時以外は着用を義務付けられている。
 今はやっと慣れてきたが、最初の頃は重い、動きづらい、硬くて眠れないで四苦八苦していた。
「せめてガントレットぐらい外して食えよ」
 ザック兵長は呆れる。今はようやく、ぎこちなくとも食事が出来るようになったが、最初のうちはガントレットが上手く操れず、タイガは食べ物や飲み物をこぼし放題だった。
「指先を動かすには慣れるのが最も重要ということで、食事はいい訓練になるから外すなと言われています」
 タイガだって、せめて祭りのときぐらいは平服で羽根を伸ばしたかったが、花蓮の実兄だけにトーイ・グレイ伯爵子息の指導は厳しい。それに絶壁の地への出発まで時間がない。帝国に置きざりにされないためには、魔力のないタイガは魔道具な慣れるしかない。ゲームの世界でしか不可能だった魔術と魔獣が溢れる憧れの冒険、そのためなら西洋式の鎧ぐらい慣れてやる。それに魔道具だけあって、重さが通常のプレートアーマーより軽いのと鉄臭さが無いのがせめてもの救いだ。
 食欲がそそられる焼きたての牛肉のバーベキュー串に手を伸ばそうとしたとき、ストロベリーブロンドの娘が串を手に取り、皿に串の肉や野菜をバラして食べやすい大きさに切ると、フォークに刺した肉をタイガの口元に持っていく。
「タイガさん、アーンして」
 ストロベリーブロンドの年頃の娘は、ザック兵長の娘でキャロル。無骨な父親に似ず、美人よりも可愛いタイプだが、ソバカスには悩んでいる。キャロルは、タイガの世話を積極的にやいていた。
「いや、その…」
 タイガは顔を赤くするが、キャロルはニッコリ笑って肉汁とソースが絡んだ肉を、タイガの口元へツンツンさせる。タイガは肉の美味しそうな匂いには勝てず、口を開けて食べた。キャロルはせっせとタイガの口に切り分けたバーベキューの肉や野菜の他にも、ガーリックトーストを食べさせた。
「まったく、ウチの娘ときたら。お前たちのイチャイチャぶりは評判になっちまって、キャロルはもう他に嫁げないだろう。タイガ、責任もって嫁に貰ってくれよ」
 ザック兵長の冗談には聞こえない言葉に、タイガは肉を喉に詰まらせる。慌ててキャロルは、タイガにワインを飲ませた。
 キャロルが好意を持ってくれていること、タイガも彼女のことが嫌いではない。だが心に浮かぶのは、いつも花蓮。オタ友だし、そもそも嫉妬深い恋人が取り憑いており、タイガが割り込める余地はない。だがこうして離れてみて、自分は花蓮に初恋をしているのだと実感した。
 父親の言葉に、頬を染めるキャロルは愛らしい。彼女に惚れることが出来れば、一番楽だろう。それでもタイガは、一縷の望みは捨てきれない。そのためにも、花蓮の横に立つ最低限の力が欲しい。厳しい鍛錬や、プレートアーマーの不自由さに耐えきれているのも、花蓮への想いが原動力となっていた。

「おまえ、キャロルと付き合ってるのか?」
 グレイ伯爵家のタイガの寝室で、指南役のトーイが尋ねる。
 タイガは、銀陽節の祝宴祭で初めて、自分の酒の許容量を知った。タイガは鎧を着たまま、食事中にいきなり酔いつぶれて椅子から転げ落ち、派手な音を立てた。魔道具の鎧を着たままのタイガを起こすのは、兵士と言えども一般人には危険過ぎる。そこでトーイが呼ばれ、魔術でタイガを寝室に転移させて、ベッドに寝かせた。
 トーイ含むグレイ伯爵家の面々は、アルコール耐性が強いらしい。つまり、どれだけ飲んでもザルだということだ。
「キャロルには指1本触れてません。俺が好きなのは、花蓮です」
 普段なら絶対に口にしない想いだが、酔いが回って理性の働かないタイガは、簡単に口を割った。
「やれやれ。気づいてはいたが、よりによって一番厄介な奴に惚れるとは。まあ派手に当たって玉砕すれば、気持ちの切り替えも早いだろう」
 トーイは、瞼が閉じかけているタイガの頭を軽く叩いて、寝室を出る。
「あんな面倒な元帥が取り憑いたアリア(花蓮)に、タイガが入れる余地があるものか。アリアがコッチへ戻るか、異世界遠距離結婚するか定かじゃないが、元帥がアリアから離れることはないだろうな。アリアが元帥の嫁、つまりアレが俺の義弟に…うっ、考えるだけで胃が痛い。胃薬飲んで、早く休もう」
 トーイは溝ウチを押さえながら、自室へ向った。
 トーイは騎士なので、元帥が最高司令官となる。もっとも中級クラスの騎士ごときが、元帥と会う機会など、よほどの事態にでも陥らない限りないだろう。
 異世界人とのハーフながらも、新たな元帥は指揮系統の見直しや国境警備の配置など、斬新かつ効率のよい指示を飛ばした。妹の話しでは、暮らしていた異世界日本という国では戦争がなく、自衛に特化した部隊はいても、仕事のほとんどは自国の災害救援に従事しているという。そんな国で暮らしながら、どうしてこれほどまでの軍事知識が元帥にはあるのか、考えるほど頭が混乱する。一度、ホットラインで妹に尋ねてみたら「ああ、それはコッチの世界のゲームのせいね。仮想の世界で戦争する遊具があるのよ」と、妹が話す異次元の世界に、ますます困惑させられた。
 先だっての北の大陸スノーファントム皇国艦隊を撃破した元帥の功績は、帝国中の吟遊詩人が歌い、いずれ習作は帝国の伝説となって残るだろう。だがその一方で、本来なら雲の上の存在である元帥に、トーイはたびたび呼び出されて直接言われたり、毎日テレパシーが送られてくる。内容は決まって「晴川悠一こと、タイガ・アカイシ・グレイに、花蓮のことを絶対に諦めさせろ。花蓮は俺のものだ」というもの。遼の直接的間接的手法で脅される日々に、トーイの胃は悲鳴を上げた。
「正式に養子縁組して、タイガをアリアの弟にしただけでは納得しないかねぇ。あ、もうアリアはグレイ伯爵家から抜けて異世界人(地球人)になっているから、他人扱いか。どちらせよ、元帥の粘着質ぶりからして、アリアがあの執念深い元帥から逃れられるとも思えないけどな」
 トーイは、妹はつくづく厄介な星の下に生まれたものだと同情した。

2.禁忌の宝物庫
 話はアリオス皇帝の戴冠式を含む多くの行事が一段落ついたところまで遡る。

 当初、聖剣アースブレーカーのソードマスターが見つかった場合について、皇太子時代のアリオス皇帝と国の重鎮一同は話し合いの末に、新元帥には南方地方の領地とその領地名に因んでバーム侯爵の叙爵を決めた。
 しかし新たなソードマスターに選ばれたのは、異世界人といえども賢帝の孫、つまり皇族の血を引いている。しかも北の大陸の艦隊撃破、聖剣トリガークリスタルの奪取と、早々に伝説級の功績を挙げた。
 アリオス皇太子は改めて会議を開き、皇族譜、つまり皇族の戸籍から消されたブライド皇子の名を復活させて、遼を皇族として新たに書き加えた。これにより遼は公爵の叙爵が認められ、戦績も考慮して大公爵、つまり大公とすることにした。ちょうど賢帝崩御後に、向こう見ずにも帝国に反乱を起こそうとして潰した属国がある。そこを大公の領地にすればいいと満場一致で決まった。
 アリオス新皇帝戴冠式と同時に行われた、遼の新元帥就任式で叙爵が発表された。遼は、リョウ・ザイール・ロータス大公と名乗ることになった。ミドルネームのザイールも、名字に使われたロータスも、遼の強い希望によって承認された。ザイールは花蓮の最推しアニメキャラクターから、ロータスは花蓮の『蓮』を英名にした、まさに恋人への執着愛からの命名。
 後日、推しの名前をミドルネームにした遼に、花蓮が激怒したのは言うまでもない。

