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修行4:たくさん甘えろ(1)
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シモンと出会って、半年が経った。
「師匠!昼飯食ったら手合わせしてくれ!」
シモンは教会の子供達にパンを配る俺の横にベタ付きながら、キラキラとした目を向けてきた。いつもの事だ。
「あいあい、分かったから。まずはメシを食えー」
「じゃあ、四個食う!」
「四個か……なんか四って数字は苦手だから、五個にしろ!」
「分かった!五個食う!」
シモンは、俺の心底適当な言葉に大きく頷くと、俺から五個パンを笑顔で受け取った。既に一個は口の中だ。その隣では、一番末っ子のヤコブがシモンの真似をして、小さな口に一個まるごとパンを放り込もうとしていた。
いやいやいやいや、無理だろ!
「ふぐぇ」
「おら、ヤコブ。お前は一気に食うな!また喉に詰まらせるぞ」
俺を見て爆笑しても窒息死する事はないだろうが、パンを喉に詰まらせたら窒息死する可能性がある。俺はヤコブの前に腰を下ろすと、口に詰まったパンを引き抜いた。
「……おれも、しもんみたいに、たべたい!」
「大きくなったらな」
いや、大きくなっても普通に一口一口確実に食べて欲しいが。
ヤコブにとっては、ともかくシモンが憧れの存在なのだろう。それに、この年頃の子供は何かにつけて上の真似ばかりをしたがる。
「ほら、口開けろ。あーん」
「あーん」
「ほい」
一度口に突っ込んでいたせいでパンはベタベタだ。正直、触りたくはないのだが、またパンを喉に詰まらせたヤコブに血の気を引かされるのは御免なので、ちぎったパンをその小さな口へと放り込んでいく。
「おいしい?」
「おいしー!」
満面の笑みを浮かべながらおいしそうにパンを頬張るヤコブも、半年前と比べると大分ふっくらしてきた。良い傾向だ。
「師匠……」
「ん?どうした、シモン」
声のする方を見てみると、既に五つのパン全てを平らげてしまったシモンが不機嫌そうな表情で此方を見ていた。
「修行は、いつすんの?」
「皆のごはんが終わったらなー」
「じゃあ、先に外で……素振りの修行してた方が良い?」
どうやら早く修行がしたくて堪らないらしい。
俺はムスッとしたシモンの頭に手を置くと、グシャグシャとその頭を撫でた。髪を切って痛んでいた部分が無くなったせいか、シモンの髪の毛は以前とは異なり、ツヤツヤと金色の光を帯びている。
「そうだな。先に素振りしててくれ。ご飯が終わったらすぐ行くから」
「すぐ来てよ!」
「あいあい」
俺が頷いてやると、シモンは「絶対だからな!」と、その場から弾かれたように飛んで行った。あれだけ“修行”を嫌がっていたのに、今では“修行”大好き少年になってしまった。いつの時代も、どの世界でも男の子は「強くなる」のが大好きだ。
「しよー、おれも、しもんみたいに、しぎゅおしたい」
「ヤコブがもう少し大きくなったらなー」
「えー」
シモンの走り去って行く背中を、ヤコブは羨ましそうに見ていた。それはまさに、弟が兄の背中を見る時の目だった。
◇◆◇
シモンは、やっぱりホンモノの勇者だった。
「今日こそ師匠に一太刀浴びせる!」
しかも、かなりド直球な熱血主人公タイプ。
「あぁぁぁっ!畜生!もう少しだったのに!」
こういう真っ直ぐで明るい主人公は、最近のソードクエストじゃ、あんまり見なくなった。
「師匠!新しい技教えて!」
多分だけどプレイヤーに感情移入しやすいように、どちらかというと平凡そうな主人公が増えた感じの印象だ。
「師匠、師匠、師匠!もう一回!もう一回!」
でも、俺はどちらかと言えば“コッチ”の方が好きだ。やっぱり勇者は、明るくて、元気で、優しくて、強くあって欲しい。
俺の憧れる勇者っていうのは、そういう奴だ。
「分かった分かった」
「よーし、約束だからな!一発でも俺の攻撃が師匠に入ったらっ」
「あいあい。口は良いから手を動かす!」
------
名前:シモン Lv:24
クラス:熱心な見習い勇者
HP:1980 MP:289
攻撃力:150 防御力:81
素早さ:61 幸運:15
------
シモンのレベルは日に日に上がり続けている。レベル30の俺が、シモンに追い抜かれるのも、もう間近だ。
「師匠!昼飯食ったら手合わせしてくれ!」
シモンは教会の子供達にパンを配る俺の横にベタ付きながら、キラキラとした目を向けてきた。いつもの事だ。
「あいあい、分かったから。まずはメシを食えー」
「じゃあ、四個食う!」
「四個か……なんか四って数字は苦手だから、五個にしろ!」
「分かった!五個食う!」
シモンは、俺の心底適当な言葉に大きく頷くと、俺から五個パンを笑顔で受け取った。既に一個は口の中だ。その隣では、一番末っ子のヤコブがシモンの真似をして、小さな口に一個まるごとパンを放り込もうとしていた。
いやいやいやいや、無理だろ!
