ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第二部メトロ学園へ入学

7.願い

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二度にわたる嫌がらせもすべてスルーしたエステルは自分の被害はなく相手には最大限の打撃を与えていたことに自覚はない。


「くくっ…マジ無理!」

「馬鹿たい!」


ユランとサブローは笑い過ぎて苦しかった。


馬に乗ろうとしたら間違えて腹を蹴り馬に振り回され、最後は振り落とされ池に落ちたなんて末代までの恥だった。


「本当に馬鹿だろ」

「ほんまじゃ」


嫌がらせをして恥をかかせようとした結果がこれだ。


「馬は服従心が強いのです。ちゃんと指示さえだせば問題ありません」


「あっ…じゃあ、僕も乗れますか?」

「え?」

ルークは乗馬が得意ではなかった。
さっきの授業でも基本は何とかできたが乗り回す行為はできないので不安に感じていた。


「どうしたらエステルさんみたいに乗れますか!」

「えっ…」

「僕!エステルさんのようになりたいんです!」

真っ赤になりながらも大きな声をあげる。


「どうしたんだよ?」

「僕…魔法がほとんど使えなくて剣しかなくて」


騎士科に入る立派な騎士になるよりほか生きる道はない。


「僕は貴族ですが次男です…跡継ぎ以外は独立していかなくてはなりませんが」

「あー…確かに貴族の次男だったら独立しねぇと難しいな」

家からの援助を完全に切る為には自分一人で生きて行かなくてはならない。

「独立したくてこの学園に入りましたが去年も落ちているんです」

「そうだったのか?」

「はい…」

恥ずかしくていえなかったルークだったが…


「気にする必要ねぇだろ?ヒューバートなんて五回も落ちて留年までしてんだしさ?」

「俺は実技ギリギリで筆記ダメとよ?二回落ちとる」


ストレートで合格すること方が珍しいので恥じる必要はないのだが、ルークは自分が恥ずかしかった。


「私は貴方が思っている程優れてないわ」

「ですが…」

「もしかしたら私は落ちていたかもしれない」

絶対なんて言葉は存在しない。
前世の記憶があってもエステルはズルはしていなかった。

騎士科に入るのは他の学科よりも難しく試験は毎年変わるので対策するにも限度がある。


ただ一つ有利だと言えるのは、クニッツの教え方が上手だったことぐらいだ。


「乗馬は慣れだわ…私でよかったら教えますよ」

「本当ですか!」

「ええ」


エステルは自分が情けないと言うルークをすごいと思った。


「貴方は強い人」

「え?」

「自分の弱さをちゃんと認められるのは心が強い証拠だわ。私にはそんな強さはないもの」


人は自分の弱さを突きつけられ後に認めるのを恐れる。

悪い部分を認めるのは勇気がいることで。
認めることができても改善する勇気を持てないのだから。


けれどルークは違った。
自分のできないことを認めている。


「私は人に好かれる人間ではないから、最初から色眼鏡なく接してくれた貴方が好ましく思います」


「そんな…エステルさん素敵です」


涙目になって訴えるルークに苦笑するもすべて事実だった。



『出来損ないの癖に!』


『女の癖に可愛げがないぞ!』



前世では、せめて勉学だけでも優秀な成績を収めようと努力した。

努力を怠らず首席を狙っていたが、逆に生意気だと罵られ続けたあげく、両親には心無い言葉を浴びせられた。


『学校で首席などたいしたことはない』

『勉学なんて少し努力すればできます』


どんなに頑張っても、その頑張りは裏目に出てしまっていただけ。


ある時は罵られ。
学年別試験ではヘレンと競うことがあっても…


『妹に恥をかかせるとは何事だ!』

『家族を思いやる気持ちはないのか!』

エステルは優秀な成績を収めヘレンは成績が良くなかったことがって両親に罵倒された。

真剣勝負で学業だけはヘレンに負けるわけには行かず頑張った。

ただヘレンは天才肌でそのうちエステルを抜かして首席になったが…


『妹に劣るとは…』

『アルスターの名のに恥じる行為は許しませんよ』


優秀な成績を収めても、成績が悪くても同じだった。


周りの人間も同じで。



(そう…私はずっと)



誰にも褒めてもらえなかった。


努力を認めてもらいたかったのに認めてもらえなかった。



「私は欠点だらけの人間ですよ」


「エステルさん…」


穴だらけだった自分とまだ変わりはない。


空っぽで虚勢を張って生きて来た。
欲しがるだけで声に出すこともしなかった自分を今でも愚かだと思っていた。


なのに…



「僕はエステルさんがすごいと思います」


「え?」


「女性なのに騎士を目指して…凛としていて強くて」


ぎゅっと手を握りながらルークはエステルを見つめる。


「嫌がらせに屈しないし」

「慣れているだけです」


実際、学園の嫌がらせは社交界に比べれば生ぬるいものだった。


「慣れてる?」

「そのうち解ります」


ユランは顔を顰めるもエステルは詳しく話さなかった。


この学園には貴族がいるいので知っている人間は知っているだろう。


「エステルさんはむぞらしか…ほんで優しか」

「サブローさん?」

「俺みたいな田舎者は嫌われると。エステルさんだけたい」


辺境の地出身で貴族ではないことから馬鹿にされ続けたサブローはエステルがちゃんと自分のことを見てくれて嬉しかったと告げる。


「おなごしば守るんは男ん役目たい」


サブローがエステルにはっきり告げる。


ユランも負けじと言おうとしたが

「そうそう俺が…」

「僕もがんばります!」

ルークに遮られてしまう。


「なぁ?泣いていい?」

「馬鹿たい」

「サブロー!お前は俺に恨みでもあるのかよ!!」

さっきまで雰囲気は一瞬で壊れるもエステルは笑みを浮かべた。


こんな風に誰かに守ると言われたのは初めてとても嬉しくなった。

人との付き合い方はまだまだ解らなかったが、せめて自分を守ると言ってくれた彼等が真実を知った時も傍にいてくれるならば全力で守ろう。


もしそれで嫌われても彼等を悲しませることだけはしたくないと思った。



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