 そんなこんなで、一連の儀式に一区切りがついた後、アリオス新皇帝は禁忌の宝物庫を開けて、遼と花蓮と瀧宮会長、そして魔道具を一番必要とするタイガを入室させた。地下の暗い部屋は人感センサー付きなのか、人が入るなり明るくなる。宝物庫というと、金貨や宝石などが山積みになっているイメージが遼、花蓮、タイガら日本のゲームにハマっていた面々にこびりついていたが、この宝物庫は特殊なガラスケースに整然と魔道具が飾られていた。武器から宝石類まで、整然と区分けされている。
 宝物庫というよりも、資料館といった雰囲気だ。
 タイガは展示の武器に、まるでゲームの世界に入り込んだかのようだと歓喜した。瀧宮会長は武器を見ながら、どれが一番使いやすいか吟味する。皇子時代の鍛錬で一通りの武器を使ったが、剣は必須として、あとは弓が一番適正に合っていた気がする。
「あ、巨大ハンマー。これでゴブリンとかスライムとか、群れる魔獣を叩き潰すのは面白そう」
 花蓮は、持ち上げるのも難儀しそうな巨大ハンマーの展示に瞳を輝かせる。
「おまえ、そんなの持てるわけ無いだろ。ゲームとマンガから離れて、現実的に使える武器を選べ。と言うか、武器はお一人様1点限りの選択しか出来ないのか?」
 遼が腰にぶら下げた聖剣アースブレーカーに問いかけると、聖剣は美少女に具現化した。
「必要なものは、武器が人を選ぶ。ここにある魔道具は、武器を含めて意思を持っている。これらは気に入った者にしか力を貸さぬのだ」
 聖剣アースブレーカーの美少女が言うと、特殊ガラスケースが一斉に開いた。開かれた武器や武具が今回、冒険へ出るパーティーに必要なものらしい。それぞれの武器や武具は、使い手を引き寄せる。
 まずそれぞれに対応する剣が、瀧宮会長、花蓮、タイガを呼んだ。
「インテリジェンス・ソードってやつだよね。凄い、本当にゲームの世界みたいだ」
 タイガは興奮しながら、呼ばれた剣に駆け寄る。赤味を帯びた黄金の剣は、オリハルコン製で、同様の鞘にはルビーによるフェニックスの模様が華やかに浮き出ていた。
 瀧宮会長のは青味がかった銀色のミスリル製の、飾りのない片刃の長剣。剣と言うよりも、侍の持つ刀にそっくりだった。
 遼は聖剣があるので、必要ないようだ。瀧宮会長とタイガの長剣は腰から下げるサイズだが、花蓮を選んだ剣は、背中に背負うタイプの大剣だった。
「あら、思ったより全然軽い」
 花蓮はショーケースから出した、自分の背丈の三分の二ほどの巨大な完全融合鋼鉄の剣を容易く持ち上げる。アリオス新皇帝や遼は驚くが、花蓮からすると重さは木刀よりも軽いという。
 他にも遼は槍、瀧宮会長は先ほど花蓮が見たより更に大きな巨大鋼鉄ハンマー、タイガは弓矢に選ばれる。だがこの場にいるアリオス新皇帝以外を一番驚かせたのはー
「へー、この世界に拳銃とライフルがあるなんて。異世界が舞台のマンガだと、反則技なのに。しかもこれら、弾丸を詰めなくても使用したら自動的に次の弾丸が補充されるみたい。弾丸は魔石から作られたものだから、中級レベルの魔獣にヒットしたら消滅する便利な代物だわ」
 花蓮は拳銃とライフルを手に取り、鑑定魔法で使用方法や性能を読み取る。それらを持てると言うことは、この魔道具らしからぬ拳銃とライフルは、花蓮を選んだことになる。
「よりによって危険な武器が、一番危険な奴を選ぶなんて。だいたい使い方を知ってるのかよ。おまえ、絶対に仲間へ銃口を向けるなよ!」
 遼は厳しい口調で注意し、タイガと瀧宮会長も青ざめながら同意する。
「失礼ね!私は大学の仲間と山中サバイバルゲームをしてるから、玩具だけど銃は撃てるし、来年の夏休みにはガンマニアの友人と、猟銃試験を受けて免許とろうと約束しているの。その前に正月休みを利用して、友達とアメリカ旅行へ行くけどね。友達たっての希望で、観光客向け実弾の撃てる射撃場もツアーに入れる予定よ」
「おまえ、冬休みに海外旅行だと?」
 遼の声が鋭くなり、彼の執着心が首をもたげる。
「友達と旅行なんて、学生時代ぐらいしか容易に行けないじゃない。幸いというか、冬場のアニメはリアタイで見たいほどの番組も無かったし」
 花蓮の優先は、あくまでもアニメ。だが地球の様々な場所へ、友達と出掛けて体感できるアトラクションを楽しむのも悪くないと思っている。これまでは遼のスケジュール中心の生活で、友達と長期間の長旅をしたことがなかったのだ。
「暇があるなら、俺のところへ泊まりに来い!」
 独占欲丸出しの遼が怒鳴りつける。ただでさえ遼は、異世界と地球に忙殺されて、休暇を取れる状態ではない。だから花蓮だけ遊びに行くのは許せなかった。
「絶対に嫌。それに遼は、引退公演ツアー準備と、元帥の仕事で多忙じゃない。一応、別れは撤回せざるおえなかったけど、束縛が強ければ今度こそ絶対に別れるからね!」
 花蓮と遼が口論している間、瀧宮会長はアリオス新皇帝に尋ねる。
「帝国はもちろん、セントクリア世界には銃の類はなかったはず。この辺りのことは、父上(亡き賢帝)から、何かお聞きになってますか?」
「いや。だがこの宝物庫が皇帝と皇帝が認めた者以外が入れないよう強固な封印魔法で保護されているのは、たまに宝物が消えたり増えたりするからだと、一度だけ聞いたことがある。見慣れない武器も、恐らくオーパーツなのだろう」
「物騒なオーパーツが侵入していたものです。あの武器は今回の特命が終わったら、直ちに封印しないと、この世界全体のパワーバランスがひっくり返りかねない、とんでもないことになりますよ。本当は今ここから出すのも、賛成いたしかねます」
「大丈夫だ。それは我が伴侶たるアースブレーカーが、何とかするだろう」
 皇帝が腰に下げていた聖剣トリガークリスタルが具現化して美少年となり、皇帝の隣に立つ。
「オーパーツの武器はさておき…うーん、たぶん大丈夫だとは思うのだが」
 聖剣トリガークリスタルが変化した美少年は、眉をひそめて、遼と口論している花蓮を凝視する。
「何か懸念事項が?」
 瀧宮会長が不安を抱いて尋ねる。
「あの娘、おぬしと同じく、異世界で生きることを決意したのだったな。ならばスカイドラゴンに捕まらないよう、充分に注意してやれ。世界に5振りのみの聖剣のうち、スカイドラゴンだけが一度もマスターを持ったことがないのは、束縛を嫌う奔放な性質だからだ。僕が見た限り、あの娘はスカイドラゴンと性質が似ている。仮に波長が合えば、ソードマスターにされてしまうかもしれないぞ」
「それはマズイ。花蓮くんは、基本的に人に従うのが嫌いな性格です。聖剣スカイドラゴンのソードマスターになんてなったら、北の大陸の継承者にされてしまう。仮にそんなことを強いられたら、花蓮くんによって北の大陸は壊滅しかねないー」
「相変わらず心配性だな、トリガークリスタル。ならば、そなたが大人しく北の大陸へ戻り、北の人間からマシな人間を選択すれば良いだけだろう」
 聖剣アースブレーカーの美少女が批判する。そもそも1つの大陸に2振りもの聖剣が偏っているこの状況が異常なのだ。
「僕のスイートハニー、そんな酷いことを言わないでくれ。僕らは双剣になって、この南の大陸を守るのだ」
「それを望むならば、下手な心配はせずに構えているがよい。妾としても、妾のソードマスターはここと異世界を往来する生活があるから、そなたがこの大陸に居るのは都合がよい。ただ状況はいつ変わるか測りかねる。今回の絶壁の地への旅の目的は、仮にそなたが北の大陸へ帰還した場合、妾のソードマスターが異世界へ赴いて不在中に不測の事態が発生しても対応できるよう、臨時の主を確保しておくためだ」
 やはり聖剣アースブレーカーの美少女は、タイガを臨時の主にするため、絶壁の地へ向かわせるようだ。
「あの青年をねぇ。それよりも、コッチの年寄りに擬態したオジサンの方が、聖剣適合者に向いているけれど」
 聖剣トリガークリスタルの美少年が、瀧宮会長を示すと、瀧宮会長は飛び上がって首を激しく横に振る。この世界へ戻るのは絶対に嫌だ。面倒な役職を押し付けられるのは分かっているし、瀧宮会長の天職は商売で儲けることだ。瀧宮会長は守銭奴ではなく、ゲーム感覚で何が儲けに繋がるかを考えて実行し、それが成功したときの至福の喜びを快感としていた。
「もうこの世界を離れた者へ、妾は無理強いをしたくない。今回は特殊なケースゆえ、協力を仰いだが」
 聖剣アースブレーカーの美少女が言う。かつてソードマスター最有力候補として選んだブライド皇子こと瀧宮会長。いま愛息のために、自らがソードマスターになり代わってもいいと願っているのは見抜いている。だが聖剣の使い手は、そんな簡単に首をすげ替えることは出来ないし、認めるつもりもない。ブライド皇子はこの世界を捨てたのだ、その時点で聖剣を持つ資格は失った。都合よく捨てた世界へ舞い戻られるのも不愉快だ。

 こうして遼は宝物庫から槍を、瀧宮会長は剣と巨大ハンマーを、タイガは剣と弓矢の他にプレートアーマーと結界を発動させることができる腕輪に選ばれた。花蓮は大剣と拳銃とライフル銃で、タイガ以外は鎧も防具も必要なしと判断されたようだ。

3.絶壁の地、到着
 普通なら、アンダラ帝国から絶壁の地を航路で向かえば、およそ半年かかる。だが転移魔術を習得していれば、次の瞬間には目的地にたどり着く。
 パーティーのメンバーは、リーダーが聖剣アースブレーカーを腰から下げた遼ことリョウ・ザイール・ロータス大公。サブリーダーが都筑花蓮。参謀長が瀧宮会長、そして唯一プレートアーマーで武装したタイガの4人で構成された。
 遼はアンダラ帝国の騎士服に身を包み、マントをはためかせる。日本での普段着も考えたが、騎士服はオタクの『萌』要素だと花蓮に言われて、その気になった。
 花蓮は普段着であるTシャツ、ジャケット、ジーンズだが、いずれもアニメキャラやロゴが描かれた公式公認服である。瀧宮会長もシャツの上から撥水加工が施されたジャケットを着用したラフな格好で、花蓮ともども、これから難攻不落の地へ足を踏み入れる格好には思えない。

