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96.一番恐ろしい人
しおりを挟む同盟を結んで一安心と思いきや、多額の借金に、違法的な金を借りていたステンシル侯爵家は裁判をするまでもなく取り潰しとなり、爵位も領地も返上となった。
後から知った話だが、こっそり違法となる麻薬の薬草を作り、売りさばこうとしていたそうだ。
背後には貴族派が潜んでおり、母上は以前から貴族派を叩く機会を伺っていたのでこれ幸いと芋蔓形式で彼等の悪事を明らかにした。
ある意味彼は餌だったのだろう。
今回の問題が起きなくても、罪に手を染めなくても既に多額の借金を背負い領民の不満は爆発寸前だったので一揆をされてもおかしくない状況だったとか。
タイミングも丁度良かったらしい。
本当に恐ろしい人だ。
国を出る前に呼ばれた俺は母上に言われたのだ。
「覚えていなさい、相手を徹底的に潰すにはまずは最高の役者になら悪手はならないわ。自分はさも非力ですと演じて相手が油断した所を叩くのよ?二度と這い上がれないようにね?」
「母上…」
「肉体的苦しみは勿論だけど、精神的な苦痛を与えて二度と逆らえない恐怖を味合わせて主導権を握る。いいわね?」
声には出さず頷くしかできなかった。
俺は今まで我が家の影の支配者とも思ったが、母上は国の影の支配者なのではないか?
シメリス帝国の影の女王は伯母上ということか。
「一年前の茶番劇も、貴方は運が良かったわ。最悪の事態を申すこそ考えなさい」
「善処いたします」
否定はできない。
あの時俺は隣国に渡り騎士として生きる道だけを考えていたが。
ジャックやロビンがいなかったら?
母上が先手を打たず、両陛下の手助けがなかったら?
もしかしたら貴族派の奴らが先に手を打っていたら?
考えただけでゾッとする。
もしかしたら俺は、イライザと無理矢理結婚させられていた未来も考えられるのかもしれない。
「愛する者を守りたいならば、もっと太く、強くなりなさい。常に相手に感情を読まれてはなりません。まぁ、アイリスの方がそこは優れているかもしれないわね」
「はい」
情けない話であるが、アイリスの方がずつと感情の隠し方も上手だ。
長年虐げられて来たからなのかもしれないが。
オレよりもアイリスの方がずっと為政者としての顔を持っている気がするな。
「今回は敵がお馬鹿だったからあっさり終わりましたが」
「そのお馬鹿な敵に、全面戦争を仕掛けたんですか」
「どんな敵にも手加減はしては行けません。これも優しだですわ」
何処が優しさだ!
彼等に罪状を伝える時の母上の表情はこれ以上無い程の満面の笑みだっただろう。
絶対にざまぁできて喜んでいたのはアイリスよりも母上だろう。
「しかし、このような因果関係があったとは思いませんでした」
「そうですね」
こんな結末が待っているとは、俺も予想外だった。
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