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第二章.新たな婚約

3.紙より薄い縁

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湯殿から上がった後はクローネと散歩だった。
部屋に籠ってばかりでは体に良くないので時折歩く練習もしている。


しているのだが…



「ジルベルト様、どうかお気になさらず」

「好きでしているんだ」


何故か、外に出る時は必ずと言って良いほどジルベルト様が付き添ってくれた。

嬉しいけど申し訳ない。


「傷口の塞がりが早く、侍医が驚いていた」

「そうなんですか」

「ああ、普通なら後一か月は寝たきりなんだと」


昔から体は頑丈だった気がする。
病気にも滅多にかかったことはなかったし、前世を思い出したあの時ぐらいかな?


「最初の検診では歩けても普段の生活に戻るのは難しいと言われていただが、これほどまで回復力があるのを驚いていてね」

「まぁ…では」

「ああ、リハビリを続ければ元通りの生活ができるし、腕のいい治癒師に見せれば傷跡も残らない」


ジルベルト様の言葉にクローネは涙を流しながら喜んだけど、私は喜べない。

傷が綺麗になくなったらまずいんじゃ?
伯爵家に戻された後に、また婚約を結び直されるかもしれない。

何より、今回の事でさらに私の立場は悪くなる。
最悪の状態を考えなくてはならない状況に顔が強張って行く。


「どうしたんだい?」

「いいえ、なんでもありません」

正直、傷が残っても良かった。
ブライトンとの縁が切れて喜んでいるし、関わりたくなかった。


「少し風が冷たくなったね。部屋に戻ろう」

「はい…」


この穏やかな生活は私はあまりにも幸福だったから忘れていた。


束の間の幸せであるのに。




「お嬢様、お疲れになられたのですか?」

「大丈夫」

「そうは申されましても顔色が悪いですわ」

クローネが心配してくれるけど笑う余裕はなかった。

王都に戻り伯爵家には戻りたくないが、両親に無理矢理連れ戻されたらと思うと頭が痛い。


「お嬢様、ジルベルト殿下は素敵な方ですわ」

「ん?」

「クローネは、お嬢様に幸福な結婚をしていただきたいのです」


何故、ジルベルト様が出て来るのだろうか?


でも、結婚は懲り懲りだなんて口が裂けても言えない。


「クローネ、ごめんね」

「お嬢様が謝罪される理由が何処にありましょうか」

私の立場が弱いばかりに苦労をかけてしまっている。


でも、私は伯爵家に戻る気は無い。
傷が綺麗に消えようと、消えまいと、あの家を出る気でいる。


ジュリアス様との婚約が無くなったことは同情するけど、姉の態度にも問題があるだろうし。


これ以上関わりたくない。


あの時私を見捨てて逃げた二人を見て、思い知ったのかもしれない。

身内の情など薄っぺらいのだと。
妹が重傷を負っても手紙すら出さない薄情な姉と、婚約解消になったことを何も言わない元婚約者。


私は彼等に対して失望感だけが残っていた。

だから、これで縁が切れるなら喜ぶべきかもしれない。



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