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序章.始まりの前奏曲
4.父親
しおりを挟む剣術の稽古とは名ばかりの素振りをしていた俺の前に現れた父。
「ようやくマシになったか」
「はい」
他に言い方はないのか。
一週間ぶりに顔を見たと思えば落胆したような顔で告げる。
まぁ慣れたけど。
「兄でありながら弟に劣るお前だが、努力すれば銃騎士程度はなれるだろう。歩兵など我が家から出しては末代までの恥さらしになるからな。もっと努力をしろ。お前は努力が足りない」
「心得ました」
「せめて弟のマルスの恥にならないようにな。マルスは既に聖騎士として才能を開花させ新たな魔法を習得済みだ…いくら無能であっても、凡庸でも磨けは技術は習得できるはずだ」
この人は悪気があって言っているのではない。
それが余計に質が悪く事あるごとにマルスと比較し、マルスの恥にならないようにしろだの、やれ努力が足りないだの。
才能がない俺を哀れに思ってか努力をすれば必要最低の技術を身につけられると言うが、その言葉がどれだけ傷ついているか解っているのか。
「父上!」
まぁ、この人は本当に悪気がない分マシと思った。
最悪なのは解ってるこの親子だ。
「アルハイム様、マルスの支度が整いましたわ」
「おお、新しい鎧か。それに我が一族の宝剣が良く似合っているではないか」
「ええ、マルスにピッタリですわ。またスキルが上がりましたのよ」
俺の存在を完全に無視しながら、奥様こと、エドナは父に寄り添いながら微笑む。
第三者から見れば仲睦まじい夫婦に…いや、親子に見えるかもしれない。
実際仲は良好だろうが、正妻である母をないがしろにして追いやっている事すら気づいていない父親に俺は既に諦めている。
「父上、新し技を習得したんです!見てください」
「ああ、エリオルの稽古が終ったら…」
一応俺の稽古を見るつもりだったのだろうが。
「兄上はまだ基本ができていないのですから必要ないと思います。父上の訓練には体力的にも無理ですし、まずはもっと技術をつけた方がいいんじゃないですか」
さりげなく俺をハブって、稽古する価値もないと言っているのは解っている。
ニヤニヤ笑いながら、俺をちらちら見るあの目が訴えている。
そして聞こえないように口パクで。
『出来損ない』
しっかり聞こえている。
本人も聞こえるように言っているけど生憎そんな挑発は乗る気は無い。
こちとら不遇扱いの年季が違うんだからな!
「マルスの言う通りですわ。旦那様は忙しい身ですのに時間は大切に使ってくださいな」
「ああ、そうだったな」
「来週の舞踏祭は同い年の貴族子息や令嬢が集まるのですから、礼服も新調しなくては。マルスの礼服も見てくださいな」
本当に性格が悪いな。
まぁ、男爵令嬢で二女である奥様は魔力を授からなかっただけでなく実家が成り上がりだった。
今でこそ社交界で認められているけど、マルスが生まれるまではただの側室扱いだったのだから。
そう考えると哀れに思えるが、だからと言ってやっていいことと悪いことがあるのだけど。
「エリオル、このまま一人で鍛錬を続けろ。今夜は帰らんが一人でもちゃんと励むのだぞ」
「はいお父様」
「さぁ、参りましょう。そうですわ、エリオル」
去り際に奥様は俺を見て告げる。
「部屋の扉の立て付けが悪いので修理しておいてくださる?貴方得意でしょ」
「プッ…」
この親子、本当に性格が悪いな!
でも耐えるんだ俺、大人になるんだ。
必死に言い聞かせながら笑顔で告げる。
「はい、お任せください」
「…チッ」
俺が笑顔だったのが気に入らず舌打ちする奥様に父は気づいていない。
この人は良く言えば大らかで、悪く言えば鈍く無神経だった。
今も尚お母様が不当な扱いを受けているのに窘めることもせず、側室に好き放題させ贅沢三昧させている。
ラスカル家を取り仕切り、奥向きの仕事をすべてしているのは誰だと思っているんだ。
苛立ちを抑えながら俺は鍛錬を続けていた。
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