 魔力が漲る絶壁の地で、唯一バリアの薄い場所へ瞬間移動した4人は、唖然とする。そこには南の大陸以外から、唯一ソードマスターを持たぬ聖剣スカイドラゴンを求めてやってきた野心家パーティーらの野戦病院と化していたのだ。
 否、生きているなら御の字、冒険に失敗した多くの者は魂が抜けたかのように虚ろな目で宙を見ている。彼らは仲間や部下、あるいはリーダーたる大物貴族を失った者たちだ。遺体の一部でも持ち帰れたなら、まだ救いもあったかもしれないが、恐らく大半の犠牲者は魔物に食われて骨の一欠片も残っていないのだろう。
 それは空と海、そしてここにいる魔術が使える皆が協力して張った結界の外を見れば、一目瞭然だった。
「ここ、ドラゴンアイランド?」
 花蓮は、遼の腰に下げた聖剣アースブレーカーに尋ねる。
「いや。普段であれば、ここの魔物は均一なはず。大量の人間が上陸したことで、島がドラゴン類を一気に増やしたのだろう。この島は自我を持っておるからな」
 聖剣アースブレーカーは、剣の形態のままテレパシーで応えた。美少女に具現化しなかったのは、多くの人がいるこの場所で、聖剣であるのを意識的に隠していたのだろう。
「大型船はあるけれど、海があれでは出航も出来ないわねぇ」
 浜辺には何隻かの大型船があったが、どれも修繕跡がある。船が浜辺へたどり着けたのも、相当な幸運確率があったと思われた。
 なにしろ海にはシーサーペントやクラーケンなど、大型の水性魔物が荒れ狂う海で飛び跳ねているのだ。
 空にはドラゴンやワイバーンの群れが飛び、結界の外の樹海からはサラマンダーやら大蛇が人間を狙っている。
「彼奴等にとったら、人間は格好の餌だもんね。ちょっと実験したいことがあるから、待ってて」
 その瞬間、花蓮は海の上に転移する。その途端、真下から巨大なシーサーペントが口を開けて花蓮に襲いかかる。
「あの馬鹿!」
 浜辺から怪我人たちの多くの悲鳴が上がる中、遼は花蓮の後を追おうと転移しようとしたが、出来ない。聖剣アースブレーカーに阻止されたのだ。
「過保護過ぎるぞ、マスター。あの娘ならば、大丈夫じゃ。ほれ、見てみろ」
 焦りを隠せない遼だけでなく、瀧宮会長や特殊なアーマープレートに身を包んだタイガも目を見張る。
 花蓮に襲いかかったシーサーペントが、崩れるように倒れて海に沈んでいったのだ。シーサーペントだけではなく、クラーケンはもちろんのこと、カリュブディスやレヴィアタンなども似たような末路を辿った。あらかたの魔物が倒されると、荒れていた海は見る見る凪いでいく。
 花蓮は一仕事終えて、仲間の元へ戻った。
「おまえ、なにをしたんだ?魔力を使った形跡もなかったが」
「武器も用いてなかった。ただ魔物の口の中に、何か放り込んでいたように見えたが」
 瀧宮会長親子か疑問を呈すると、花蓮は手に握っていたものを披露した。
「これ、菓子だよな?」
 遼は日本で見慣れたお菓子を凝視する。普通と違っている点は、憎き『創世記激闘大戦』のキャラの顔が精巧なカラープリントされていることだ。
「そうよ。日本の大手菓子メーカーがコラボカフェで販売している、防腐剤と合成着色料と人工甘味料がたっぷり入ったキャラクターの絵入りの焼き菓子。賞味期限が1年もある優れもの。本当は使うの勿体なかったけど、賞味期限がとっくに切れたものだから」
「だが普通のお菓子だろ。なぜ、これがー」
「あっ!もしかしてファンタジー小説でよく出てくる、地球の食べ物は異世界では特効薬もしくは猛毒になるの応用?」
 タイガが西洋兜からくぐもった声で言うと、花蓮はタイガを指差して「正解」と言って笑った。
「それが本当かどうか、立証実験してみかったのよ。いやいや、これほどの効果があるとは。地球人の中でも日本人って、つくづくヤバいもの食べてるなぁって宣伝にもなるわよね。他にもコンビニやスーパーで購入して、わざと消費期限を過ぎさせた色々な食べ物を持ってきたわ。どれが一番効果があるか、試したくて」
 花蓮が言うと、瀧宮会長が「あっ!」と声を上げた。瀧宮会長には心当たりがあった。
「そういえば地球へ移住した当初は、しばらく具合が悪かったんだ。異世界への適応が追いつかないのかと思っていたが、食べ物のせいだったのか。花蓮くんは、平気だったのか?」
「私はマンガで事前に日本の食材の危険性は知っていたので、解毒魔術を使いながら、徐々に日本の食事に順応していきましたので、異変は無かったですよ」
「マンガ知識も馬鹿にならぬものだな」
 瀧宮会長は感心する。
「地球の、特に日本はセントクリア世界だけでなく、他の異世界の情報もフィクションとして娯楽化しているように思います。これは地球に魔力を使える者が稀にしかおらず、仮に魔力があってもコチラの世界では生活魔法にも及ばないお粗末なもの。その代わりに別世界の知識の宝庫になったのではと、私は思っています」
「じゃあ、『創世記激闘大戦』の世界もあるかもしれないってことかな?」
 タイガは西洋兜越しに瞳を輝かせる。
「あるかもしれないわね。ただ、日本でのマンガやアニメが、実は実在するかもなんて想像するのは楽しいけど、それを見たいとは思わないなぁ。アニメだから尊いのであって、実写化されると私は興醒めしそう」
「ですよね~」
「おい、こんな場所で無駄話するな。こっちは忙しいんだ。さっさと樹海へ入るぞ」
 花蓮とタイガがオタク話で盛り上がっているのを、遼が不機嫌丸出しで遮る。
「はいはい。それよりさ、この海が静かなのって、いつぐらいまで?ここのリタイア組、海が静かな今のうちに、絶壁の地のエリアから脱出した方が良くない?」
 花蓮が遼の腰に下げた聖剣に尋ねると、ラスボスクラスの魔物をいとも簡単に退治して海を沈めた花蓮を、畏怖と称賛を込めて見つめていたリタイア組がピクリと反応した。
「そうだのう、せいぜい3日ぐらいか。今すぐ全速力で船を出せば、海の境界から脱するのも可能だろう」
 聖剣アースブレーカーは、花蓮達だけでなく、テレパシーをわざわざリタイア組全員に聞こえるように伝える。
 するとリタイア組はこぞって船へ駆け出した。動けない重傷者は、軽傷者の力を借りて、船が無くて帰る手段のない者たちも、いつの間にか生まれたリタイア組の結束力で、大陸の枠を超えて全員が乗船できるよう、リーダー格の者が指示を飛ばす。目指すは、絶壁の地から一番近い西の大陸の列島。ここまでたどり着けたら、命は助かる。
 ツギハギだらけでも出航可能な船は僅か4隻しか無かったが、聖剣探索挑戦者の生き残りは1割にも満たなかったので、全員が乗船してもまだ余裕があった。

 4隻は隊を組み、軽傷かつ魔力が使える者は、船を全速力で進める団と、中級以下の海の魔物を退治もしくは退ける団に分けて絶壁の地の島から出航した。ラスボスクラスは花蓮が退治したが、絶壁の地の島を取り囲む海には、まだまだ魔物がウヨウヨしている。しかしこの程度の魔物は、絶壁の地周辺以外にも数は少ないが存在するので、駆除方法を知る者や実際に狩った者も居る。
 ちなみに、このオンボロ船団は魔の海の境界を脱して、無事に西の大陸の西部列島の有人の島へ逃げることに成功した。

 砂浜に残ったのは、慌てて船に乗り込んだリタイア組が残した残骸と、花蓮たちパーティーのみ。4人は使い物になりそうな残骸(ゴミ)を歩き探す。食料も若干残っていたが、呆れたのは武器を忘れていった者が多かったこと。
「これだけ武器があれば、使い捨て用に丁度いい」
 瀧宮会長とタイガと遼は、小物相手なら聖剣やインテリジェンス・ソードを使わずに済むと実用的な思考のもとで、リタイア組の忘れ物を拾っていく。
 だが花蓮の考え方は違った。
「拾った武器が不要になったら、帝国の武器屋に売りに行けば、いい小遣い稼ぎになるわ。そのお金で地球にも実在する宝石を買って、日本のリサイクルショップで売りさばいて、『創世記激闘大戦』の各メーカーが出しているグッズを使用用と保管用で複数ずつ予約するの」
「あ、いいなぁ。そのときは1つでいいので、ヒーローのを予約してもらえませんか?」
「もちろん。儲けが多ければ、他のグッズも代行で買ってきてあげるわよ」
「嬉しいです!この世界に不満は無いですが、新作のアニメグッズを買えないのだけが残念で」
「おまえら、オタク話はいい加減にしろ!」
 止めなければ際限のない花蓮とタイガの会話を、遼は断ち切った。花蓮が満面の笑顔を遼自身以外に向けるのも苛立つ。
 遼も花蓮の好きな世界を理解しようと努力した。だから大嫌いな『創世記激闘大戦』も既刊コミックは読破した。その関連から、コンテスト形式の劇場版アニメの主題歌の募集に応募して、並み居るアーティストの中から、アイドルの『聖剣の騎士団』が勝ち取った。事務所の力だとか滝宮総合化学株式会社の後ろ盾とか陰口も叩かれたが、いざ曲が発売されると『聖剣の騎士団』や『創世記激闘大戦』ファン以外にも高評価を得て、業界でも久々のメガヒットとなった。侵略軍司令官推しの花蓮には、ボロクソに叩かれたが。
 絶壁の地への挑戦者だけあって、どの武器も素材がいい。折れたり欠けたりしているものも多かったが、これらも鍛冶師に売れば、素材として高く買い取ってくれるはず。
 タイガのマジックバックは許容量が限られていたが、その他3人のアイテムボックスは無限に近かったので、使えそうなものはポイポイ空間へ収納した。

