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番外編2:弟子と飲み会(2)

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 二年ぶりに弟子と再会した。

「師匠、何の酒がいい?」
「んー、そうだなぁ」

 二年ぶりに再会した弟子は王様になっていた。いや、冗談ではなく本当の話だ。
 皆聞いてくれ!俺の弟子、今王様なんだぜ!と、地味に周囲に言いふらしたい気分だ。なんでかって?

 そんなモン、誇らしいからに決まってるだろうが!

「よければ、シモンが選んでくれよ」
「え、俺が?」

 さほど贅の尽くされていないその部屋は、どうやらシモンの私室らしかった。煌びやか過ぎない、地味で質素な部屋。でも、そのお陰で俺も妙に緊張せずに済んだ。

「うん、シモンが選んでくれ」
「いや、せっかくだし師匠が飲みたい酒を選んでよ。だいたいのモノは準備出来る筈だから」

 俺の返事に、シモンが深い笑みを浮かべて俺の傍に寄った。
 今や、玉座に腰かけていた時のようなゴールドと深紅のローブは脱ぎ捨て、簡素なシルクのローブを身に纏っている。簡素ではあるものの、その上質そうな生地は、素人目に上質な事が窺えた。なんだか、凄く手触りが良さそうだ。

「あんま酒とか飲んでこなかったから、種類とか分かんないんだわ。だから、シモンが選んで」
「……飲んでこなかった。そう、だよね」

 その瞬間、シモンの切れ長の眉がシュンとハの字を描いた。
 え、なになに?どうした?

「師匠。俺達のせいで、お金、全然無かったもんね」
「あっ!違う違う!そうじゃなくって!」

 王様として完璧に仕上がった美しい姿でシュンとされると、幼い頃のシモンと重なって、妙に母性本能を擽られる。俺は男だけど、シモンを前にすると「父性」ではなく「母性」と表現したくなるから不思議だ。

「俺、元々そんなに酒に強い方じゃないから!あんま量が飲めないんだよ!」
「……そうなの?」
「そう。あんま酔っぱらうと……ほら、俺も何するか分かんないし」

 教会には子供達が待っているのだ。もし、先輩みたいな嫌な酔っ払い方をして、皆に嫌な思いをさせたらと思うと、あまり率先して飲もうとは思えなかった。
 あとは……やっぱり酒は多少値が張ってしまうというのも間違いではない。そんな金があるなら、パンを買った方が皆で食べられるし、腹も膨れるし百倍良いと思っていた。

「師匠。酔うと何するか分からないんだ?」

 心なしかシモンの口元の笑みが深くなった気がした。

「いや、多分暴れたりとかはしないと思うから。心配すんな」

 まぁ、万が一俺が暴れたとしてもシモンなら何の問題も無い。レベル30の俺なんか、レベル100のシモンにかかれば赤子をあやすより容易いだろう。
 そう思うと、なんだか今日は何も気にせずに飲める気がした。

「じゃあ、師匠。今日は何も気にせずに、好きなだけ飲んでよ。何かあっても、この部屋で寝ていいから」
「……そっか!」

 余りにもシモンが頼りになる事を言ってくれるものだから、その瞬間、俺は本当に気が楽になった。今のシモンなら、俺が何をしても大丈夫だ。もう大人だし。多少俺がやらかしても、多めに見てくれるだろう。

「師匠。久しぶりなんだから、何も気にせず一緒に楽しもうね?」
「ああ!」

 体も心も立派に成長した弟子を前に、俺は大きく頷いた。現世で二十歳前に死んだ俺は、結局大学の飲み会で自分を曝け出す事はなかった。

 酔っぱらったら、一体俺はどうなるのか。
 笑い上戸になるのか。泣き上戸になるのか。
 それとも、あの先輩みたいに嫌なノリで周りを笑わせようとするのか。まぁ、そうなったらシモンから一発殴って貰えばいい。どうせ、俺はシモンには敵わない。

「ふふ、楽しみだ」

 圧倒的な力の差が、ここに来てこんなにもプラスに働くとは思わなかった。
 俺は従者に酒を持ってくるように伝えるシモンを遠くに見ながら、やっと迎えた弟子との“約束”を前に小さくほくそ笑んだのだった。


        〇


 頭がぼーっとする。
 今、何杯目なんだっけ。

「師匠、大丈夫?」
「……うん、おいしい」

 俺は目の前にある真っ赤なワインに手を伸ばす。俺、初めてワインって飲んだけど、意外と飲めた。さすが王様のワインは違う。きっと上質だから飲みやすく出来ているんだろう。

 ただ、何故か伸ばした先にグラスは無く、俺の手は謎に空を切るだけだった。

「……ん?」
「師匠、まだ一杯も飲んでないのに……こんな」
「あぁ、こっちか」

 俺は今度こそちゃんとグラスにめがけて手を伸ばすと、真っ赤な液体を口に含んだ。うん、おいしい。あんまり、最初より味とか分かんなくなったけど。ともかく、良い匂いがする。

