ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

13バッドタイミング

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良いことは連動して続かないのに悪いことはどうしても続く。

まさに今の現状がそうではないか?
エステルは不運を心から思いながらも女神、ミューズに訴えた。


(ミューズよ、何故ですか)


何か悪いことをしたのかと尋ねたい心境だった。


「久しぶりだな」

「はぁ…」

「直接会うのは一年ぶりか」

「ソウデスネ」

エステルはどうやって逃げようかと思案するあまり返事は全て片言だった。


「おい」


「はぁ…」


「キスするぞ」


「はぁ…はい?」

気の無い返事を繰り返していたが、最後に危険な言葉を聞いた気がして顔をあげると。


「ちょっ!!」

いつの間にか壁に押しやられている。


「何をなさいますの!」

くいっと顎を上げられ逃げるのが不可能な状態だった。


「殿下!」

「俺を無視した罪は重い。よって罰だ」

どんな罰なのだろうか。
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるもどこか妖艶だった。


(くっ!逆光前の不良王子モードだわ!)

少なくとも数年前はまだ真面目な一面を持っていたが、なにせまだ幼かったのだから仕方ない。


放れている間にさぞ美しい女性に言い寄られて女遊びをしたのかもしれない。

「殿下、人前でおやめください」

とにかく冷静にならなくてはいけない。


(そうよ、私は騎士なのよ)

平常心を保ち、軽く払い除けなくてはならない。

いくらクロードでもここで襲う様な真似はしないはず。
そんなことをすればクロードの地に落ちる可能性が高いので冗談だろうと思った。


(それにクロード殿下の好むは私と真逆よ!)


逆光前のことを思い出す。
前世ではクロードの周りにはそれは美しい姫君を侍らせていたし、全員金髪に翡翠にと巨乳の美女ばかりだったのでエステルとは正反対だった。


(そうよ!クロード殿下は私に興味の欠片もない…)

自分で言っておきながら何故かショックを受ける。

(そうよ、あくまで友人で興味なんてないわ)


女性としての魅力が欠けていると思い込んでいるエステルはそのうちクロードも妃を迎えるかもしれない。

そうなったらこんな風に話すこともできないのではないか?
思いのほかショックを受ける。


(何でショックを受けているの?)

幼少期からクロードに揶揄われて困っていたのだから喜ぶべきなのに喜べない自分がいてとてもモヤモヤする。

「エステル」

「えっ?」

俯いているエステルに声をかける。

いきなり名前を呼ばれ顔を上げると頬に触れた柔らかい感覚とリップノイズが聞こえた。



「なっ!」

いきなり頬にキスをされ真っ赤になる。

「ようやく俺を見たな」

「なっ…何をなさいますの!!」

「なにって挨拶だ。本当なここにしたいが」

エステルの唇を指でなぞる。


「だっ…ダメに決まって」

「そうだな。部屋で二人きりになった時にでもするか」


「はい?」


距離を詰めよられ再び耳元で囁く。


「夜に二人きりでな」

(えっ…)

艶やかな言葉が耳に残り体が麻痺してしまうようだった。
こんなに甘く、優しく囁かれたことは一度もないエステルはさらに体が火照り身動きができない。


「何を…」

「言ったはずだ。俺はお前を逃さないとな」

逃さないとという瞳にエステルの心臓が捕らわれる。


この瞳に囚われて逃げることができる女性はいるのだろうか。


「エステル」

「ひゃっ!」

手を取りキスをうるクロードにさらに頬を染める。

(こんな場所で!!)

大聖堂でこんな行為をするなんて信じられないと思ったエステルは気づいていない。


サンマルク大聖堂は愛を司る女神が守護しており、この大聖堂で愛を囁くことは悪いことではない。

愛の大聖堂とも呼ばれているので恥でもないのだが、そんなことは知るはずもない。

「真っ赤だな」

「お戯れも程々に…誰かに見られたら!」

「柱で見えないぜ?まぁ見せびらかしてもいいが」


(いやぁぁぁ!!)

公衆の面前でこんな姿を見られたら失神する。
ガブリエルに見られたらと思うと耐えられないでいたエステルは精神的にも瀕死の状態になりかけていた。


それを見てクロードは嬉しそうに微笑んでいたのをエステルが知ることはなかった。

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