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因果の鎖
しおりを挟むそれはきっかけにすぎなかった。
初めて顔を合わせた時からどうしても劣等感が拭い去れなかった。
「今日からお前の母と娘になる人だ。挨拶を」
「ユスティーナと申します」
美しい顔立ちに,美しい作法。
何から何まで自分と違うと思い知らされた。
けれどその憂いは直ぐに取り払われる。
父は愛人である母を愛し、娘であるルクレチアを溺愛していた。
「お父様!私もこのドレスが欲しいわ!」
「譲ってあげなさいユスティーナ。お前は姉なのだから」
「でも…解りました」
貴族の間では政略結婚に愛は必要なく利益の追求のみ。
政略結婚で結ばれたユスティーナの母と違い、ルクレチアの母は愛で結ばれたのだから、父親から溺愛されている事にやりたい放題をしていた。
ユスティーナの大事なものは全て奪って来た。
夜会では差をつけるべくゴージャスなどれを選びユスティーナのはみすぼらしいドレス。
「きゃあ!」
「ユスティーナ…」
お茶会ではわざとドレスを汚し堆積させるように仕向けた。
「お茶会で粗相をするとは…妹に劣るとはなんと恥知らずな」
「お父様、そんなに怒らないで上げてください」
「本当にお前は優しい自慢の娘だ」
ルクレチアは頭を働かし、父親の前では姉思いの優しい妹を演じ社交界でも男に媚びを売っていた。
しだいにユスティーナは居場所がなくありつつある中、縁談の話が持ち上がる。
跡継ぎがいないことから婿養子を迎えることになり。
本来ならば長女の婚約者になるがルクレチアは得意の色香で誘惑し婚約者を寝取り。
邸からユスティーナを追い出した。
目障りな存在さえいなくなれば侯爵家は自分のモノ。
全ては自分の思い通りになったかと思ったが、侯爵家は父親の代から借金を抱えており借金は膨れ上がり、時期を同じくして疫病が逸った。
その所為で父親は多額の借金を残し亡くなり。
母親は有り金を持ちだして愛人と駆け落ちし、夫も愛人と駆け落ちをして家は没落した。
なのに‥‥
「見て、プライム伯爵夫妻よ!!」
「なんて美しいのかしら!」
貧乏貴族だったプライム家は事業が成功し資産家になり。
疫病に聞く薬草を生産したことから出世をした。
「いつ見ても素敵ね」
「セルジオ様は奥様一筋で…少し変わっていらっしゃるけど」
「でも羨ましいわ」
目の前には散々あ笑って来たユスティーナが憧憬の的となっていた。
「ユスティーナ様は慈善活動をなさっていて…本当に素晴らしいですわ」
「なんでも王妃様にサロンの出入りを許されたそうですわ!」
王妃からも目をかけられ。
消えていた劣等感が蘇り嫉妬を抱く。
沸々と湧き上がる、黒い感情が支配されていく。
(憎い、ユスティーナ)
こんな惨めな思いをしたルクレチアは復讐を誓った。
偶然を装ってユスティーナに近づき。
何食わぬ顔で邸に訪れた毒を薬に混ぜて暗殺した。
愛する妻が病死して弱り切っている所に漬け込みセルジオの妻に収まったが、既にセルジオには娘がいた。
「アレーシャです」
礼儀ただしく挨拶をする姿がかつての姉と瓜二つ。
自分達に優しく微笑みかける姿すら疎ましくして仕方なく。
「ねぇ聞いた?」
「ええ、プライム伯爵夫人はお金目当てで、嫁いだみたいよ」
「なんて意地汚いのかしら」
又社交の場では散々中傷の的になり。
宮廷に呼ばれるようになっても。
「王妃様!」
「王妃様よ…お声をかけていただかなくては!」
舞踏会の席では王妃に声をかけてもらおうと思っても。
無視をされる。
(なっ…なんでよ!!)
「ごきげんようプライム伯爵。久しぶりではありませんか」
「ご機嫌麗しゅうございます」
ルクレチアは無視されるのにセルジオには挨拶をする王妃はその後も同じだった。
「御息女は日に日に美しく成長して将来が楽しみだわ」
「ありがとうございます」
あげく王妃はアレーシャを気に入っていて、その後サーシャとの御付き侍女に命じるようになった。
(どうして…どうしてなの!)
王族に取り入ろうとしても上手く行かず、苛立ちを抱き。
日に日に美しく成長するアレーシャはユスティーナにそっくりになり悪意が膨れ上がって行き止めらなくなっていた。
「私から全てを奪って…許せない」
何をしてもユスティーナの影が離れない。
影を殺すにはその元凶を経つしかないと思った。
地下牢にて見下ろすルクレチアは意識を失ったアレーシャに殺意を向ける。
「クルエラ様の手を煩わせる必要もない」
全てを奪われたなら今ここで奪い返してやろうと思った最中。
「うっ…」
薬で眠らせられたアレーシャが意識を取り戻した。
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