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第九章辺境の聖女
閑話2クロードの心配
しおりを挟むエステルが学園に戻ってからクロードは公爵家でヴィオラと過ごす時間が多かった。
「どうしましたクロード殿」
「いいえ、なんでもありません義母上」
婚約式を終えてからクロードはヴィオラを母と呼び慕うようになり、アルスター家では平和な時間を過ごしていた。
王宮ならば虐待まがいな実母と義母に悩まされ続けていたので、公爵家は天国だった。
時折嫁いびりに近いガブリエルもいるが、あの二人に比べれば可愛いモノだった。
「エステルは学園でそうしているかと」
「心配ですわね…学園内で何もなければいいのですが」
クロードの危惧することは言うまでもなくエステルだった。
学園内では王族であっても簡単に手出しはできないので歯がゆく感じていた。
「あの子も卒業したら結婚するのだから、騎士の勉強にだけかまけられるのは困るのです」
「気が早いのでは…」
少しだけ照れるクロードはまんざらではないが、まだ実感がない。
「クロード殿、今からそれではどうしますの?結婚したら次の段階に進んでいただかなくては」
「はい?」
「お世継ぎです」
「は?」
ヴィオラは呆れたと言わんばかりに告げる。
「何を呆けておりますの?貴方は公爵家に入ったとしても第一王子であることは変わりませんわ。そうなるとお世継ぎが求められます」
「いや…その」
真っ赤になるクロード。
まだまだ純情可憐な彼は、遊び好きな男から遠かった。
「母からも我が公爵家のお世継ぎを期待されております」
(あの鬼婆!!)
義母からこんなことを言われるなんて恥ずかしすぎる。
真っ赤になって言葉にならないクロードは居た堪れない気持ちで一杯だった。
「子供のことをとやかく言うのは無礼かと存じます。ですが、あの子を私の二の舞にしたくないのです」
「義母上…」
子供ができにくい体で、散々嫌味を言われ。
ようやく授かった子供を奪われた時はどれだけ絶望したか計り知れなかった。
あの苦しみは今でも覚えている。
だからこそエステルにはそんな思いをしてほしくない。
「もし子供ができなければ妾を取らざるを得なくなります。最悪あの子が貴方以外の殿方と床を共にする可能性もあります」
「あっ…」
ひゅっと息を飲む。
クロードにとって耐えがたい事だった。
「貴族派は、エステルに愛人を進めて来るでしょう。これ以上の屈辱はありません。そして万が一…」
「その愛人との間に男が生まれれば…」
「公爵家は乗っ取られます」
最悪の未来予想図が出来上がる。
ジェームズもガブリエルも老い先が短く、正式にエステルが公爵家の当主となったならばどうなるか。
貴族派の連中は卑怯極まりない手を使ってエステルを殺し、公爵家を乗っ取ろうとするだろう。
「何より、あの子は耐えられましょうか」
「どういうことです」
「決闘してまで貴方の矜持を守ろうとしたのです。そうなればあの子は自分の命を絶つでしょう…貴方の為に」
エステルは自分の命など重要だと思っていない。
幼い頃からの出来事の所為なのか、ヴィオラはあまりにも自分に容赦の無いエステルを痛々しく感じていた。
騎士が国の為に死ぬのは誉だが、自分の命をもっと大切にして欲しい。
「エステルを引き戻す為にも子供が必要なのです」
「はい…」
世継ぎの為だけでなくエステルの為にもどうしても子供を授かって欲しいヴィオラに想いに気づいたクロードだったが、彼は気づいていない。
そのまた背後にいる女性の影に。
この後公爵家の鬼婆による花婿指南と称し、世継ぎを作る授業を叩きこまれるなど知る由もなかった。
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