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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜

歪な想い×移住の提案

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「まさかジゼに妹が居てそれがテトラだったなんて。ほんとびっくり」

「全く、再会するなりいきなり抱きついて来るなんて、ウチのクソ兄貴は相変わらずのバカアホで困っちゃう……」

 やれやれと言った様子で溜息を漏らすテトラ。
 ジゼが時折立ち振る舞うその仕草とテトラのそれが全く同じ動きである事に気付いたアルルが思わず吹き出しそうになる。

「ジゼの事が大好きなんだね~テトラは」

 その様子をニヤニヤ顔を浮かべながら、からかいを入れるアルル。

「だ、誰があんなクソ兄貴!」

 床にパシンと手を付き、勢い良く否定の言葉を放つテトラ。

「そう言えば、テトラの自身の調子はどう? 最近変な事とか無かった?」

 今回の遠征の主目的はバーバリフェルの安否確認である事には変わりないものの、ついでに残る三柱についての情報も掴めれば御の字という事で聴き込みを行う。

「んーこの辺りは清々しいほど平和だけど……こっからずっと北に行ったレリックコラプスで異変が起こってるとか聞いた覚えはあるかも」

 レリックコラプスは更に魔物の領域に踏み込んだ先に存在する土地だ。
 そこまで踏み込んでしまえばどんな強者であろうとヒトの身では帰還は不可能とまで言われている。

「たしか、お姉さまは伺ったことがあるんでしたっけ」

 アルルはその例外の内の一人である事をフィーレが示唆する。

「うん、一歩歩けば死体が転がってるぐらいには殺伐としてたね、あそこ」

 凄惨な光景を思い出してしまったアルルが溜息を漏らす。

「なんか、いきなりすっごく強い謎のバケモノが現れたとか? その正体は魔物かどうかすらも分からないんだって」

 漠然とした噂には過ぎないが現状めぼしい情報が皆無な今、それに縋る他無いだろうとアルルは決意する。

「うーん、聞くからに危険な臭いがする。ジゼとどっちが強いかな? そのバケモノと」

 刹那、パッとその顔が輝いたかと思えば――

「そんなのもちろん兄貴……あっだめ! いまのなし!」

 最早手遅れだが瞬時に口を抑え続きの言葉を遮り、恥じらいに顔を染めるテトラ。

「あっ、やばい、浄化されそう……」

 半ば衝動的にテトラに抱き付き、紅潮するその耳を撫で回すアルル。

「うぅ……あんまりからかわないで!」

 ジゼの時と比べると大分控え目にその抱擁から逃れようともがくテトラ。

「あぁ! お姉さまの抱擁は私だけのものなのに!」

 部屋に入ろうとその現場を期せずして覗いてしまったジゼ。
 その光景は彼には刺激が強すぎたらしく、すぐさまその場から逃走してしまった事は本人を除き誰も知らない。



「あ、ジゼいた。こんな所でなにしてんの? ちょっと探しちゃったんだけど」

「え、あ、いや、別に何もしておらぬが?」

 先程アルルたちが話していたテントとは少し離れた場所の裏手で、先程の光景を思い出さぬよう尽力していたジゼが意味も無く慌てふためく。

「なんでちょっと焦ってるん? まあいいけど。ところで相談があるんだけどちょっといい?」

「あ、ああ。承知した」

「んじゃちょっとあの家まで来て」

 アルルが指し示したのは、この街の総括を任されている魔物が住んでいる豪邸。
 その中核では会議が行われていた。

「ふむ、なるほど。移住の提案ですか」

 往年の歴を感じさせる風貌を醸し出す魔物の男が整えられた顎髭を撫でる。

「そ。悪い話じゃ無いでしょ?」

 アルルの今回の目的には勢力の拡大も含まれているのだ。

「うーむ、概ね賛成では御座いますが、なにぶん準備の方に相応の時間を要するでしょうな」

 移動中の仮住居、食料、衣類、移動手段、護衛、積み上がる課題に魔物の村長が唸る。

「それは大丈夫。こっちもいきなり全員はちょっと容量足りないし。ちょっとずつでも移動してもらえればいいかなって。ジゼもそれでいい?」

「我も元よりそのつもりだ。異論は無い」

「んじゃ今日はどうする? 数人ぐらいは連れて帰れるけど」

「うむ、その話に乗ろう。では立候補者を今晩募るとしよう」

「んじゃわたし行く! あるるんといっぱいお喋りしたいし!」

 はい! はい! と勢いよく手をブンブン振るテトラに町長が優しい目を向ける。

「おお、そうか。テトラには斥候の極意を仕込んでおる。連絡係としても重宝しよう。行って来るといい」

「やったー! 改めてよろしくね、あるるん!」

 アルルは勢いよく飛び込んできたテトラを受け止めると、その透き通った髪をよしよしと撫でる。

「ラ、ライバルが増えたっ!?」

 そんな光景を目の当たりにしてしまったフィーレ。
 ガーン、そんな擬音が聞こえてくるような勢いで仰け反る。

「これは明日から益々賑やかになりそう……」

 賑やか過剰気味なアルルは嬉しさ半分といった様子である。

「テトラはそんなにお兄ちゃんの事が恋しいのか! そうかそうか!」

 うむうむ、と意気揚々と首を上下に振るジゼ。

「うわキモっ、兄貴はどうでもいい! むしろ居ない方がいい! ウザいし!」

 テトラの口から放たれた毒塗りナイフは――

「なあッ――!? あ、あぁぁ……」

 ジゼの胸に深く突き刺さった。
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