41 / 408
第二部メトロ学園へ入学
6.乗馬
しおりを挟む昼休みが終わり次の授業は乗馬だった。
「では、乗馬の訓練を始めます」
グループに別れて一人ずつ乗馬をすることになっていたがここでも嫌がらせは起こる。
「エステル様にお手本をしていただいたらどうです?俺達と違って乗馬だって上手いでしょうし?」
「女性で騎士科に入るぐらいですし。一番大きな馬で」
ニヤニヤと笑う男達はエステルを大勢の前で恥をかかせようとしている。
「しかし…」
教師は冷や汗を流す。
「私は構いません」
「では、誰か手綱を」
台を用意させ手綱を握らせるように言おうとするも。
「問題ありません」
エステルは補佐をすることになっている騎士科の上級生から手綱を受け取る。
「えっ…危ないですよ!」
「大丈夫です」
一番体格が大きく暴れ馬とされている馬は警戒心を持つ。
「ヒヒィン!!」
「危ない!!」
馬は暴れ出しエステルに襲い掛かろうとする。
「ブハッ…」
「いい気味だぜ」
このまま踏みつけられると思いクラスメイトは大笑いをしたが…
手綱をしっかり握り、即座に鐙に足を引っかけて乗る。
「どぉ、どぉ…」
「ブルっ…」
手綱を強く引いて落ち着かせる。
すると馬はエステルの指示に従って大人しくなり頭下げる。
「「「なっ!!」」」
学園内でも扱いが難しいと言われる馬を一瞬で乗りこなす。
「完璧です」
上級生が拍手を送る。
いくら経験者でも慣れていない馬を乗りこなすのには時間がかかる。
暴れ馬を従わせるのは至難の業だったが、エステルは近衛騎士に乗馬の訓練をしっかり受けていたので楽勝だった。
「嘘だろ…あの馬は上級生でも乗りこなすのが難しいんだぞ」
「何人も落馬しているのに」
他のクラスメイトは予想外の展開に驚く。
(クソっ!)
恥をかかせるどころか、上級生に拍手を送られあげく教師に賛美されてしまう結果になった。
「では、今度は君にお手本をお願いします」
「は?」
「君も乗馬に自信があるようでしたので」
エステルを態々指名したのだから当然だ。
「だよな?エステルにお手本をさせたんだからお前もお手本を見せろよ?」
「そうたい!早く乗って見せると」
「お願いします」
ユランに続きルークとサブローも促す。
「あっ…えーっと」
「まさか、馬に乗れないなんてことはないよな?剣術大会ベスト30位のアンタが」
「うっ!」
一限目の授業の時からエステルに突っかかつていたヒューバートは剣術大会でそこそこの腕前を披露して自信家であるが、乗馬の腕は微妙だった。
「さぁお願いします」
「はっ…はい」
恐る恐馬に乗る時に足が腹部に当たり馬は驚き走り去る。
「おい!止まれ!」
「ヒヒィン!」
止まるどころかそのままコースを突っ切って池の方に走り振り落とされる。
「わぁぁぁぁ!!」
池に落ちて無残な姿になったヒューバート。
「自業自得だな」
「本当です」
「げさっか男たいね」
三人は冷めた表情で一言言い放った。
一周回って障害物を乗り越えるエステルは元の場所に戻って来る。
「いやぁ、見事です」
「ありがとうございます」
「相当練習なさったのですね」
「え?」
馬から降りたエステルに告げたのは上級生の一人。
「僕はセス・アクロス。騎士科二年です」
「エステル・アルスターです」
互いに握手をし自己紹介をすると、何故か人が集まって来る。
「おいおいセス、ずりぃぞ!」
「そうだ!俺も姫君とお近づきになりたい!」
「俺も俺も!!」
詰め寄って来たのは授業のサポーターとして着いている二年生だった。
「あっ…あの」
「止めろ、馬鹿!」
セスに止められる上級生達は友好的だった。
「貴族で、しかも女性だと辛いでしょうが…」
「いいえ、この程度で根をあげていては騎士になれませんので」
セスの気遣いは嬉しかったが甘えるわけにはいかない。
(いい目だ…)
嫌がらせを受けても堂々と凛とした佇まいでいるエステルは相当な覚悟を持ってこの学園に来たのだろうと思った。
「そうですか、では頑張ってくださいね」
「レディー、苛められたら言ってください」
「男が女性に嫉妬など論外です」
騎士科としての誇りを持つ彼らはどんな理由でも女性に対して非道な行いを許さなかった。
ましてや年若い少女を大勢で嫌がらせをするなど騎士道に反する行いと思っていたのだが、その一方でエステルに一目置いていた。
まだ幼いのに一人で嫌がらせに耐えている姿や。
堂々としている立ち振る舞いは、既に騎士としての自覚を持っているように見えた。
この学園は不正が一切通じないように徹底されている。
特に騎士科は厳しく、実力がなければ進級も難しく、酷い時は退学になることも珍しくない。
厳しさゆえに自主退学する生徒も少なくない。
この先エステルが残れるかどうかはセスにも解らないがもしかしたらという思いがあった。
「セス、彼女はどう思う?」
「そうだな」
「男でも脱落者が多いんだ。女性には厳しい」
差別しているのではない。
実際、騎士科に入った生徒は半年で退学または自主退学になった生徒が多い。
一年間は予科として過ごしその一年後は本科として上がるが。
留年しないで二年に進級できる可能性は30%、その後卒業試験をクリアできた生徒は5%となっている。
「俺達には解らないが。上がってきて欲しいと願うよ」
「そうだな」
先はどうなるか解らないがセスはあの中で誰よりもエステルに光るものを見い出したのだった。
251
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる