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第四章.魔法学園
17.暗躍
しおりを挟むその頃、中等部にある一室にて。
「今すぐあの馬鹿女を射殺しなさい」
「ひぃっ!」
傍付きの侍従は悲鳴を上げるながら震えていた。
「己の身分も弁えずに、未来の王太子妃に手を出すとは…なんということですの?」
「同感ですわ。ですが、ジョアンナ様、射殺はお止めになった方が」
傍に仕える侍女に他の者達は安心する。
大人な対応で、ジョアンナを静止してくれたかのように思えたのだが。
「やるなら物的証拠を残さないように事故死がよろしいかと」
(((こっちのほうが酷い!)))
止めるどころか、暗殺を促す行為をする侍女に周りの者は眩暈がした。
「マリー様が寛大であることを良い事にやりたい放題ですわね…本当に不愉快ですわ。今すぐ鞭で叩いてやりたいのですが、今は様子を見ましょう」
「何もなさらないのですか?ハリソン夫人に報告することも可能ですのに」
王宮で古株の侍女でもあるルイーザがマリーを可愛がっているのは有名な話だった。
使用人としてはどうかと思うかもしれないが、ルイーザにとっては娘同然に接しているので、マリーに危害を加えようものならサングリアを潰す為にあの手この手を使うだろう。
「それは最終手段にしますわ。今はマリー様に危害がないならば問題ありません」
「かしこまりました。影の者を使わせましょう」
「ええ、お願いね」
傍付きの侍女は速やかにその場を離れ、他の侍従も去って行く。
「今さら、王太子妃の座が欲しい…とは思わないけど。やはり何か企てているようね」
ジョアンナは一人きりになる中、書類を手に取る。
「何故、婚約者候補から降りて跡継ぎになると言い出したのか…王都から離れたい理由が未だに解らないわ」
ジョアンナはこの五年間、ずっと考えていた。
王都育ちのお嬢様であるサングリアが何故、突然になって婚約者を辞退したのか。
「あれだけ王太子妃になることに執着していた彼女が諦めた理由は何?貴族派は動きは見せていないし…第一、彼女がそんな頭が良いとは思えない」
王太子妃となることで不利になる何かあるのか。
「彼女が領地に逃げた明確な理由を明らかにしなくては対処できないわ」
頭をフル回転にして働かせながらも、未だにサングリアの行動が読めなかった。
「彼女は公爵家の責務を全うするような責任感なんて見えない…本当に頭が痛いわね」
まだ貴族派の勢力は弱い。
王族派の勢力の方が強く、極秘であるが、辺境貴族達も着実に味方につけつつある状況の中、滅多な行動はできないはず。
ならば他に見落としている部分はないかと考え込む中、一枚の書類が落ちる。
「これは…」
一人の生徒のプロフィールが書かれていた物だった。
「アネット・キャンドル…」
ぽつりと呟く声は風に消されてしまい、誰の耳に入ることはなかった。
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