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第五章.悪女と聖女
4.憎しみの始まり
しおりを挟む信じたくないと思ったが、ジョアンナはくだらない嘘は言わない。
特に、幼少期からサングリアの事を好ましく思っていないので、こんな嘘をつく理由もなかった。
「私を嫌っていたではありませんか…なのに何故!」
サングリアを敵視していたのならば、妹であるマリーに良い感情を持つことなどありえないとも思った。
「あら?私は特になんとも思ってませんわ」
「なんですって?」
「その辺に飛んでいる蠅を気にしませんわよ?」
さらに酷い一言を告げられる。
関心がないと言われるぐらいなら、嫌いだと言われた方がずっとマシだった。
「それに姉君が性悪であっても、妹君まで同類なんて思いませんわ。それに兄弟に姉妹は、片方がダメダメだと、片方はしっかりした性格になると平民の間で噂されてしましたが、その通りですわね?」
(この女ぁ!)
サングリアは耐えがたかった。
幼少期から完璧な令嬢と振る舞い、美しいとまで言われて来たのに。
出来の悪い妹の方がここまでちやほやされるのが許されなかった。
「貴女はなにもできませんもの?ただの清楚な令嬢なんて沢山いますわ…でも、薬学に詳しく、医療知識を持つ令嬢はどれだけいますかしら?」
「何を…」
「心弱きものに寄り添える令嬢はどれだけいますでしょうか…権力を持つ者は孤独ですわ。その孤独を拭い去ってくださる方は多くいませんわ。マリー様はその少ない人に入ります。礼儀作法?美貌?くだらないですわ」
ジョアンナの言葉はサングリアをこれ以上無い程傷つけた。
本人は気にも留めずにマリーがどれだけ素晴らしいか賛美を続けられ、耳を塞ぎたくなった。
「私は貴女を好きではありませんでしたわ。でも、マリー様を殿下の婚約者に押し立ててくださったことは感謝しております」
「感謝?」
「ええ、マリー様でなければ王妃陛下は助からなかったでしょうし、殿下の心の闇を救うことも、王族派の貴族を一つにすることも、王宮の侍女達の結束力を固めることもままならなかったでしょう」
現在王宮の侍女は、大幅な入れ替え行っていた。
当初より、王族に反旗を翻そうとしてた手の者や、マリーに対して反感を持つ者はすべて追放した。
人材の見直しに、身分は低くとも忠誠心のある侍女に入れ替えたのだ。
礼儀作法がまだまだなマリーは、家庭教師達からも鍛え替えがあると言われていたので、彼等の結束力を高めることもできた。
「私達のような旧貴族派は新貴族派との隔たりが多いのです。ですが、マリー様は他人に警戒心を抱かせず、懐に入ることにかけては天才的ですわ。おかげで、下級貴族との隔たりが減りましたのよ」
「そんなの…」
「ええ、貴女は王宮では見下していましたものね?」
蔑んだ目で見られ、サングリアは愕然としするも、ジョアンナは無視をしてチャールズを見る。
「チャールズ様、貴女はこれまでマリー様を大切に慈しまれました。今のマリー様は貴方様なくしてありえません」
「ジョアンナ様…そんな」
「従兄妹であり、婚約者で会った貴方様の導きを無駄には致しません。必ずあの方をお守りしますわ」
サングリアとは雲泥の差の接し方をし、微笑みを浮かべる。
「貴方様の功績は陛下も耳にしておられます。サンチェスト領地の作物が他の領地よりも豊作なのも、貴方様の才能ですわ」
「身に余る光栄でございます」
「本当に謙虚な方。時期が来たら貴方様に恩賞が授けられるでしょう。それまでお頑張り遊ばされますように」
「はい」
この時からだった。
サングリアの中でマリーに対する憎しみが酷くなったのは。
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