ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

54.十五年前の事件

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「十五年前の事件がすべての始まりでした」


ガブリエルは重い口を開いた。
まるで昨日の事のように覚えているようだった。


「十五年前、ヴィオラは子供を身ごもっていました」

「義母様…」

悲しそうに顔を俯かせるヴィオラの手を握り支えるロバート。

ジェームズも守るように見つめていた。


「身ごもってる最中、教皇様に女神様の加護が宿っているとのお言葉を頂戴しました」

今でもあの日の事は鮮明に残っていた。

「女神から祝福された子を私達は心から喜びましたわ」


「男であれ女であれ、元気に生まれてくれることだけを望んでいた」

ガブリエルとジェームズは初孫の誕生を心から楽しみにしていたが、その願いは叶わなかった。


「ヴィオラは難産だった故‥医師からは母体共に危険な状態だと告げられました」

「それでもヴィオラは自分の命を引き換えにしてもなんとか産むことができた」


予め医師には母体を優先するか子供を優先するか聞かれた時、ロバートは苦悩した。

妻を取るか、子供を取るか二択に迫られたのだ。

けれど選ぶことなんてできるはずもない。
決断の末、ヴィオラの命を選らぬように両親に言われたが、ヴィオラ自身が子供を望み生死の境を彷徨った末に赤ん坊は無事生まれた。


母体共無事で女神が守ってくれたのだと感謝した。


けれど、その幸せは長く続かなかった。

「生まれて来た子は女の子で…本当に嬉しかった」

「まるで天使のように愛らしくてね、これ以上ない程の喜びだった。だがその喜びはあの日、打砕かれた」

「打ち砕かれた?」

震えながら声をだすヴィオラは泣き出してしまいそうになる。


「攫われたのです」

「え?」


「鑑定の日、教会に向かった私達は神官様に我が子を預けたんだ」

「そして、預けていた間私の娘は攫われたてしまった」





あの日の事を思い出すだけで胸が切り裂かれそうになる。
生まれて間もない愛しい我が子が攫われ、どれだけの喪失感だったか。

無理な出産をしてしまった所為でヴィオラは精神的にも肉体的にも弱まり病弱になってしまった。


子供を守り切れず、ロバートに負い目を感じて自分を責め続けた。
ロバートはヴィオラを責めるような真似はしなかったが、優しくされればされる程辛くて仕方なかった。

しかしもう二度と子供ができない体だと医師に宣告され、子供を望めなくなり。

夜に一人で泣いていた。

その同時期に、ジュリエッタは女の子を出産していた。


アルスター家本家の妻の産んだ子供が攫われた事件は瞬く間に広がり、社交界では誹謗中傷を浴びていた。


「十五年前の出来事は痛ましく歯がゆかった…同時に何故と今でも思ってました」

「教会で人攫いが起きないとは言わないが、当時教会に関わった聖職者に医師が行方知らずになっていた」

「あまりにも不自然でしたわ。次期を同じくしてもう一人の孫が誕生して私は驚きましたの」

「驚いた?」

眉を下げながらエステルをじっと見つめる。


「産み月が近づいてもジュリエッタはあまり太らなかった。悪阻も軽かったので」

「個人差はあるので当時はそこまで気にもとめていなかったが、成長するにつれてエステルはあまりにもヴィオラに似すぎていた」

「ラウルにも似ておらず…ですがヴィオラが不義を働くなんてありえません」

ヴィオラがラウルと関係を結んだと考えるのが妥当なのだが、その考えはないと思った。


「二年後、ヘレンが生まれましたが…さらに疑惑は深まりました」

何度もあり得ないと思いながらも心の底で疑いが消えることがなかった。

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