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第一章
18あの日①
しおりを挟む何もかも持っている彼女が羨ましかった。
だから一つだけ貰ってもいいんじゃないかって思っただけ。
エミリーは幼い頃から父親に認識される事無く、母と二人きりだった。
邸内の離れに住まう母と共に肩身の狭い思いをして来たが、14歳を迎えた頃に母親と共に邸から追い出され、貧民街と呼ばれる場所で暮らしていた。
幸運にもお針子だった母の伝手で、王都内でも大きな商会に入る事ができた。
当初、エミリーを気に入り、採用してくれたのがキャスティ商会だった。
それからの日々は大変だった。
読み書きも満足できず計算もできないエミリーに回って来る仕事は雑用ばかりだった。
それでも必死に学び、母がお針子だった事もあり雑用の仕事をこなしながらセンスの良さを買われウェディングプランナーの仕事を進められた。
エミリーは容姿が美しく、年若い事もあり斬新なアイデアをだすことで商会の幹部からも認められるようになった。
その矢先に一に前になる証として一人の貴族令嬢のアドバイザーを任された。
「初めまして、カナリア・ウィスターです」
「エミリー・エスタークでございます」
背筋をピンと伸ばし美しい言葉を話し。
流れるような美しい所作は貴族令嬢そのものだったが、邸にいた時の貴族とは異なっていたのは。
「エミリー、カナリア様は王宮でも最年少で女官になられた優秀な方だ。失礼のないように」
「そんな持ち上げないでください」
「何をおっしゃられますか。ウィスター夫妻はそろって王宮に務められる官僚で、貴女は王妃陛下直下の女官様ではありませんか」
(才色兼備…)
スキンと胸が痛んだ。
「くれぐれも子爵夫人に仰せつかっています」
「どうか気にしないでください」
「いいえ、万一不備が御座いましたら首が飛びます。ご多忙な子爵様はご息女の晴れ姿を本当に楽しみにされてますので」
「もう…お父様ったら」
絵に書いたような親子関係にも見えた。
だが、その打ち合わせに来ないという事はも仕方ら虚勢なのかとも思ったエミリーだったが。
「お父様はお忙しいのでしょうか…花嫁様お一人でいらっしゃる事は珍しく」
「エミリー!失礼だろう」
「いいんですよ。父は新居の物件を見に行っていまして…少し遅れますわ」
「新居…」
「ええ」
貴族令嬢は嫁いだら嫁ぎ先の家に住まうか、新しい家を探す我が、花嫁側の父親が新居を用意するのは珍しい。
「物件の方もこちらで吟味させていただきましたが…お金に糸目はつけない。セキュリティーと外観は生活感があり、カナリア様に相応しい邸をとの事でした」
「そんなお金があるなら寄付に回すべきなのですが」
「親心でしょう。子爵様は宰相閣下の補佐官として多忙故い、カナリア様に寂しい思いをさせたと」
(寂しい思い…?)
エミリーの心の仲がじわじわと黒く染まって行く。
父親から一切の愛情を受けなかった自分とはまるで違う事に嫉妬心を抱き始めたのだ。
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