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第二章新生活
6.若きパティシエ
しおりを挟む北の領地は食料が裕福ではないが、果物が豊作だった。
特に特産物とされるのはホワイトベリー呼ばれる果実で、苺に似た果物だった。
苺をふんだんに使ったお菓子を作る菓子職人がいた。
彼の名前は、アッサム・フォートナム。
若き菓子職人でありながら天才シェフとしても有名だった。
情熱の全てを料理、特にお菓子にぶつけ、寒い領地にも春のような温かさを与えたいという優しい心の持ち主だった。
そんな彼は十数年間、お菓子に情熱を注ぎ恋もせずにいたのだが。
数日前に春が訪れた。
「よしできた」
美しいダリアの花を飴細工で作りその傍には愛らしいケーキが置かれている。
「麗しの僕の花…」
「コーデリアね」
「そうだ。ああ愛しいコーデリア…わぁぁぁぁ!」
背後から人の気配がして、ビクついたアッサムは悲鳴を上げた。
「いやぁ、本当に期待を裏切らないリアクションをありがとう」
「リリー!何度言ったら解るんだ!勝手に店の中に入らないでくれと!」
後ずさりながら文句を言うアッサムだったがリリーは悪びれる事もなかった。
「いやぁ、本当に見事なヘタレっぷりよね?本当に」
「悪かったな!何の用だ…あれ?随分とめかしこんでどうしたんだ?」
普段の服装と随分違うと思ったアッサムは尋ねた。
「ああ、今夜姉と仮面舞踏会に行くのよ」
「は?」
「知っているでしょ?マリウス子爵夫人のお邸」
「ああ」
賑やかな席が大好きで仮想パーティー等も良く来なっている子爵夫人の邸にはケーキの注文を何度か受けているのでお得さんだった。
「また、そんな所に…君は既婚者なんだぞ」
「問題ないわ。ラスティ―も一緒に行くんだし」
「夫婦そろって仮面舞踏会に行くなんて聞いたことがない」
「目の前にいるじゃない…まぁ、目的は姉様の恋人…未来の旦那様を探すためだけど」
ガシャン!
うっかりボールをひっくり返し、床に生クリームが散らばってしまった。
「何やってんの?」
「今、なんて言った?」
「だから姉様の…」
「何を考えているんだ!」
アッサムはリリーの言葉を遮りながら怒鳴りつけた。
リリーが夫婦同伴で仮面舞踏会に行こうなど、この際どうでも良かった。
問題なのはコーデリアを連れて行く事だった。
「何故彼女を…そんな場所で恋人を探すなんて」
「やぁね?まだ健全なパーティーを厳選したのよ?普通のパーティーに参加するのは無理だから苦労して健全で、尚且つ玉の輿を狙えそうな男性のいるパーティーを選んだのよ?」
「玉の輿だと!」
悪びれもなく言い放つリリーに怒りを覚えアッサムは睨みつけたが、本人は気にも留めることはなかった。
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