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第二章.婚約者は悪役令嬢
27.惨敗
しおりを挟む課題曲と自由曲を弾き終えた俺はと言うと。
「スカッとしましたわ!」
「本当です!あの馬鹿男達の顔を見てお腹を抱えて大笑いしたくなりました!」
現在、屋上のテラスにてお茶を飲みながらレイラとラナリア嬢がこれ以上ないほど上機嫌だった。
「同じ曲であっちはB判定、こっちおはS判定とはな」
「ベルン、言ってやるな。しかも自由曲は取り巻きの一人、ボンドンの一番得意な曲だったんだから大笑いするしかない!」
ボンドン・レスポンス。
子爵家の次男であり、両親は宮廷音楽師団の一員で作曲家でもある。
ボンドン自身も優れた演奏家であるが、長男は現役作曲家で既に宮廷音楽団の一軍になる程の優秀でコンサートマスターを任されている。
対するボンドンはそれになりに優秀だが、兄程ではなく。
自信の得意とする楽器もバイオリンなのだが、俺は専攻楽器以外で彼より評価された後に、彼が最も得意とする曲をアレンジしてフルートを奏でたことでさらにショックを受けて、授業中にもかかわらず教室から逃げ出してしまった。
「逃げ出すとはなんて情けないのかしら」
「レイラ様、所詮はあの男に音楽家としての力量がないのです。優秀な兄に劣等感を抱いているだけ…」
「俺もアイツを庇う気は無いが、手厳しいなラナリア嬢」
「あら?当然ではありませんか?散々他人を馬鹿にして見下したのですから」
あの場で俺を馬鹿にしあざ笑った以上は誰も庇うことはない。
人を見下すならば、それなりの覚悟を持たなくてはならないのだから。
「俺は他人をどうこう言えるほどの完璧さはない…人間は不完全な生き物だよ」
「エリオル様」
「自分が未熟ならば他人を批判する資格はない。彼等は自分こそが特別だと慢心していた結果だ」
俺はあえて大人しくしていたのはこれだ。
余計な言葉を放ってしまえば後々噂になり、悪い方に向くだろう。
だからこそあえて大人しくした。
「けれど、レントン殿下は彼等とは違ったな」
「ああ、お前の演奏を聞いて思う所があったんだろう」
当初は俺を見下していたように思えるが、演奏前の口論で少しだけ接し方が変わった。
そして演奏が終わった後に言われた言葉を思い出す。
「まぁまぁの演奏だ…悪くない」
自称お姫様が放心する中、そっと告げた言葉に驚きながらも思ったんだ。
本当の芸術を知る人間は、どんな嫌いな人間であっても賛美する。
そして芸術を心から愛する人に悪人はいない。
俺はレントン殿下をよく知らない。
なのに先入観で彼のことを決めつけようとしていたのかもしれない。
「俺はレントン殿下が嫌いではない」
「は?」
「むしろ好きかもしれない」
「はい?」
あの人は少し捻くれているだけなのではと思った。
立場が違っていれば彼とは友人になれるんじゃないかとさえ。
「エリオル様!何を言ってますの!」
「レイラ様落ち着いてください!何かの間違いですから!」
「なんてことですの?あの馬鹿王子に心を奪われるなど!」
俺はレントン殿下を知りたくなったのだが、少し誤解を招きそうな発言をした所為で再びレイラに誤解を与えてしまう結果となるのだった。
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