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第一章
プロローグ
しおりを挟む正義の天秤を掲げて。
悪人に制裁を。
正義の女神の女神の名の元に。
その日を精一杯生きる人に救いを。
乙女の涙を踏みにじる悪人に情けは不要。
四大大陸の一つ、グランパニア帝国。
千年以上の歴史を持ち、君主は女性と珍しいが、女帝と呼ばれる女王により国は安定していた。
表向きでは――。
「女王陛下、お呼びでございますか」
「キャサリン、貴女に大事な任務を任せたいのです」
大広間にて、グランパニア帝国の女帝。
この帝国を統べ、他国から恐れられる存在だった。
今の世では珍しい恋愛結婚である皇配を無くされた後は君主として国を、民を守るべく斬新的な政治を行ってこられた。
常に苦悩が多い女王陛下は他国の問題に胸を痛めておられた。
「同盟関係にある国で、一人の貴族令嬢が自殺を図ったそうです」
「自殺…」
「毒を飲んだと聞きますが、その令嬢は我が国と浅からぬ縁のある令嬢。しかも真面な調査がされずに自殺とかたずけられました」
「それは…」
いかに中位貴族であろうとも怪しく思う。
「他にも数名の令嬢が川に身を投げる行為も増えているのです。原因は男女関係によるものです」
「男女関係?」
「聞けば、婚約者に婚約破棄をつきつけられ、身を投げた令嬢は不義を働いたとか…」
不義を働いて自殺なんておかしい。
「弁護士が穏便に事を図ったと聞きますが、隣国の様子を探ってくれまいか?貴女にしか頼めぬのです。私の信頼する懐刀よ」
「拝命いたします」
敬愛する我が君の命令。
聞かないわけには行かないのだから。
「どうか無事で」
「お任せください」
何時の世もか弱い乙女が泣く時代。
そんな時代に終止符を打たなくてはならない。
美しくお優しい我が君が望む国づくりの為。
そして私自身の為に。
「もう辞めたくなるわ、この仕事」
王宮勤め。
地方出身者の下級貴族にとっては憧れの職業。
厳しい適正試験を受けた後に別れるのは侍女と女官。
国によって仕事は様々であるが侍女は身の回りの世話を行い執務の補佐をし、女官は皇族、王族の補佐を許されている。
侍女の場合は特定の貴族に使えるが女官は王宮に務め王族に仕える官人だった。
「私達は何の為に侍女になったのか」
「先日、婚約破棄をされた令嬢の傍付きの侍女が身が病んで川に身を投げたそうね」
「私の先輩侍女だったわ」
「婚約破棄をしておきながら自分は被害者だとか言って多額の慰謝料を請求して、社交界でも噂を吹聴させるなんて酷すぎるわ」
「このままじゃ人間じゃなくなるような気がする」
華やかなイメージのある侍女。
しかしその裏では主の命令ならば人としてあるまじきこともしなくてはならない。
最悪の場合。
「子爵家の侍女はお子息と恋仲になったとかで、追放されたとか」
「え…あの子、婚約者がいたじゃない?ないわよ」
「濡れ衣よ」
なんらかの問題を起こした貴族の子息の責任を擦り付けられる事も少なく無かった。
「憧れの職業の蓋をあければ…なんてね」
「ええ」
被害者となるのは弱い立場だった。
そして現在、クレシル王国が抱えている問題は外交問題にも発展していた。
それは茶番劇のような事件。
婚約破棄ブームだった。
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