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第五章.悪女と聖女

12.終わりの瞬間

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馬車から見えたのは、忌むべき少女が笑顔を浮かべる姿だった。

サングリアはその横顔を見た瞬間、いいようのない黒い感情に支配されてしまった。


誰の所為でこんな目に合ったのか。

誰の所為でこんな仕打ちを受けたのか。


すべての元凶を絶たなくては。


そう思って、馬車を止めさせ、御者の止める声も聞かずに走った。


王太子妃としての地位を奪われ、社交界では笑いものにされ、あげくの果てに両親から感動を言い渡されたサングリアにはもう何も残っていない。

このまま日陰に暮らすなんて屈辱的だと思った。


(こんなの許されないわ!)


髪を靡かせながら走り、肩で息をしながらまっすぐに走り、骨董品屋に売られているランプを奪った。

「ちょっと、何するんだアンタ!」

「泥棒だ!」


骨董品屋の女主人は商品を勝手に奪ったサングリアに悲鳴を上げるも、そのランプを投げた。


「アンタの所為で…この泥棒猫が!!」


「えっ?」


投げられたランプはまっすぐに投げられた。


「アネット!!」

誰かが少女の名を呼ぼうとした瞬間、ランプの炎がアネットの服に当たり燃えてしまった。

「きゃあああ!」

「火が!」

スカートの裾が燃えるも、傍にいた護衛が急いで魔法で炎を消したことで大事に至らなかったが、ランプを盗み、アネットに投げたことで騎士に拘束される。


「何をするの!」

「貴様、聖女様に何をするか!」

「聖女…悪女の間違いでしょ!この娼婦が!私からすべてを奪った極悪人…アンタさえいなければ!!」


人が何かを奪われた時は悲しみに耐えながら泣くか、すべてを恨むかの一つだった。
サングリアは憎むことを選び、すべてを憎み恨んだ。


そしてその目は恐ろしい復讐心を抱くような目で、周りの人々は告げた。


「魔女だ…あの女は魔女だ!」

「なんて恐ろしいんだ!」


「聖女様を殺そうとするなんて!」


サングリアは魔女として罵倒を浴びせられ、本当の意味ですべての人を敵に回した。

王都で起きた事件は新聞にも書かれてしまい、誰一人として彼女の心に寄り添うことはなかった。


唯一、彼女の身を案じていたのはマリーだけだったが、その数日後。


サングリアが国外追放の身になってすぐ事。
公爵家は取り潰しになり一族揃って隣国に身を寄せるも、病状が悪化したマリーは帰らぬ人となった。


その後、両親は悲しみ泣きながら暮らし、サングリアと会おう事はなかった。

その後サングリアは誰にも心許すことなく、貧しい修道院で孤立しながら病に倒れてしまった。


そして次に目が覚めた時、時間が逆行していたのだった。


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