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第五章.悪女と聖女
3.三年前
しおりを挟む全てがおかしくなったのは五年前からだった。
それまでは順風満帆とは行かなくても上手く行っていた。
公爵家の長女として社交界では完璧な令嬢と呼ばれ、王太子妃候補としても有望視されていたはずだった。
同じ派閥のジョアンナとは不仲であったが、元婚約者でもある間柄では仲良くなれるはずがない。
サングリアは劣等感と醜い嫉妬心を抱いているのだと思った。
けれど、ジョアンナの態度は婚約者候補だから嫉妬しているのわけではなかった。
三年前、偶然にもジョアンナと再会をした。
「ごきげんよう。お元気そうでなによりですわね?」
「ジョアンナ様…何しにいらしたのですか」
「まぁ、相変わらず自意識過剰な方。私は遠路はるばる貴女に会いに来るほど暇ではなくてよ?」
サンチェスト領地の薬草農園に視察に来ていたジョアンナは相変わらずな態度だった。
「ジョアンナ様、お待たせしました」
「いいえ、無理を言ったのは私ですもの」
火花を散らしている中、タイミングよく現れたチャールズは花束を持っていた。
「チャールズ…」
「サングリア?どうしたんだ?君がいるなんて珍しいな」
「別に私の勝手ですわ」
素っ気ない態度を取るサングリアは突き放すような言い方をする。
「相変わらずですわね、これでは新しい婚約もまた破棄になってしまいますわよ」
「大きなお世話ですわ。それよりも何ですの?それは」
「ああ、ジョアンナ様にマリーローズが欲しいと言われてね」
「は?」
聞いたことがない薔薇だと思ったサングリアは首をかしげた。
「モーリス侯爵夫人から伺いましたの。この農園にはマリー様の名前がついた、とても美しい薔薇が咲いていると。王妃陛下が是非欲しいと仰せられまして、凍らせてブリザードフラワーにして持ち帰ろうと思いまして」
「は?」
「王妃陛下はマリー様が遠い王都で故郷が恋しいと思っているのではと気に病んでいますのよ」
長らく公の場で出てこなかった王妃だったが、不治の病が完治したことを噂で耳にした。
今ではすっかり回復して公務にも出ていると聞いているが、婚約者候補にすぎないマリーにそこまでの配慮をする意味が解らない。
「いくら婚約者候補でもやり過ぎではありませんの?」
「サングリア?何を言うんだ」
「だって、婚約者候補だとしても…あくまで候補ですわ」
確実に決まったわけじゃない。
他の有力は候補が現れればマリーは婚約者から外されるだろうと思っている。
「何を言うんだ…マリーは」
「ありえませんわ。貴女の時とは違いますの。我がノルマディア公爵を筆頭に王族派はマリー様の後ろ盾となっていますのよ?ウィリッド公爵夫人の後ろ盾もありますし?」
「えっ、西の帝国の公爵夫人が!」
ジョアンナの言葉は信じがたいものだった。
公爵令嬢とはいえど、田舎令嬢でしかないマリーにそんな大物が後ろ盾に就くなんてありえないし、信じがたかったのだから。
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