 武器拾いで時間を費やしてしまったため、樹海冒険へ繰り出すのは明日にして、今日はこのまま砂浜に結界を張り直して休むことにした。
 遼は厨房の料理人が作ったフルコースを出そうとしたが、それより先にレジャーシートの上に、花蓮がファストフードを大量に並べた。どれもアニメコラボメニューで、『創世記激闘大戦』以外のパッケージもある。購入特典を花蓮がタイガに渡すと、タイガは歓喜した。
 もちろん、久々に食べる故郷の味にもタイガは感動していたが。瀧宮会長も花蓮に感化されたのか、アニメ話の輪の中に入っている。遼は疎外感を覚えつつ、ハンバーガーを手にとってかぶりついた。テイクアウトを出来立てでアイテムボックスに収納したのだろう、まだ暖かい。遼の唯一の抵抗は、決して『創世記激闘大戦』パッケージのファストフードだけは手を付けないぐらいだった。

4.絶壁の地・探検
 2日目の早朝は、瀧宮会長が持ってきた朝食を食べた。
 瀧宮会長宅には専属の料理人が居たが、会長夫人こと遼の実母は、よほど忙しくて暇がないとき以外、夫の日常食だけは自らの手で作ることに拘っていた。
 瀧宮会長は「キャンプ場に着いてすぐ仲間達と食べたいから」と、わざわざそのために早朝にキャンピングカーで出発する念に入れようで、4人分の朝食一食分を会長夫人に頼み込み、夜明け前から作らせた。キャンピングカーは郊外へ向かって走り出すうちにいつの間にか道路から姿を消して、アンダラ帝国の人気のない平原に転移した。そのキャンピングカーは、瀧宮会長のアイテムボックスに収納してある。
 鍋には豆腐とワカメのお味噌汁、きんぴらごぼう、キュウリとナスの糠漬け、だし巻き玉子、焼いたアジの開き、土鍋炊きのご飯。それらを瀧宮会長は魔術で適温にして、皆に配膳した。
 高校生から芸能活動のため一人暮らしをしていた遼にとっては久々のおふくろの味で、母の手作り朝食が五臓六腑に染み渡る。「今度、日本に帰ったら、お袋に会いに行こうかな」と思ってしまう懐かしさ。芸能活動が忙しくなってから年に数回しか実家に寄り付かない末っ子に郷愁を抱かせようと、瀧宮会長がわざわざ妻に朝食を頼んだ狙いでもあったわけだ。
 タイガにとっても久々の日本食。しかも遠征先で食べたホテルや旅館の朝食とは違う、一般家庭の手作り飯。「遠い昔、母さんが買い物依存症になる前は、朝食も作ってくれたのに」と、懐かしさが込み上げる。もっともこんな手の込んだ和食ではなく、出汁はインスタントで味噌も信州味噌ではなく麦味噌で、玉子焼きは砂糖入りの甘いものだった。
 花蓮は特定のハーブキャンディー以外、ほぼ好き嫌いがないので、美味しくいただいた。
 食後は瀧宮会長が淹れた緑茶で一服し、それから結界の外へ出た。

 樹海に入る前から、上級クラスの魔物が襲って来た。彼らは拾得物の武器で応戦するが、花蓮だけはゲーム感覚で宙を舞いつつ食品添加物たっぷりの消費期限切れのお菓子やパンを魔物の口に放り込み、簡単に倒していた。
「あれ、反則じゃないか?」
 思わず遼が呟いた。

 樹海に入ると、更に強敵な魔物が一斉に襲いかかってきたので、一同は拾得物から宝物庫の武器に切り替える。
 遼は聖剣を使わず槍を、タイガはオリハルコン製の剣を使うが、軍事訓練など無縁な国で育った2人の武器の扱いはどこかぎこち無い。遼の場合は魔術を用いることが出来たので攻撃が有効だったが、タイガは防戦に徹するのが精一杯。
 瀧宮会長も当初は動きが鈍かったが、帝国皇子時代の軍事訓練の勘が蘇った後は、魔術と巨大ハンマーを巧みに混ぜながら魔物を葬っていく。
 花蓮は魔術さえ使わず、弾切れの心配のないライフルで百発百中の命中率でオルトロスの群れを殲滅させ、上級あるいは特級クラスのドラゴン、キマイラ、ベヘモトは大剣でもって安々と切り裂いた。
「そーいえば、マンガにはドラゴンの肉は和牛の霜降り肉に勝る美味さと描かれていたわね。ドラゴン1頭、アイテムボックスに入れとこう」
 花蓮が悠長に巨大ドラゴンを自らのアイテムボックスに収納しているとき、名の無い魔物が背後から襲ってきた。
「花蓮!」
 遼が大蛇と応戦しているなか、花蓮の危機を察して叫ぶ。
 その魔物は、地球のヨハネの黙示録に書かれ、セントクリア世界でも神殿の終末預言書の一章に黙示録として描かれている。
 7つの頭を持つ、樹海を突き抜けるほど巨大なレッドドラゴン。普通のドラゴンと違うのは、竜の頭が7つあること。その異様な魔物が7つの大口を開けて花蓮に襲いかかった。
「邪魔しないでよ!」
 花蓮は振り向きざまに、7つの頭を持つレッドドラゴンに魔術で攻撃すると、レッドドラゴンは絶叫を挙げて塵と化した。
 花蓮の魔力の威力に、遼とタイガだけでなく、瀧宮会長ことブライド元皇子も驚愕する。
「全く、ドラゴンときたら、なんでこんなに無駄に大きいのかしら。これで不味かったら承知しないんだから」
 あくまでマイペースに、花蓮は普通のドラゴンの収納を終えた。
「さて、狩りを再開しようかな。アメリカでの実弾を使った射撃体験、面白かったのよね。サバイバルゲームで実弾が好きなだけ撃てるこの環境、最高じゃない」
 花蓮は再び大剣からライフルに切り替える。樹海最強のレッドドラゴンが簡単に消滅したのを目の当たりにした魔物らは、花蓮から一斉に逃げ出した。
「魔物のくせに、尻尾を巻いて逃げるんじゃないわよ!」
 花蓮は背中を見せる魔物を追いかけ、次々と狩っていく。狂喜の笑い声を上げて魔物を葬っていく姿は、彼女を熱愛する遼でさえもドン引きものだった。
「凄いなー、さすがザイール司令官を名乗るだけあるなぁ」
 駆け抜ける花蓮の背中に、タイガは羨望の眼差しを向ける。
「おまえ…やっぱりオタク脳だな」
 遼が呆れ果てる最中、背後でグシャリと林檎が潰れたような音がした。振り返ると、瀧宮会長が巨大ハンマーでもって、マンティコラを潰していた。人の顔をしたライオンの潰れた頭に、遼は飛び上がる。
「緊張感を解くな!気を抜くと殺られるぞ!」
 瀧宮会長は息子を怒鳴りつける。そして「あの暴走娘の後を追うぞ、ついてこい!」と言うなり、花蓮が走り去った方向へ駆け出す。
 遼とタイガも敵を振り払いつつ追いかけるが、瀧宮会長の足は姿に似合わず俊足で、見る見る距離が生じる。真っ先にプレートアーマーを装着したタイガが遅れだす。遼は舌打ちして槍をアイテムボックスに放り投げると、タイガを肩に担ぐ。プレートアーマーが強烈な静電気を発生させようとしたが、聖剣がそれを制した。遼は魔力で飛び上がり、高速で父親を追いかける。一瞬、初老の父の背中が自分とさほど変わらない金髪の青年の後ろ姿に見えた。
「まさか、あれが本物の親父の姿?」
 遼が思わず呟くと、聖剣が輝いて反応する。
「そうじゃ。ブライド皇子は、見目麗しい皇子だった。異世界へ渡る前は、帝国きっての絶世の貴公子だったぞ。いまはあの頃より劣化してしまって残念じゃ」
「アレで劣化?いや、正面見ていないから分からないけど」
「暇な時にでも、父親というフィルターを外して、真の姿を視てみれば良い。おぬしも異世界的な美しさであるが、ブライド皇子の美貌とは対比的じゃな」
 聖剣の言葉に、遼は改めて父親の真の姿を見てみたくなった。それにしても、タイガが耳元で呻くのはやめて欲しい。コッチだって、緊急性がなければ男なんぞ抱えたくもない。
 遼の肩に抱えられて、プレートアーマーが胸を圧迫しているのに加えて、高速で飛ばれては、タイガが具合を悪くするのも当然だ。
 ようやく遼は瀧宮会長に追いついた。
「あの暴走娘、何のために絶壁の地へ足を踏み入れたか、すっかり目的を忘れているな!」
 姿は見えぬが前方から聞こえてくる魔物の絶叫と花蓮の高笑いに、瀧宮会長は忌々しげに吐き捨てる。
「あいつ、興味あることへの集中力は凄まじいから。いや、でも、まさかこれほど戦闘狂だったとは、俺も知らなかったけど」
「おまえ、花蓮くんのことは考え直した方がいいんじゃないのか?」
 瀧宮会長は、襲いかかってきたチュパカブラを巨大ハンマーで吹き飛ばす。
「嫌だよ。あいつ以外と恋愛するつもりはない!」
 遼もまた、タイガを担いで飛びながら、リタイア組の拾得物の剣でグレンデルを袈裟斬りにした。拾得物の長剣は希少金属ヒヒイロカネで出来ており、切れ味も鈍っていなかった。
 足元が沼地になってきたので、瀧宮会長もいつの間にか低空飛行に切替えている。
「遼、もう少しスピードをあげるが、追いつけるか?」
「馬鹿にするな」
「よし、遅れても止まってやらないからな」
 瀧宮会長はスピードを加速させ、遼もそれに合わせる。担がれていたタイガは間もなく気絶した。

