ある公爵令嬢の生涯

ユウ

文字の大きさ
226 / 408
第七部可憐な皇女と聖騎士

6.女宰相の悩み

しおりを挟む




現在王宮内にある一室。
王族の中でも限られた人間しか使えない空間がある。


その一室にて、エステルはお茶を飲んでいた。


ただし、蛇に睨まれた蛙と同じ状況でお茶の味なんて楽しめるわけがない。

(何で私はここにいるの…)


あの後拒否権も許されないまま、エステルはモントワール侯爵夫人に招待を受けた。


強制的に。


「お味はいかがかしら?」

「はい、美味しゅうございます。流石ポレーヌのお茶ですわ」

味を楽しむ余裕はないが普通のお茶よりも甘みがあることは解っていた。

渋みも得組も少なく砂糖を入れなくても甘露な後味がある。


(できればちゃんと飲みたかったわ)

こんな上質なお茶、公爵家でも滅多に飲めない。


「気に入っていただき何よりね?エカテリーナ陛下にいただいた茶葉ですの」

「は?」

エカテリーナ陛下?


その名前を知らない貴族はいない。
ここから北側のスラリア帝国を牛耳る大帝。

女帝エカテリーナ。
女性でありながらも男顔負けの戦上手。

敵国はこの世で最も恐ろしい女と恐れているのだから。


(そんな方からお茶を!)


恐ろしくてガクガクと震える。


「視察で行った時にこの茶葉がどうしても欲しくて、陛下にお願いしたのよ」

「お願い…ですか」


なんという命知らずな。
相手は常勝帝国の女帝であるのに、下手をすればクビが飛ぶのに。


「言って見るものね…ついでにティーカップのつけてくださって。貴方が飲んでいるカップもそうよ」

エステルは今すぐ気絶したかった。
その方がずっと楽なのだから。


せめて今できることはカップを割らないように注意することぐらいだった。


「でも、一口飲んだだけで産地を言い当てるなんて流石だわ」

逆行前は常に心を和ませるためにお茶を飲んでいた。
革命が起きる前に、スラリア帝国の貴族がポレーヌ産の紅茶を王宮に持ってきたことから飲む機会があった。


ただし数回だけなのだが、余りにも美味しかったのでその味を未だ覚えていたなんて言えるはずもない。


「貴方の教養の高さ、血筋、判断力に思慮深さ…及第点ですわ」

「恐れ入ります」

何が及第点なのだろうか。
クロードの婚約者としてならば嬉しい所なのだが――


「貴方もご存じの通り敵国の皇女様をお迎えすることになっています」

「はい…」

「手筈は国境を越えたクラフト領地で迎える手はずとなっているのです」

何故そんな情報を態々教えるのか。
ものすごく嫌な予感がする。


「ですが皇女様を迎える侍女は他国から姫を迎えることの重大さを解ってないアホ共です」

「は?」

「アルカディアの伝統を第一と考えるばかりで幼い姫君の胸中を案ずることができない馬鹿の集まりですの」


ここまで言い切ると清々しさを感じる。
遠慮が一切ない。


「敵国に嫁ぐのがどれほど恐ろしいか、理解できないような者に姫君の傍付きを任せるのも、顔合わせでお世話をさせるのも不安ですの」


モントワール侯爵夫人は貴族派を警戒しながらも、今回の婚約を心配していた。

敵国との平和条約を結び、友好国にしなくてはアルカディアに明日はないからだ。


その思いを知ってエステルは痛々しそうに見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...