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第二章

8.薔薇園

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ディーノの計らいにより私達は皇宮のある一室に招かれた。


「皆、楽にしてくれ」

ディーノが傍付きの侍女にお茶を用意させ、私達を持て成してくれた。


「ディーノ殿下、私達は侍女でございます。そのような」

「ここでは楽にしてくれ。その方が助かる」

「カノン、ディーノ殿下がおっしゃっているのよ」

「かしこまりました」


未だに緊張するカノンは渋々であるが頭を下げながら了承する。


「では…大丈夫か?君」

「へ…はっ…はい!」

さっきからオディールの様子がおかしい。

「オディール、貴女は部屋に戻っていてもいいのよ?私達だけでも十分だし」

「いいえ、そのような!」


やっぱりおかしいわ。
さっきからディーノを見て真っ赤になっている。


「本当に罪な男ね?また誘惑して」

「何がだ?」


意味深な事を言うシシィー様はニヤニヤ笑うばかりだった。


「けれど、貴方の配慮にはお礼を言わなくてはなりませんわ」

「別に…」

「あのまま、貴方が間に入ってくださらなければ決闘を申し込んだのではなくて



お兄様?


えっ?


「シンシア皇女殿下、皆が驚いてますわ」

「あら、そう?」


悪戯が成功した表情をしているシシィー様だったが私は頭が働かなかった。


「相変わらずだな」

「あら?お兄様も相変わらずです事。まったく帝都にもほとんど帰って来ませんでしたから父が心配してましてよ」

「僕の立場を考えてくれ」


親し気に話す二人の笑顔はどことなく似通う部分がある。


「シシィー様…」

「貴女も噂だけは知っているのではなくて?十五年前に廃嫡となり消された皇子」



まだ私が領地にいた頃で、シシィー様と出会う前の事だ。


噂では聞いたことがある。
陛下には皇后陛下を迎える前に身分が低い妃がいらしたとか。

その方は後に皇妃として迎えられるも、産後の肥立ちが悪く亡くなられたとか。


「ローレンツ第一皇子は私の異母兄妹ですわ」

「そうだったんですか…」

「これは公に知る者が少ないから口外できないのだけど…貴女達は私が最も信頼する侍女だからこそ明かします。アルシア妃は父が皇帝の座に就く前に妃として見初めた女性でした。しかし、周りからは反対されてました」

「しかし、父が皇帝の座に就いた頃には既に母のお腹に俺がいた。そんな理由もあって母を廃妃にすることで言い争いが続いたが、皇后様がまだ若い事もあったんだ」

「アルシア妃は身分こそ低いですが、皇妃としての器があったと聞きます。年若い母は補佐としても必要だと押されました」


けれど違和感を感じる。
どうして私達の耳にも入らなかったのだろうか。


正妻という扱いではないにしろ皇妃は第二夫人でもある。
しかもただの皇妃ではない。

正式に皇后に認められた皇妃となれば特別なはず。


「身分の低さ故と皇妃が皇子を生んだことが火種になりましたわ。出産して二年後、アルシア妃は亡くなりましたし」

「僕は厄介な存在だったんだ。その後に側妃…現在の皇妃にとっては脅威だったんだ」

「なっ…あの女」

オディールの目の色が変わる。
現在皇妃として名を上げている妃の名はジョバンナ妃。

皇妃として振舞っているが、正式皇妃としての実権は弱かったも噂がある。

ただし後ろ盾が皇后陛下よりも強い事から、好き放題をしている事で皇族派からは敵視されている要注意人物だった。



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