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第三部騎士科の道
18.棚から牡丹餅
しおりを挟む事件はあっさりと片付いたが、学園内では新たな伝説ができた。
より厳しい環境に身を置き騎士になるべく修業に来たことや。
婚約者と妹が恋愛関係になり、愛する妹と婚約者の幸せの為に潔く身を引いたという噂は瞬く間に流れたあげく、公爵令嬢であるエステルに散々な嫌がらせや暴言を吐いのに、権力を使って罰せず正々堂々と立ち向かう姿は騎士の鑑と賛美され新たな二つ名を与えられてしまった。
白銀の騎士と。
「――美しくも気高き公爵令嬢の今後に迫る」
「ねぇ、何それ」
メトロかわら版を読み上げるユランにげんなりする。
「何って校内新聞」
「やめて」
噂は本当に恐ろしいものでかなり大袈裟に書かれている。
(愛するって何?)
確かに前世では慕っていたが愛しているか?と聞かれてもさぁ?としか答えるしかない。
ただ好きか、嫌いかで聞かれれば好きと答えただろう。
今は違うが。
「別に愛してないわ」
「そなのか?」
「まぁ慕ってはいたけど…吹っ切れたし」
カルロがエステルを一切眼中にないことは嫌という程理解したし、二人の仲睦まじいやり取りを散々見せつけられたのだから。
「私は女性は一歩下がって目立たないようにするのが理想だと思っていたのよ」
男性に逆らうことなかれ。
ジュリエッタに叩きこまれていたが、ある意味洗脳だった。
両親に逆らうこともなく、婚約者に従順でなくてはならないと言い聞かせていただけにすぎない。
「けどフレッツ侯爵って借金背負いまくりだっただろ?」
「ええ、だから我が家に婿に入るのを条件に資金援助をすることになっていたの」
「うわぁ…最悪だな」
最悪とは入り婿になるのが最悪なのか、それとも自分と結婚させられるのが最悪なのか考える。
本人は直ぐに答えを出すが、またしても的外れだった。
「そうね、私のような醜い令嬢と結婚なんて最悪よね」
「いや、違うだろ!お前本当に頭いいのかよ?頭のネジ足りねぇだろ!!」
机をバンバン叩き再び突っ込むユラン。
「失礼ね」
「何でそんなに自分の評価低いんだよ」
「貴方達が過大評価しすぎだけじゃないかしら?」
ユランの言っていることは間違いではないのだが幼少期に植え付けられたものはそう簡単に消すことは出来ず、過小評価を消すことができないエステルだった。
「もっと言ってあげなさいチャラ男」
「ミシェル様?」
「おい、チャラ男って何だよ!」
音もなくいきなり現れたミシェルに驚くエステル。
「まったくアンタって子は!」
「あれ?ミシェル様の制服が…」
「ふふっ!私も銀ランクよ?」
この学園ではランクによって制服が異なる。
一般クラス、すなわち銅ランクの生徒は紺色のブレザーなのだが、銀ランクは白いブレザーとなりタイもお洒落だった。
制服の生地も絹を使った上質な物になる。
何故かミシェルはエステル同じ制服を着ている。
「あの男をとっ捕まえるのに貢献したからよ」
「はぁ!何だよそれ!」
「まぁ、当然よね!このままガンガンポイント稼いで白の魔導士の称号を得てやるわ!」
扇を取り出しオホホホと笑う姿にユランは開いた口が塞がらなかった。
「あざとい」
「まぁ、当然よね」
「そしてお前は馬鹿だ」
「失礼ね」
なんと要領のいいのだろうか。
美味しい所だけちゃっかりいただくその行動は汚いとさえ思ったのだが。
「エステルさん!」
「サブローさん?」
「見て欲しいと!」
「あっ…あの、似合いますか?」
サブローとルークが現れた。
ご丁寧に二人も同じ白いブレザーを着ている。
「はぁ!」
「この子達はノーアンを捕まえたもの」
捕まえたと言うよりもアリスの瞬間移動でノーアンにぶつかっただけだが、学園長の粋な計らいだった。
「私までよろしかったのでしょうか」
「アンタ、本当に鬱陶しいわね。そのウジウジしたのは昔のエステルと全く同じね」
「え!」
「ちょっと、喜んでんじゃないわよ!」
憧れのエステルに似ていると言われ嬉しそうにするアリスはとにかく天然だった。
(ちょっと!何で頬を赤らめてんのよ!)
イラっとするミシェルだったが、アリスが気づくこともない。
「でも、残念です」
「何がだよ」
「ユランさんだけ一人ぼっちで…あっ、すいません!」
つい無神経なことを口に出して謝る。
「お前俺をデスる気かよ」
「そんなつもりは!」
「気にすることないと…八つ当たりとね」
嬉しそうにするサブローに不貞腐れるユランだったがふと気づく。
「ちょっと待てよ?お前等銀ランクってことは…」
とても嫌な予感がする。
(寮に残ったのは俺達だけ?眼鏡と二人っきり!!)
青ざめるユランはあの幽霊屋敷でジークフリートと過ごさなくてはならない。
「ちくしょう!死ぬ気で銀ランクになってやる!!」
絶対に銅ランクから抜けてやる!と意気込んでいたユランだったが、本人は知らなかった。
実はユランは彼等と遅れて銀ランクに昇格できることになっていたことを。
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