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歪な生き方
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小鳥、その言葉を声に出すだけで、胸は締め付けれられ、自然と喉の奥が熱くなってしまいます。
魔女は、忘れるという行為に後ろめたさを感じながらも魔術を行使しました。
(たとえ……あの子がここに残ってくれたとしても、いつかは訪れる事だったんだ)
自分を納得させる様に、
(人間が、普通の魔術師が、私みたいに永遠の時を過ごせるわけじゃない)
暗示をかける様に、
(あの子と別れるのが少し早くなっただけじゃないか……)
心を整理していきます。
魔女は自身の心の奥底へと潜ると、男の子との大切な思い出を記憶の箱へと詰めていきます。
壊してしまわない様に、一つ一つ、思い出を慈しみながら。
「ふふっ、こんなこともあったわね……私に初めて料理をしてくれた日。やけに卵焼きが黒かったっけ。でも……あんなに自身満々に、目を輝かせながら見られたら、食べないわけにはいかないわよね……」
「これは、浮遊魔術の勉強……かな? 重い物が持てるようにって教えたけど、あの子が浮き上がっちゃってすごく慌てたのよね……なのにあの子は元気に笑ってて……まったく、こっちの気も知らないで……」
「こっちは、怖い夢を見た時かしら? あらあら、こんなに泣いちゃって……この後、私に抱き着いてきて一緒に寝たのよね。あの子、すぐ布団を蹴るから、風邪をひかないか心配だったわ……」
「……本当、懐かしいわね……いつも、一緒だったのに……もう、あの子は、この家に……うぅっ……何で、何で私っ……」
「あの子が亡くなったわけじゃないのに……どこかで、幸せに暮らせているならそれでいいって、思ってたのに……何でっ……!」
数百年ぶりの人との関りは、とても温かく、魔女の心の傷を癒してくれました。
しかし、男の子がいなくなった今、古傷は再び開くどころか、新たな深い傷となって魔女を苦しめてしまいます。
「……忘れなきゃ。じゃないと私が、私の心が、壊れてしまう……」
魔女は、これが男の子を思い返す最後だと覚悟を決め、再び男の子との思い出を箱に詰め始めます。
「あの子が私の誕生日にプレゼントを――」
「あの子とお花見をした時――」
「あの子と喧嘩を――」
「あの子と――」
時間はどんどん過ぎていき、残すところ最後の一つになります。
「あぁ、これが最後ね……」
魔女は、男の子が今日の朝見せてくれた顔。
男の子が振り返り、最後に見せてくれた笑顔を見つめながら、箱にしまいます。
『行ってきます――玲師匠!』
箱に蓋をしてしまえば男の子との思い出は忘れてしまいます。
魔女は男の子と過ごしてきた幸せな時間に感謝しながら、箱の蓋に手をかけると、最後に呟きます。
「かけがえのない時間を……ありがとうね、小鳥」
そこにはいない男の子に笑顔を向け、思い出が詰まった箱に蓋をしようと、
その時――
ガッシャーンッッ!!
と、何かが勢いよく壁にぶつかる音が聞こえてきました。
魔女は驚いて音の響いた方向へと振り返ると、
「いってて……あいつら、転移術式の途中に背中叩きやがって……」
そこには、出て行ったはずの男の子がいました。
魔女は訳がわからず、男の子の様子を眺めていると、男の子は照れくさそうに微笑みながら――”また”魔女に話しかけます。
「すみません師匠、遅くなりました」
魔女は、忘れるという行為に後ろめたさを感じながらも魔術を行使しました。
(たとえ……あの子がここに残ってくれたとしても、いつかは訪れる事だったんだ)
自分を納得させる様に、
(人間が、普通の魔術師が、私みたいに永遠の時を過ごせるわけじゃない)
暗示をかける様に、
(あの子と別れるのが少し早くなっただけじゃないか……)
心を整理していきます。
魔女は自身の心の奥底へと潜ると、男の子との大切な思い出を記憶の箱へと詰めていきます。
壊してしまわない様に、一つ一つ、思い出を慈しみながら。
「ふふっ、こんなこともあったわね……私に初めて料理をしてくれた日。やけに卵焼きが黒かったっけ。でも……あんなに自身満々に、目を輝かせながら見られたら、食べないわけにはいかないわよね……」
「これは、浮遊魔術の勉強……かな? 重い物が持てるようにって教えたけど、あの子が浮き上がっちゃってすごく慌てたのよね……なのにあの子は元気に笑ってて……まったく、こっちの気も知らないで……」
「こっちは、怖い夢を見た時かしら? あらあら、こんなに泣いちゃって……この後、私に抱き着いてきて一緒に寝たのよね。あの子、すぐ布団を蹴るから、風邪をひかないか心配だったわ……」
「……本当、懐かしいわね……いつも、一緒だったのに……もう、あの子は、この家に……うぅっ……何で、何で私っ……」
「あの子が亡くなったわけじゃないのに……どこかで、幸せに暮らせているならそれでいいって、思ってたのに……何でっ……!」
数百年ぶりの人との関りは、とても温かく、魔女の心の傷を癒してくれました。
しかし、男の子がいなくなった今、古傷は再び開くどころか、新たな深い傷となって魔女を苦しめてしまいます。
「……忘れなきゃ。じゃないと私が、私の心が、壊れてしまう……」
魔女は、これが男の子を思い返す最後だと覚悟を決め、再び男の子との思い出を箱に詰め始めます。
「あの子が私の誕生日にプレゼントを――」
「あの子とお花見をした時――」
「あの子と喧嘩を――」
「あの子と――」
時間はどんどん過ぎていき、残すところ最後の一つになります。
「あぁ、これが最後ね……」
魔女は、男の子が今日の朝見せてくれた顔。
男の子が振り返り、最後に見せてくれた笑顔を見つめながら、箱にしまいます。
『行ってきます――玲師匠!』
箱に蓋をしてしまえば男の子との思い出は忘れてしまいます。
魔女は男の子と過ごしてきた幸せな時間に感謝しながら、箱の蓋に手をかけると、最後に呟きます。
「かけがえのない時間を……ありがとうね、小鳥」
そこにはいない男の子に笑顔を向け、思い出が詰まった箱に蓋をしようと、
その時――
ガッシャーンッッ!!
と、何かが勢いよく壁にぶつかる音が聞こえてきました。
魔女は驚いて音の響いた方向へと振り返ると、
「いってて……あいつら、転移術式の途中に背中叩きやがって……」
そこには、出て行ったはずの男の子がいました。
魔女は訳がわからず、男の子の様子を眺めていると、男の子は照れくさそうに微笑みながら――”また”魔女に話しかけます。
「すみません師匠、遅くなりました」
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