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第一章廃嫡と婚約解消
23銀世界
しおりを挟む船に乗り継いだ後に到着した新世界は銀世界だった。
「おお、すごく綺麗だな」
「フィルベルト様、寒くないんですか」
「ああ、俺は寒い方が好きだ」
なんせ生まれは北国ですから。
前世では北海道に生まれて、大自然で育った身だから寒いのには強い。
「海の傍なんて良いな」
「フィルベルト様、危機感がまるでありませんね」
ここは辺境地で政治と関りがない。
王族貴族が干渉することはないので、自由だ。
「嬉しそうですね」
「ああ…」
ずっと窮屈な暮らしを強いられ、王太子という立場は重圧だった。
正直、俺には向いていない。
「ここなら俺の存在も無いに等しいし、王家も俺がいない方が色々上手く行くんじゃないか」
「フィルベルト様は本当にそう思っておられるのですか」
「えっ…うん」
何時も以上に怒っているレックに逃げ腰になる。
別に自分を卑下しているわけじゃなくて、人を騙したりする腹黒さが足りなかった。
悪いとは言わない。
だけど俺にはそれだけの器量もカリスマも才能もない。
王よりも地方で領地を治める方が向いている。
人には適材適所があるし、この領地を潤す事で道を開けれたらと思う。
「フィルベルト様、貴方は世捨て人になりたいのですか」
「いや?領地を開拓して長生きだ。目標は100まで生きて老後生活を送りたい」
「今から老後ですか」
「悪いか?」
その内この領地を観光地にして温泉地にするのもいいな。
なんせこれだけ広い領地だ。
海も広く漁に出ることもできるし。
大臣は作物が取れないと言ったが、現在の調査でだろう。
森の奥地、海の底は資源の宝庫だ。
「フィルベルト様、北方領土の代表の皆様がお越しです」
「解った。丁重のおもてなしをしてくれ」
「かしこまりました」
到着して早々に出向いて来てくれてなんて申し訳ない。
母上から言われた言葉を思い出す。
出発前夜。
「フィルベルト、心して聞くのです」
「はい」
「今後貴方が治める北の領地は北方三島を牛耳る領主達です。彼等は他の辺境伯爵よりも手ごわいでしょう。現在の王族に良い感情も抱いておりません」
「はい」
「ですが、彼等を味方につけることが叶えばこれ程の心強い味方はいないでしょう。いいですか、誠心誠意努めなさい。母から言えるのはこれだけです」
母上らしくない言葉だった。
貴族、王族には誠実さよりも腹黒さが必要だと何時も言っていた。
「彼は根っからの戦闘民族。故に打算的な考えよりも白い心を持って接する方がいいでしょう」
「白い…」
母上は俺を何だと思ってんの?
この時俺は母上の言わんとしている事を知らずにいた。
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