 ようやく追いついたとき、花蓮は血みどろになっていた。一瞬、怪我をしたのかと遼は案じたが、100頭近い群れを花蓮が大剣で全滅させた返り血だった。オークの群れの中心では、今にも魔力切れで気絶しそうな貴族青年と、重軽傷を負った6人の男女が倒れていた。どうやら樹海に迷って、他のリタイア組と合流できなかったらしい。
「おや、サーペンティン国のライアン王子か。久しぶりだな。かなり疲弊しているようだが、どうしてこんな危険な場所にいる?」
 瀧宮会長が気さくに声を掛ける。ライアン王子と呼びかけられた青年は瀧宮会長を凝視したが、不意に目を大きく見開いた。
「おまえ、アンダラ帝国のブライド皇子か?何だってそんな醜い姿に擬態している?」
 知り合いに出くわして気が抜けたのか、西の大陸の連国の1つであるサーペンティン王国のライアン王子は、結界を解いて崩れるようにその場に座り込む。
「醜いとは失敬な。この姿、気に入っているのだが」
「眩い程の美貌を隠すにしたって、もう少しマシな擬態をすればいいものを。そういえばおまえ、異世界に行くと最後に会った時に宣言して以来、行方不明だったのに、なんでこんな場所にいるんだ?」
 ライアン王子は首を傾げる。ライアン王子はアンダラ帝国に留学していたことがあり、その縁でブライド皇子と親しくなった。
 もっともブライド皇子は祖父の領地で隠されて育てられたので、皇都の学園に通学した経験がない。それなのにライアン王子と面識があったのは、ブライド皇子の母親とライアン王子の母親が同腹の姉妹で、その縁で度々、北方を管轄するオブシディアン侯爵領へ、ライアン王子は学園の長期休暇のたびに遊びに行っていたからだ。従兄弟で年齢もさほど変わらないブライド皇子とライアン王子は親友となり、留学を終えて帰国した後も文通や、ときにはブライド皇子が密かにライアン王子のもとを訪れて遊んだりしていた。
「事情があって、コチラの世界とごく最近になって行き来している。ところで、そこで倒れている仲間らしき者たちは、ライアン王子の家臣か?」
「いや、ここは魔力が強い者でなくては危険だから、従者は連れてきていない。こいつらは俺の弟妹や、俺らの境遇に同情した上級貴族の友人達だ」
「西の大陸の王子が、絶壁の地に冒険に来たということは、聖剣狙いか。しかし危険を犯してまで、聖剣アイスドラゴンを欲する必要はあったのか?」
 瀧宮会長はアイテムボックスから上級ポーションを取り出してコルク栓を開け、ライアン王子に渡す。ライアン王子は「ありがとう」と疲れ切った声で言って受け取り、ポーションを一気に飲み干した。さすが上級ポーション、しかもアンダラ帝国の作るポーションは良質な薬草を豊富に使用しているので、自国のものより効き目が早い。ライアン王子はあっという間に力を取り戻し、傷だらけだった体も完治した。
「おまえ、何で知らないんだ?俺の兄と母は、アンダラ帝国に亡命して、いまジイ様の領地で暮らしているのに」
「どうして、そんなことに。伯母上は、サーペンティン王国の第三正妃だろ?」
「だった、というのが正しいな。父王が崩御して、異母兄の王太子が即位したんだが、耄碌した父王が最期にとんでもない遺言を遺したお陰で、ウチの国は大混乱に陥ったのさ。本当に知らないのか?」
 ライアン王子は怪訝な顔をする。
「私はほんの数ヶ月前、事情があってコチラへ来たが、帝国では皇宮しか出入りしてないんだ。ジイ様関連のことは、なにも知らない。多忙過ぎて、侯爵家のことなどまるで頭に無かった」
 そう言えば、祖父のオプシディアン侯爵夫妻が戴冠式や元帥就任式典に参加していたかも確認していなかった。さんざん世話になっておきながら、我ながら薄情過ぎると、瀧宮会長は反省する。そして「あ、もしかして元帥になったのが曾孫だと紹介しなかったのに今頃、怒り狂っているかも?」と、今更ながら気づき、冷や汗が瀧宮会長の背中を伝う。祖父のオプシディアン侯爵は、日頃は穏やかな分、怒ると凄まじく怖いのだ。
「呆れた奴だな。あのなぁ、ウチの国は最初から第一正妃が生んだ王太子が居たんだ。なのに耄碌親父が最期に、王位は俺の同母兄であるアンドリューに継がせろなんて重鎮の前で言い出したから、誰が即位するべきかで大混乱になっちまったのさ。確かに兄貴は優秀だが、王位なんて望んじゃいなかったし、その器でもなかった。あれは研究家気質の強い本当の馬鹿だ。世界一美味で、なおかつ酔わない酒造りに心血を注ぐ、弟の俺でさえ呆れる本当の馬鹿だ。酒は酔うから美味いんだろうが。結局は母が兄と共に永久追放ということで無血決着がついたが、国に残った俺や同母弟妹の肩身が狭いのは明白だろ?」
「そんなことになっていたとは…おまえや弟妹は亡命を選択しなかったのか?」
 母国で肩身が狭いなら、祖父を頼って全員でアンダラ帝国へ移住すれば解決だと思った。
「仮にも前王の第三正妃の子供たちだ、それなりに利用価値もあるっていうのが、兄王や側近の思惑さ。国を出たければ北の大陸の皇帝になれ、つまり絶壁の地で聖剣アイスドラゴンを手に入れろってこと。西の大陸の聖剣ファイヤーヘラクレスは、現在ラリマー王国の国王が所有している。ウチの国からソードマスターが選ばれるのは、いつになることやら」
 東西南北の大陸のなかで、持ち回りで聖剣を共有しているのは、西の大陸パパラチア・コランダム連合国のみである。連合国の中でも立場が弱いサーペンティン王国は、聖剣アイスドラゴンを得て、北の大陸に移住するのを狙っていた。
「あんな効率の悪い大陸を手に入れようなんて、サーペンティン現国王は馬鹿なのね。前王は耄碌しておらず、むしろ優れた国王だったんじゃない?」
 クリーン魔法で返り血を消した花蓮が口を挟む。
 花蓮の口出しに「ひっ!」と引きつった声を上げたライアン王子は、オーク集団を全滅させた花蓮の勇姿が、よほど怖かったのだろう。もしかしたら魔物の一種と勘違いしていたのかもしれない。
「失礼ね、せっかく助けてあげたのに。恩人に対してする態度なわけ?」
「恩人…えっ?まさかブライド皇子の仲間なのか?」
 ライアン王子は、信じられないというように、従弟を見上げた。
「本当だ。ちなみに私達の狙いは聖剣アイスドラゴンではなく、この地でしか採取出来ない『願望の宝石』だ。聖剣アイスドラゴンとは、むしろエンカウントしないよう私達は願っているぐらいだ」
「伝記にあった幻の宝石か。どんな願いも叶えるという…なぁ、俺たちも同行しても構わないか?」
 ライアン王子が懇願すると、遼の腰の聖剣アースブレーカーが美少女に顕現した。
「ならぬ。足手まといじゃ。おぬしらは、さっさとこの地から去れ」
 聖剣アースブレーカーの美少女が手を振ると、ライアン王子一行が消えた。
「聖剣様、彼らを何処へ転移させたのですか!」
 瀧宮会長は、切羽詰まった顔で聖剣アースブレーカーの美少女に訴える。
「そなたの故郷、オブシディアン侯爵領じゃ。母国が辛いなら、亡命させれば済むことだろう。弱小国のサーペンティン王国がどうこう言ってきたところで、いま世界で一番勢力を持っているのは、聖剣2振りを所有するアンダラ帝国じゃ。捨て駒にされた従兄達の避難場所としては、最も安心できる場所ではあるまいか?」
「そうですね。いきなり現れて、ウチのジイ様や伯母上らが卒倒しなければ良いのですが」
 瀧宮会長は、とりあえず安堵の息をつく。それにしても、と瀧宮会長はやるせない。ライアン王子は文武に優れた優秀かつカリスマ性のある王子だった。その彼を捨て駒にするとは、サーペンティン新国王と側近は、よほど無能とも言える。いや、いずれ台風の目になりかねないライアン王子を生かしておくのに危機感を憶えたなら、そこそこ有能なのかもしれない。
「有能過ぎるのも考えものだな」
「それを言うなら、一夫多妻制に問題があるのかと。いずれ地球のように各国から王族は消えるか国の象徴となるかして、国民から新たな指導者が生まれる時代が、この世界にも来るかもしれませんね」
 瀧宮会長の呟きに、花蓮が答える。もっともこの世界は基本的に聖剣が指導者を選ぶので、地球のような歴史を歩むのは難しいかもしれない。だが少なくとも、花蓮は聖剣であれ人であれ、命じられた人生を強いられるのは真っぴらだと心底思った。
 その時、樹海が大きく揺れだした。