「っはぁ、おいし。しもん、これ、おいしい」
「あぁ、もう」

 体が熱くなって、頭がぼんやりする感じが、新鮮で気持ち良かった。多分、これが「酔っぱらう」って事だ。
 なんだ、俺って飲んでもあんまり変わらない奴だったみたいだ。心配して損した。

「良かった。師匠が外で酒飲んでなくて」
「んー?どーした?」
「ううん、何でもないよ」

 シモンの大きな手が俺の顔に触れる。シモンの手はヒンヤリとしていて、酒のせいで熱を持った顔には酷く気持ちよく感じてしまう。俺はシモンの手に頬を擦り寄せ更に心地よさを享受する。あぁ、シモンの手が気持ち良い。

「っはぁ。師匠」
「……ん?しもんは、のまないのか?もう、よったか?」

 ただ、シモンは先程から殆ど酒を飲んでいない。呼吸も荒いし、顔も赤い。どうやら相当酔ってしまっているようだ。これ以上、シモンに酒を飲ませるのは止めておいた方が良いだろう。

「しもん、みずをのむか?」

 酔ったのであれば、水でも飲ませてやった方が良いかもしれない。俺はシモンの身に纏っているシルクの肌着に手を滑らせながら尋ねる。あぁ、これ手触りが良さそうだと思っていたが、本当にスルスルして気持ちが良い。

「……はぁっ、いいな。これ、つるつるしてる」
「し、ししょう」

 俺達は椅子とテーブルではなく、ソファで二人並んで飲んでいた。さすが、王様の部屋にあるソファだ。弾力はあるものの、フワフワで体の全体重をふんわりと包み込んでくれる。こんなモノが部屋にあったら、立ち上がるのは至難の業だろう。

「しもん、さけ。おいしいなぁ」
「っは、っは」
「……ぁあー」

 俺はそのまま遠慮なくシモンに寄りかかった。だって、シモンの着ているモノが気持ち良いから。出来るだけ触れていたい。まぁ、シモンも嫌なら止めるよう言うだろうし、もう少しだけ。もう少しだけ。

「しもん、きもちぃ」
「……っ」

 その瞬間、視界が一気に反転した。なんだ、この感覚。どこか懐かしい。デジャヴ、というヤツだ。これと同じ状況に陥ったのは、いつだったか。

「師匠、俺……も、むり」
「しもん……?」
「っはぁ、も……頭、おかしくなるッ」

 シモンが俺の肩に手を置いて此方を見下ろしていた。金色の瞳が、酷く充血しているように見える。同時に、俺の足には懐かしい固いモノが触れた。あ、シモンのだ。と、とっさに理解する。俺の足に擦り付けられるように押しつけられるソレは、なんだか懐かしくて可愛く思えた。

--------師匠、シて。

 そう、何度シモンに甘えられてシモンに自慰の仕方を教えてやっただろう。まったく、いつまでも自分で出来なきゃ困るだろうに。いつも、俺に甘えて。
 あれ、今ここはどこだったか。懺悔室か。いや、でも背中は痛くない。なんだ?ここ。

「しもん、あたまがいたいのか?くるしいか?せいちょう、つう?」

 苦し気な表情を浮かべるシモンの額に俺はソッと手を伸ばす。そんな俺の手を、シモンは大きな手で手首ごと掴むとそのまま自身の唇へと持っていった。

「んっ」

 掌にシモンの柔らかい唇が触れる。
 ちゅっ、ちゅっと何度も音を立てて掌に触れていたシモンの唇から、次第にヌルリとした舌が現れた。ペロペロと犬のように俺の掌を舐めていたシモンの舌だったが、そのうち指の隙間にもシモンの舌が滑り込んできた。

「っぁ、ん。しも……それっ」
「っはぁ、っは、ししょう、ししょう」

 そのうち固く勃起した自身を、俺の下半身に容赦なくこすりつけながら、シモンは俺の指を、まるでフェラチオでもするかのように舐め上げていく。なんだ、コレ。気持ち良い。俺のズボンの中も苦しくなってきた。

「しもん……くるし」

 俺がぼんやりする頭で言うと、シモンは更に苦し気な様子で俺を見下ろしてくる。その威風堂々とした姿は、まさに“王様”そのものだ。鋭い金色の瞳が孕む激しい欲求が、完全に俺の自由を奪った。

「ししょう……、おれも、くるしいから……もういいよね?」

 何が、どういいのか。
 ボーっとする俺の頭では理解出来なかったが、ともかくシモンが苦しそうな事と、それに俺自身が苦しいのも相成って、俺は本能のまま口を開いていた。

「いいよ、しもん」

 お前とだったら、何だっていい。
 俺はぼんやりと頷きながら、先程までシモンが舐めていた自分の指をペロリと舐めた。


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