ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

19.真実の美しさ




一歩前に踏み出すエレニーははっきりと告げた。


「聖女様のモデルはエステル様です」

「ですが…聞いたは話では私をモデルにしたと!」


聞いていた話とは違うと怒りだすも続けるエレニー。

まるで癇癪を起した子供のような振る舞いに周りの人達はドン引きしている。

「確かに、私はアルスター家の姫君をモデルにさせていただきました」

「ならば!」

「私はアルスター家の姫君と申しましたが貴方様をモデルに舌とは一度も言っておりません。貴方は美しくありません」

「なんですって!」

エレニーの言葉はヘレンにとって屈辱だった。
社交界では美しいと言われ続け、生まれてからずっと蝶よ、花よと愛されてきたヘレンにとって許せない行為だった。


「私を侮辱する気ですか」

「いいえ、私は芸術家としてあの方が誰よりも美しく思えるのです」

「なっ‥!」

その目は曇りがなかった。


「私は貴方様を一度だって美しいとも思ったことがありません」

一歩、また一歩と踏み出す。


「お優しく気高くお強いあの方こそ美しいのです」

エレニーの言葉は何処までも真っすぐだったが、ヘレンの心に響くことはない。

「太陽になることができない方が美しいと…貴方はお姉様に同情なさっているのですね」

一瞬だけ怯みそうになったがすぐに安堵する。

「貴方はお姉様をご自分と同じだと思われたのですね…そのような劣等感を作品にするのは芸術への冒涜ですわ。すぐに描き直すべきですわね」

「何言っているんです?」

「こうなっては世間の目もありますものね…陛下は貴方に同情なさったのですね。才能の無い貴方を哀れに思って」

中央に飾られている聖女の絵が最優秀賞を取ったのは実力ではない。
評価されたのではなく王の同情によるものだと思い込むヘレンは憐れみ表情を送りながら慈悲をかけていた。

「心配しなくても私が父に口添えして差し上げますわ…ですからこの絵を飾るべきではありませんわ」

「聖女エルキネスを否定なさるのですね」

「否定はしませんわ。ですが彼女は死んだから美化されただけですわ」

言いたい放題のヘレンに耐え切れなくなったローニャは声を荒げる。


「聖女様を慕う方の心を踏みにじるなんて信じられませんわ」

「ローニャ様、お止めください」

エレニーはローニャを止める。

「どうしてそのような心無い言葉をおっしゃるのでしょう…貴方は本当に酷い人ですね」

「私が酷い?」

「はい、展示会の時も母の形見のドレスを貶し、聖女を侮辱し彼女を崇拝する方々の心を傷つけた。そして今も聖女様を汚そうとしておられます」


「私はそのような!」

「エステル様でしたらそのようなことはおっしゃいません」

哀しい目をしながらも哀れむように告げる。


「な…んですって?」

「貴方は見た目だけです‥心が醜いですわ」

「無礼者!!」

耐え切れなくなったヘレンは手を振りかざし殴ろうとする。


「エレニー様!!」


殴られると思い目を瞑り覚悟を決めるも痛みが走ることはなかった。



「えっ…」


ゆっくりと目を開くとヘレンは手首を掴まれていた。

「お姉様!」

二人の間に割って入ったのはエステルだった。

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