5.VS聖剣スカイドラゴン
 かなり大きな地震だった。収まったとき、花蓮の目の前にはアイスブルーの剣が浮かんでいた。一見ミスリル製にも見えるが、それよりもはるかに冷ややかな氷のような長剣。これが何なのか、聞かなくても、この場にいる者なら誰にでも分かった。
「これ見よがしに大袈裟な登場ね。アンタは必要ない。ウザいから、さっさと立ち去って」
 花蓮は両手を後ろに組み、魔力を放つ。だが聖剣スカイドラゴンは移動することで攻撃を避けた。
「儂を拒絶したばかりか、攻撃までしようとは面白い。おぬしのような者が現れるのを、儂は待っていた。さあ、受け取れ」
 再度、聖剣スカイドラゴンが花蓮の前に現れたが、それと同時に花蓮は更に強力な攻撃魔法を放つ。今回は避けきれず、聖剣スカイドラゴンはマトモに花蓮の攻撃を受けた。だが相手は聖剣、花蓮の魔法を吸収しただけだった。
 しかしこの攻防を見ていた聖剣アースブレーカーの美少女は、ハッとする。
「スカイドラゴン、この娘に手を出すな!」
 聖剣アースブレーカーが叫んだ次の瞬間、聖剣スカイドラゴンが仲間である聖剣の化身に襲いかかって胸を突き刺した。
 皆が「あ!」と叫んだが、美少女の形は借りの姿。聖剣アースブレーカーも剣に戻ると、遼の手の中に収まるなり、聖剣スカイドラゴンに襲いかかる。遼は聖剣アースブレーカーに操られるがまま、聖剣スカイドラゴンと戦う羽目になる。
「この阿呆が!せっかくの忠告を無視しおって!」
 聖剣アースブレーカーは、応戦する聖剣スカイドラゴンに向かって怒鳴りつける。
「何が阿呆だ、このじゃじゃ馬が!儂に楯突いたらどうなるか、思い知らせてやる!」
 持ち手のいない聖剣スカイドラゴンは、激しい闘いを仕掛ける。互角、いや若干だが聖剣アースブレーカーが押されている。だが突如、聖剣スカイドラゴンが動きを止めた。有り得ないことだが、聖剣スカイドラゴンからアイスブルーの細かい欠片がポロポロと落ちてきたのだ。
「まさか…こんなことは有り得ん!」
 聖剣スカイドラゴンは、自身に何が起こったか分からず困惑している。
「だから申したであろう、あの娘に手を出すなと。妾も先ほど気付いたが、あの娘は『理の破壊者』だ。先ほど吸収したあの娘の魔力が、そなたを蝕んでおる。ソードマスターの指名を撤回しなければ、そなたは消滅するぞ!」
「馬鹿な。『理の破壊者』など、ただの空想の産物でしかない」
「ふーん、何だかよく分からないことになってるけど、私の魔術は効果があるってことか。まあ納得していないみたいだから、もう一度試してみようか」
 花蓮は邪悪とも言える笑みを浮かべると、更に出力を上げた攻撃魔法を聖剣スカイドラゴンに放つ。稲妻の如き閃光を放った花蓮の魔力は、聖剣スカイドラゴンにヒビを入れた。
 これには聖剣スカイドラゴンはもちろんのこと、遼、瀧宮会長、意識を取り戻していたタイガも顎が外れる程に驚いている。聖剣アースブレーカーは無言だが、「だから言ったのに」と呻いているように思えた。
「あらー、本当に効いてる。どこまでやれば、聖剣が折れるか試してみようかな」
 花蓮は更に魔力を込める。花蓮の両腕が白く輝く。光の中でもっとも強力なのは白光。これを次に浴びたら、どんなことになることか想像に容易い。
「分かった、撤回する!おぬしのような凶悪な存在に身を委ねるのは、儂とてゴメンだ!」
「えー、聖剣を破壊するなんて滅多に出来ないのに、つまらないじゃない。降参しないで、受けて立ちなさいよ」
「冗談じゃない!この通りだ、赦してくれ!」
 聖剣スカイドラゴンは、人型に変化して土下座する。その容姿は聖剣アースブレーカーや聖剣トリガークリスタルのような子供ではなく、大人の男性だった。しかも姿形は、2次元から3次元へ形を変えた花蓮の最推しザイール司令官そのもの。
「あんた、舐め腐ってるわけ?2次元オタクはね、実写化が一番気に入らないのよ!」
 聖剣スカイドラゴンは、花蓮の許しを得たい一心で、彼女の心を読んでザイール司令官の姿を選んで具現化したのだろうが、結果的には火に油を注いでしまった。
「待て!聖剣を消滅させたら、世界のバランスが崩れる!怒りを収めてくれ!」
 聖剣アースブレーカーが遼を伴って、聖剣スカイドラゴンの前に立ちはだかる。聖剣アースブレーカーの言葉を聞いた瀧宮会長も、遼を背中で守りつつ立ちはだかる。
 瀧宮会長と遼を犠牲にするわけにはいかないので、花蓮は舌打ちして魔力を収束させた。
「せっかくの楽しみを邪魔されて不愉快だけど、この世界を破壊するわけにいかないから、勘弁してやるわよ。但し、条件を3つ飲んでもらうわ。まずは、直ちにその姿をやめなさい!不愉快極まりないわ!」
 花蓮の恫喝に、聖剣スカイドラゴンは慌てて元の剣へと戻る。遼と瀧宮会長は、ホッとしながら花蓮の前から離れた。
 もっとも遼にしてみれば、聖剣アースブレーカーに操られて庇う形になったわけだが、花蓮の恐ろしさに全身から汗が噴き出していた。何が恐ろしかったかと言えば、魔力で攻撃されることではなく、花蓮の重症オタク愛だ。
「あいつ、本当に俺よりもアニメキャラのが大事なんだ…」
 遼は、その場に膝をつく。そんな彼をタイガは哀れに思いつつも、自分も大好きなアニメキャラクターの実体化は許せないタイプだなと思った。
 聖剣アースブレーカーは再び美少女の形を取り、遼の頭を軽く叩いて慰めた。
「条件2つ目、私達が探している『願望の宝石』の在処を知ってるなら、直ちに案内しなさい。3つ目、北の大陸からマトモな治世者を探して、その者を主としなさい。北の大陸がこのまま不毛の地になれば、彼の地に暮らす人をはじめとする生き物は、他の大陸へ大移動せざるおえない。そうなれば、私の故郷の南の大陸はもちろんのこと、東の大陸や西の大陸も大混乱になるわ。だからアンタが、北の大陸を護るのよ」
「しかし、それは聖剣トリガークリスタルの役目ではー」
「私はアンタに命じているの。それとも、やっぱり砕いてしまおうか。役立たずの聖剣なんて存在価値もないー」
「分かった!北の大陸は喜んで儂が護らせていただきます!」
 聖剣スカイドラゴンは、地面に倒れることで服従の意を示した。
「分かればいいのよ。で、『願望の宝石』とやらは、何処にあるわけ?」
「喜んで、ご案内させていただきます!」
 聖剣スカイドラゴンは、柴犬サイズの青い竜へと変化して、花蓮の前を飛びながら誘導する。一行が聖剣スカイドラゴンが具現化した小さなドラゴンに付いていく。聖剣が2振りも付いているせいか、はたまた聖剣を屈服させた花蓮が恐ろしいのか、樹海の魔物はスライムさえも現れなかった。