「ふぐぇ」
「おら、ヤコブ。お前は一気に食うな!また喉に詰まらせるぞ」
俺を見て爆笑しても窒息死する事はないだろうが、パンを喉に詰まらせたら窒息死する可能性がある。俺はヤコブの前に腰を下ろすと、口に詰まったパンを引き抜いた。
「……おれも、しもんみたいに、たべたい!」
「大きくなったらな」
いや、大きくなっても普通に一口一口確実に食べて欲しいが。
ヤコブにとっては、ともかくシモンが憧れの存在なのだろう。それに、この年頃の子供は何かにつけて上の真似ばかりをしたがる。
「ほら、口開けろ。あーん」
「あーん」
「ほい」
一度口に突っ込んでいたせいでパンはベタベタだ。正直、触りたくはないのだが、またパンを喉に詰まらせたヤコブに血の気を引かされるのは御免なので、ちぎったパンをその小さな口へと放り込んでいく。
「おいしい?」
「おいしー!」
満面の笑みを浮かべながらおいしそうにパンを頬張るヤコブも、半年前と比べると大分ふっくらしてきた。良い傾向だ。
「師匠……」
「ん?どうした、シモン」
声のする方を見てみると、既に五つのパン全てを平らげてしまったシモンが不機嫌そうな表情で此方を見ていた。
「修行は、いつすんの?」
「皆のごはんが終わったらなー」
「じゃあ、先に外で……素振りの修行してた方が良い?」
どうやら早く修行がしたくて堪らないらしい。
俺はムスッとしたシモンの頭に手を置くと、グシャグシャとその頭を撫でた。髪を切って痛んでいた部分が無くなったせいか、シモンの髪の毛は以前とは異なり、ツヤツヤと金色の光を帯びている。
「そうだな。先に素振りしててくれ。ご飯が終わったらすぐ行くから」
「すぐ来てよ!」
「あいあい」
俺が頷いてやると、シモンは「絶対だからな!」と、その場から弾かれたように飛んで行った。あれだけ“修行”を嫌がっていたのに、今では“修行”大好き少年になってしまった。いつの時代も、どの世界でも男の子は「強くなる」のが大好きだ。
「しよー、おれも、しもんみたいに、しぎゅおしたい」
「ヤコブがもう少し大きくなったらなー」
「えー」
シモンの走り去って行く背中を、ヤコブは羨ましそうに見ていた。それはまさに、弟が兄の背中を見る時の目だった。
◇◆◇
シモンは、やっぱりホンモノの勇者だった。
「今日こそ師匠に一太刀浴びせる!」
しかも、かなりド直球な熱血主人公タイプ。
「あぁぁぁっ!畜生!もう少しだったのに!」
こういう真っ直ぐで明るい主人公は、最近のソードクエストじゃ、あんまり見なくなった。
「師匠!新しい技教えて!」
多分だけどプレイヤーに感情移入しやすいように、どちらかというと平凡そうな主人公が増えた感じの印象だ。
「師匠、師匠、師匠!もう一回!もう一回!」
でも、俺はどちらかと言えば“コッチ”の方が好きだ。やっぱり勇者は、明るくて、元気で、優しくて、強くあって欲しい。
俺の憧れる勇者っていうのは、そういう奴だ。
「分かった分かった」
「よーし、約束だからな!一発でも俺の攻撃が師匠に入ったらっ」
「あいあい。口は良いから手を動かす!」
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名前:シモン Lv:24
クラス:熱心な見習い勇者
HP:1980 MP:289
攻撃力:150 防御力:81
素早さ:61 幸運:15
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シモンのレベルは日に日に上がり続けている。レベル30の俺が、シモンに追い抜かれるのも、もう間近だ。
応援ありがとうございます!
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