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第三部騎士科の道
11.災いの先
しおりを挟む大勢の生徒の前で宣言するエステルに誰もが注目する。
騎士科の騒ぎに関わろうとはしていなかったが気になっていたのだ。
「ノーアン大司教、聖職者として審判をしてくださいませんか?」
「私が…ですか?」
「ええ、聖職者の方が審判を行い公平に見極めていただきたいのです。聖職者が嘘をついたり不正を行うのはご法度ですしね?」
「っ!!」
一歩、また、一歩と踏み込むミシェル。
「中央神殿より大司教の役職を賜っている方が不正すれば女神様の裁きを受けるのが掟ですし」
「それは…」
「ですが、聖職者の方々は女神様に永久の忠誠を誓っていますもの。きっと公平な審判をしてくださると信じておりますわ」
「ぐっ!」
声高らかに告げる。
聖職者の肩書はそれだけ軽くないことをしっかり告げながら外堀を埋めていく。
「それはいい考えですね」
「テレサ大司教長!」
ノーアンは急いで膝をつく。
大祭司を束ねる立場にあり、政治の場でも発言権を持つと言われている。
この学園で主教とはなんたるか、信仰心の在り方を教えているのは彼女だった。
「なにやら騒がしいと思ってましたが…」
「申し訳ありません、大司教長様のお手を煩わせることでは!」
ノーアンは真っ青になりながらも全身が震えていた。
「本日は学園の視察に来たのですが、随分と妙な噂を聞きました」
「妙な噂?」
「ええ、なんでも妾腹の娘がどうとか」
慈悲深い笑顔を浮かべるテレサに対してノーアンに付き従っている教師は顔色を真っ青にする。
「それは…」
「おかしなことです。妾腹だからと言って差別する生徒がいるとは…子は親を選べませんのに嘆かわしいこと」
突き刺さる視線に教師だけでなく生徒もビクつく。
「歴代の聖職者であり教皇様も生まれが平民だったり妾腹の子供だった方はおりますが…そんなことは重要ではありませんのに」
「恐れながら!」
「やめんか!」
ノーアンの傍に付き従っている一人の生徒が異論を唱えようとしたが、ノーアンが止めに入る。
「発言を許します。遠慮なく言いなさい」
「不義を働き生まれた子供などは汚れております。聖職者の長である貴方様がこのようなことを仰せになるのはどうなのかと」
「あら?」
不思議そうにするテレサは驚くもその男子生徒は感情が高ぶり言ってはいけないことを言った。
「妾腹の子供など生きる価値もありません!」
大勢の生徒達がいる中大胆な発言をした男子生徒だったが、魔法科の生徒や錬金術科の生徒が批難する。
「今の発言…女性を見下してますわ」
「それに寵姫のモントワール侯爵夫人を馬鹿にしているぜ」
「いくら何でも言い過ぎだろ」
妾の存在を良く思わない人間もいるが、この学園に入った生徒は身分に捕らわれずに評価されたいと願う生徒が多い。
特に魔力の無い錬金術科は身分制度に散々苦しめられていたのだが、その不安を取り除いたのが平民でありながら貴族に嫁ぎ、寵姫となったモントワール侯爵夫人だった。
彼女は平民にとっては憧れの存在だった。
「モントワール侯爵夫人を貶すなんて…」
「何様なの?」
女子生徒の間でも女性でありながら王妃と渡り合うモントワール侯爵夫人は憧れの存在だった。
「貴方、王の寵姫を侮辱したわね」
「えっ…」
「ここが王都なら不敬罪ですまないわ。モントワール侯爵夫人は慈善活動も行っているご夫人よ」
王に代わって政治をしているので悪女と言われることもあるが、その一方で身分が低い平民や平民と変わらない暮らしを強いられている貴族からは指示されている。
「この学園を支持してくださっているモントワール侯爵夫人を侮辱するとは…」
「申し訳ありません!彼はまだ若く…」
「貴方の教育の賜物ですか?彼は聖職科ですね」
冷たい視線を送りながら、ノーアンを見下す。
「常に慈悲を持って生徒を導くようにと言ってあると言うのに…生まれで差別するとは」
穏やかな表情から凍てつく程冷たい視線を送られる。
「愛を教える我等は差別など言語道断。万一望まれなくとも生まれて来る子供に罪はありません。貴方は尊い命を排除しようと言うのですね…幼い命を」
「いえ、私は…清い行いの為に!」
失言してしまったと気づいても遅く、放った言葉は消えることはない。
「差別をして弱い立場の人間を貶すことが清いなんてありえないわね」
「なんて偏った愛なのかしら…」
同じく聖職科の生徒は軽蔑の眼差しを向ける。
そしてその視線はノーアンにも向いていくのだから本人は災難だった。
「ノーアン、今後は自分の生徒に対する指導を見直しなさい」
「はっ…はい!」
自尊心の塊のノーアンはこれほどの屈辱はない。
(己…この私に恥をかかせおって!小娘が!)
ノーアンの殺意の矛先はそのままエステルに向けられることになった。
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