6.願望の宝石の使用方法
 どのぐらい時間が経ったか、樹海の穴へ出た。見上げれば、空は夕焼けに染まっている。ここは樹海の中心部だった。空が見える大地には、七色に輝く拳程の大きさの金平糖型の石が敷き詰められており、自家発光しているので一面が明るい。
「これが『願望の宝石』なの?」
 花蓮は石を1つ拾い上げて凝視する。思っていたよりも軽い。そのせいか、本当にこれは石なのか、クリスマスイルミネーション用の蓄電ライトじゃないのかと疑いたくなる。
「これこそが正真正銘『願望の宝石』じゃ。願望が叶うことを強く念じながら完食すれば、大抵の願いは叶えられる。神になりたいなどといった大層な夢は流石に無理だがな」
 聖剣アースブレーカーの化身の美少女は応えた。
「それって、でも自分自身にかける魔法よね。例えば、この石を別の物質に変化させたりは無理なんでしょ?例えば、私が望む形のザイール司令官のフィギュアとかさ」
 花蓮がそう言った途端、『願望の宝石』は強い光を発して、光が収まると花蓮が理想とする、戦闘中のザイール司令官の精巧なフィギュアが手の中にあった。
「うわ、マジで出来た!いやーん、この司令官の戦闘中のアニメシーンが好きで好きでどうしよもなくて、アクスタでもいいから発売されないかなーと思ってたのよ。次は上半身裸の、シックスパックな胸筋のザイール司令官のフィギュアを作る!」
 だが『願望の宝石』を拾おうとした花蓮の手を、嫉妬心剥き出しの遼が掴んで離さない。
「フィギュアなら、俺のを作れ。いや、俺が作る。等身大で、ベッドに置いて俺が居ないときでも添い寝できるような、感触も生身に近い物がいいな」
「嫌よ、そんなの性癖疑われそうじゃない!家には友達だって来るんだから!」
 花蓮は全力で拒絶する。そんな実物と変わらぬ人形をベッドに寝かせていたら、友人に変態の烙印を押されるだろう。仮にそんなものを貰っても、その場で破壊してやるけど。
「じゃあ、花蓮の等身大生身の人形作ろうかな。いつも隣が寂しくて恋しくてさー」
 遼が言った途端、彼は花蓮の蹴りをモロに食らって『願望の宝石』の広場が途切れた樹海の大木に叩きつけられた。花蓮の攻撃は素早すぎて、咄嗟に防御を取る暇もなかった。つくづくチートな愛しい恋人だと、腰を擦りながら遼はニヤける。
「人形といえども、私を変態の生贄にしたら承知しないからね!」
 花蓮はザイール司令官のフィギュアを抱きしめながら、遼に言い渡す。
 上半身とはいえ裸のアニメキャラフィギュアを作ろうしていた花蓮も、遼と同類なのではと思うタイガと瀧宮会長だった。
「ところで、君は本当にこの世界の住人になることを望んでいるのかい?」
 瀧宮会長はタイガに問いかける。怪訝な顔をするタイガに、瀧宮会長は更に突っ込んだ質問をした。
「私には、君が地球に未練があるように思えてならない。どうだろう、『願望の宝石』で姿形を僅かに変えて、私の息子になるというのは」
 瀧宮会長の言葉に、タイガは大きく目を見開いた。
「親父、こっちの世界で暮らすことになった俺の代替に、コイツを据えるつもりかよ!」
 遼が怒りながら戻って来る。瀧宮会長は、とんだ勘違いをしている息子を鼻で笑った。
「おまえの存在を地球から抹消するはずないだろうが。おまえが聖剣の主になっても、おまえは私と母さんの息子だし、これからもおまえは滝宮遼だ。そもそも人気アイドルとなったおまえの存在を、ファンはおろか日本人全国民の脳裏から消す作業なんて、考えただけで目眩と寒気がする。タイガ君は、おまえの弟とするために戸籍を操作するだけだ。別に滝宮グループで働かせるつもりも、芸能界復帰させるつもりもない。ただ晴川悠一として、すでに地球から居場所の消えた彼に、もしも地球でやり残した未練があるのなら、彼の新たな居場所を作ってやりたいと思っただけなんだが」
 父親の開けっぴろげな家族愛に、遼は不貞腐れながらも顔を赤らめる。
 その様子をタイガは羨ましげに見つめながら口を開く。
「もしも実の父が生きていたら、こんな風に言ってくれたかな。母も買い物依存症に陥ることなく、僕も芸能界に入ることなく、普通の大学生を経て、今頃は社会人として働いていたかな」
「大学はともかく、会社員はどうかなぁ。その前にスカウトされて、結局は芸能界に入ってそう」
 花蓮が茶々を入れると、タイガは寂しげな笑みを浮かべた。
「もしも実父が早世しなければ、僕は医者になりたいとは思わなかったはず。でも朧げだけど覚えている、父の抗がん剤で窶れた微笑みを思い出す度に、父のように若くして命を散らす人達を救いたいと思っていた」
 タイガはこの世界に来て以来、一人称を「自分」から「僕」に変えていた。タイガは地球で晴川悠一として生きていたとき、環境はもちろんのこと、自我を貫けない自分自身も大嫌いだった。だから『創世記激闘大戦』の赤石大河になりきって、晴川悠一を仮の姿に置き換えた。だがこの世界に来てから、自分を偽る必要はなくなった。自分を嫌いだった自分が、いつの間にか存在すら忘れるほど小さくなっていた。しかし完全に自分を嫌っていた自分が消滅したわけではない。
「でも僕は、晴川悠一を殺した。たとえ自分であっても、人を殺した僕に医者になる資格はない。この世界で幸せを感じるたびに、僕は僕が殺した晴川悠一を哀れに思うんだ。僕は晴川悠一を弔うために、地球に戻って立ち向かって生きるべきなのかなって」
「つくづく、おぬしは生真面目なのだな。そこがまた、おぬしの魅力なのだろう。だがな、そこの2人を見るがよい。おぬしが言わんとする、アリアルイーゼ・グレイ伯爵令嬢を都筑花蓮は殺し、ブライド・ノーザンフラウ公爵を葬って滝宮健司となった者たちは、この世界を捨てても平気な顔で人生を謳歌しておるぞ?」
 聖剣アースブレーカーの美少女は、皮肉を交えて瀧宮会長と花蓮を指さす。瀧宮会長と花蓮は同時に視線を逸らす。見上げれば空は夜になっており、細い金色の月と煌めく星が夜空を彩っていた。
「けれど彼らは事情があって、この世界から立ち去ったわけでー」
「同じことじゃ。逆境に立ち向かうことは格好は良いが、心身が折れては元も子もない。逃げて助かって幸せになれるのならば、それで構わぬではないか。もっとも、人生を選ぶのはおぬしだ。この世界で生きることに納得できないとあれば、ブライド元皇子の助力を得て、地球とやらに戻るが良い」
「ちょっと待て。ならば俺たちは、苦労してここまで来た意味は無いってことか?」
 遼が意義を唱える。
 タイガは申し訳無さに身を縮めるが、花蓮と瀧宮会長は「苦労なんてしたっけか?」と苦笑する。むしろ久々に魔力を使って駆け回ったことで、ストレス発散になったぐらいだ。花蓮と瀧宮会長は、口には出さないが、たまにここへ来て魔物狩りしてストレス解消するのも楽しいかもと考えていた。
「…本音を言うと、僕は日本が恐ろしい。僕の人生を潰して人生を好き勝手に生きる母と、恋人に中絶を強いても平気な顔して勝手気ままな大学生活を送る異父弟への憎しみ。養父の存在を受け入れていたように見せかけて、心の底では実父の場所を横取りした悪党だと、僕は嫌悪していた。事務所の社長や幹部は鬼畜の一言に尽きる。僕のファンでさえ、本当の僕を知らないくせに、容姿だけでキャーキャー追いかけてくるのが疎ましかった。日本は僕にとって、嫌悪の対象でしか無かった」
「でも全てが嫌いだったわけじゃないでしょ。タイガは生真面目に加えて、感受性が強すぎたのよね。本当に日本が嫌いなら、私とアニメの話で盛り上がることも無かったはずよ。マンガとアニメを盲愛する精神に、嘘偽りはなかった。違う?」
 タイガの目から涙がこぼれ落ちる。1人でマンガやアニメを観ているときは、現実逃避だった。しかし花蓮とのオタ活、ラフレシア腐人らとの『創世記倶楽部』の白熱したLINEトークは人生で一番楽しかった瞬間だった。晴川悠一の人生にも、楽しかった瞬間は確かにあったのだ。花蓮との初めてのオタ活や、あのLINEトークをキッカケとして、脳裏に次々と晴川悠一の人生の中で嬉しかった、楽しかった、感動したシーンが蘇る。そうだ、全てが嫌いだった訳では無い。闇ばかり見つめていたから、光を思い出せなかっただけ。
「おい、いい加減にどっちか選べ。悠長にここでおまえの懺悔を聞いてるほど、俺は暇人じゃないんだよ!」
「そうだね、ゴメン。そして有難う、嫌いな僕のために、わざわざ協力してくれて」
 タイガは、遼に謝罪と感謝を述べてから、花蓮に微笑みかける。国宝級美形とは、誰が言い出したか知らないが、的を得た表現だ。
 花蓮は「アニメオタクじゃなかったら、簡単に今ので恋に落ちてたかもなぁ」と客観的に考察する。慌てて遼が、タイガから遮るように花蓮の前に立ちはだかった。
「安心してよ、元帥閣下から司令官(花蓮)を奪おうなんて思わないから。でもオタ友であることと、兄妹でいることは赦してね」
 タイガは足元の金平糖型『願望の宝石』を拾い上げ、満天の星を仰ぎながら『願望の宝石』を齧る。食べ進めるごとに、タイガの魔力ステータスがゼロからどんどん上昇していく。それに伴って、寿命も延びていく。『願望の宝石』の味は、ソーダ風味の金平糖そのものだった。
 食べ終えた時には、タイガ・アカイシ・グレイの魔力量はアンダラ帝国の辺境伯レベルに達し、寿命も250年増していた。ついでに治癒魔法スキルと造形魔法スキルとアイテムボックスも追加されていた。治癒魔法はともかく、造形魔法スキルは『創世記激闘大戦』のフィギュアやジオラマを作るためだなと、花蓮はいち早く察した。
「改めて、弟。これからも宜しくね」
 花蓮が左手で大型フィギュアを抱きかかえながら、タイガに手を差し伸べる。タイガは満面の笑みを浮かべてガントレットを外し、素手で握手した。
「弟とか言っているけど、花蓮くんはグレイ伯爵家の戸籍から抜けたのだったな」
 瀧宮会長がボソリと呟くと、慌てて遼が花蓮とタイガの握手を強引に解いたのだった。

7.魔獣バーベキュー
 一行は『願望の宝石』の広場から、最初に降り立った海岸へと転移した。
 花蓮は『願望の宝石』で作ったザイール司令官のフィギュア2体を丁寧に梱包して、アイテムボックスに収納した。結局、1体だけではどうにも欲求が収まらず、上半身裸だけは遼が認めなかったので、現在絶賛公開中の映画のワンシーンにあった、戦闘休息中に軍服を脱いで寛ぐ、シャツから胸筋チラ見せザイール司令官フィギュアを創作した。妥協して作ってみたが、上半身裸よりも、チラリと見える胸のほうがエロティックで、花蓮の目はハートになった。
 遼は聖剣アースブレーカーでぶっ壊したいと思ったが、「妾が逆に壊れるから止めてくれ。それにマスター自身も、完全にあの娘から嫌われて二度と許してもらえないぞ?」と聖剣アースブレーカーからの助言もあって、遼はギリギリと歯を食いしばりながら耐えた。
 花蓮はフィギュアを収納すると、今度は未使用箱入りのバーベキューセットと炭を取り出した。調理台、まな板、包丁など調理に必要な一式も共に。
「おっ、浜辺でバーベキューか。久々だな。食材を切っていないなら、俺が下ごしらえしてやるよ」
「あら、気が利くわね。じゃあ、これお願い」
 花蓮がアイテムボックスから出したのは、巨大なドラゴンと3体のオークだった。遼は「ひっ!」と叫んで飛び上がる。
「マンガやラノベでさ、よくドラゴンは最上級和牛よりも美味いと描かれていたから、一度食べてみたいと思ってたのよねー。遼、じゃあそれの下ごしらえお願いね」
 花蓮は調味料一式も出して並べた。遼と瀧宮会長は青ざめるが、オタ友のタイガは興奮気味だ。
「うわー、ドラゴンは僕も一度でいいから食べてみたいと思っていたんですよ。流石、司令官ですね!」
「いや、おまえ…本当にこれが美味そうだと思うのか?」
 遼はドラゴンを指差しながら震える。タイガは遼の様子に首を傾げる。
「マンガでは王道ストーリーですよ。ドラゴンなんて、コチラの世界でも食べるチャンスは無さそうでしたので諦めていましたが、このチャンスを逃す手はありません!」
「だよねぇ。遼が捌かないなら、私がー」
「いや、俺がやる!おまえは刃物を持つな!」
 遼は意を決して拾得物の長剣を出し、適当な大きさにドラゴンを切り捌く。瀧宮会長も顔色を青くさせながら、息子を手伝う。タイガは鼻歌を口ずさみながら、オークを解体し始めた。
「おまえ、妙に手慣れてないか?」
 ぎこちなくドラゴンを捌きながら、遼はタイガの手慣れた様子に驚きを隠せない。
「あ、これは『異世界紀行・困惑と魅惑の食卓』ってマンガで魔獣の解体シーンが詳しく掲載されていたので、その手法を見様見真似で試しているんです。やはりマンガの教養は馬鹿に出来ませんね」
「それ以前に、人間とさほど変わらない姿の豚の化け物を、よく捌けるな」
「ああ、これでも一応は医学部を目指していたので」
「そー言う意味じゃ無いんだが」
 遼と瀧宮会長のモタモタしたドラゴン解体に業を煮やした花蓮は、魔術でドラゴンをスライス肉に捌き、焼肉に必要な分以外はアイテムボックスに収納した。
「まったく、そんなチンタラやっていたら、せっかくの肉が腐るじゃない。ボサッとしてないで、コンロの炭に火をつけてよ」
 花蓮はドラゴン肉をマジックソルトと、焼肉のタレの2種類に味付ける。
 遼と瀧宮会長は、指示通りにバーベキューコンロに炭を入れて火を付ける。だがこれほど気に進まないバーベキューなどあるだろうか?
「…母さんにキャンプと言った手前、野菜と肉はもってきてある。取りあえず、それも焼けばいい」
 瀧宮会長は小声で息子に話しかけ、花蓮には「私もバーベキューコンロを持っているから、出してもいいかな?」と声がけして、日本の食材を食べるためのコンロを出すと、そちらにも炭を入れて火を起こした。
 花蓮の持ってきたコンロではドラゴンとオークを、瀧宮会長のコンロは花蓮の逆鱗に触れないように、先ずは予めカット済みの野菜のみを網の上に並べた。
 ドラゴンとオーク、スライスしてしまえば、見た目だけなら普通の霜降り牛肉と豚肉に代わりは無い。そして実際に焼いてみると、匂いも食べ物らしい良い香りがする。それでも躊躇して野菜を食べる滝宮親子など気にも止めず、花蓮とタイガはドラゴン肉を頬張った。遼は「先ずは少し齧る程度にすればいいのに」と顔を歪ませたが、言葉にはしなかった。
「なにこれ、うまっ!」
「こんな美味しい肉、初めてです!司令官、勲章ものの大手柄ですね!」
 花蓮とタイガは至福の味に感動する。それを聞いた瀧宮会長と遼も、恐る恐る牛肉っぽいドラゴン肉を箸で取り、少し齧って目を見開く。
「何だこれ。ドラゴンってこんな美味いのか?」 
「私も初めて知った。内臓の方は万能薬になると医薬書には書かれていたが、肉が美味いなど聞いたことも無かった」
 滝宮親子のドラゴン肉への箸が急に進み出す。
「こっちのオーク肉も、絶品。臭みがなくて、柔らかくて、でも濃厚な味わい」
「ドラゴン肉もオーク肉も、焼肉のタレよりも、マジックソルトの方がより素材の味を引き出しますね!」
「焼き肉のタレに浸けた方は、丼にすると美味しいかも。いや、ドラゴン肉はすき焼きかしゃぶしゃぶ、オーク肉はトンカツかな」
「すき焼きとトンカツ、食べながらヨダレが出そうな提案ですね!」
「花蓮、ドラゴン肉をもっと出してくれ。これじゃあ全然足りない。それと毎度のことだが、おまえは野菜をもっと食え!」
 遼に言われずともドラゴン肉を出すつもりだったが、こんな究極の肉を食べながら、野菜で胃を満たすのは惜しいとも思う。だが花蓮の取り皿に、遼は焼けたカボチャや玉ねぎ、ピーマンなどを放り込んでいく。仕方なく花蓮は野菜に肉を巻いて食べたが、それもまた絶妙なコラボレーションだった。
 追加で出したドラゴン肉も、2台のコンロで焼いてもあっという間に消え失せる。タイガが捌いたオーク肉も、焼けた傍から消えていく。
「オークはとりあえず、3体しかアイテムボックスに入れてこなかったけど、これだけ美味しいと知っていたなら、倒したオーク全て回収すべきだったわね」
「何なら、俺が今から回収してこようか?」
「もう遅いと思いますよ。他の魔物の餌になっているか、あるいはダンジョンのように島に吸収されたかのどちらかですね」
 遼の申し出を、タイガは否定する。確かに時間がだいぶ経ったいまでは、打ち捨てられた美味なる肉など他の魔物の餌になっていることだろう。それはここでも地球でも同じで、動物と魔獣の違いはあっても、野生の世界では食物連鎖のサイクルが巡っている。
「ドラゴン肉は、まだまだ当分保ちそうね。でもこんなに美味しいと、普通の牛肉じゃ満足できなくなりそう」
「あとマンガと違っている事もありますね。ドラゴン肉を食べると、一時的に魔力量が上がるとなっていましたが、特に変わった様子もありませんし」
「免疫力と回復力は上がっているわよ。ドラゴンの内臓が万能薬って話しは、あながち間違っていないかも」
 花蓮とタイガはオタク知識を繰り広げる。瀧宮会長は興味深げに聞いているが、遼は美味い肉を食べながらオタクトークを聞かされるのは蚊帳の外に追いやられたようで面白くなかった。

 満腹になった後、花蓮は海上に巨大スクリーンを作り出し、現在上映中の『創世記激闘大戦・圧勝編』の映画を映し出した。花蓮は週替わり特典目当てもあって、既に10回映画を観ているので、内容はほぼ暗記しており、脳内再生を具現化するのも容易かった。
 何しろ今回の『圧勝』はタイガの推しの『地球帰還連合軍』ではなく、花蓮が盲愛するザイール司令官所属の『他星系侵略連盟軍』が勝利する、花蓮からすれば神回なのだ。
 タイガにしてみれば、ヒーローの相棒が戦死する辛いストーリーだが、この展開なくしてヒーローの覚醒が無いのも、既刊コミックと雑誌連載を読んでいたタイガは知っていた。
 花蓮とタイガが映画に夢中になっている最中、滝宮親子はバーベキューコンロや食器を洗っていた。
「何がそんなに面白いのかねぇ」
 遼は、映画を観ながら声に出して興奮する花蓮とタイガに呆れ果てる。映画館では静かに鑑賞しなければならないが、他に観客のいないこの場では、声を上げて喜んだり嘆いたり声援を送ったり出来る。
「アイドルのおまえがそれを言ったら駄目じゃないか。虚像と実体の差はあっても、ファンに夢を提供するのは同じだろう?」
 瀧宮会長は語る。そう言う瀧宮会長もまた、花蓮に感化されたのと、主題歌を息子が歌っていることから、貸し切り映画館で鑑賞希望社員家族らを集めて上映会を開いたり、既刊コミックも読破して、オタクの沼に片足を入れかけている。
「映画が終わったら、スクリーンを借りて、おまえのライヴ鑑賞会を行うか」
「無駄、無駄。花蓮はさっさと寝るか帰るかしちまうよ」
 遼の予想は悲しい程に的中した。映画が終わると花蓮が「じゃ、帰ろうか」と、アンダラ帝国へ帰還した。現地解散で日本に直接帰らなかったのは、タイガがまだ瞬間移動を習得していないのと、禁忌の宝物庫に武器を直ちに返す契約をアリオス皇帝と交わしていたからである。
 そして用事の済んだ花蓮は、「明日からまた、映画の特典変わるから、探検が早く終わって良かった~」と言い残し、皇帝への詳細報告は瀧宮会長親子とタイガにぶん投げて、さっさと日本に帰ったのだった。
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