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8:[推し 弁えた推し方]【検索】

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 こうして、「脱毛」から「推し活」へと移行した俺は、一カ月半の度に行われる拷問もハッピーライブ状態になった。今の俺には、どんな痛みもチートな精神状態で乗り切れる。

 それに、どうやら体感的に一番痛いと言われている場所が髭だったせいか、他の場所は泣くほど痛いなんて事はなかった。それに、もし痛かったとしても、俺は「推し」のアオイさんに会いに行っているんだ。

 ちょっとやそっと痛くたって、どうって事はない!

「タローさん!好きピのアニメ、終わっちゃいましたねぇ。寂しいです」
「わ、わかります!」
「それにしても、原作もまだ途中だし、アニメはどうやって終わらせるのかと思ってたんですけど、まさかあんな風に締めるなんて。さすが平定監督って感じでしたねー」
「わ、わかるぅ!」

 最近俺は、アオイさんの前では「分かる」だけしか言葉を知らない機械人形に成り果てていた。だって本当にアオイさんの話は全部「分かる!」だらけなのだ。
 でも、好きピが終わったら、じゃあ何を話せばいいんだろうと心配したりもしたけど、アオイさんの前では、そんな心配も杞憂に終わった。

「タローさん。日焼け対策はちゃんとしてますか?」

 俺の推しのアオイさんは、オタクでオッサンの俺みたいな奴とでも、その卓越した話術で難なく会話を盛り上げてくれるのだ。

「え?日焼け……あの、俺。休みの日はずっと家に居て、仕事も、全然外に出ないので」
「日焼けは脱毛の大敵ですから、これからはちゃんと日焼け止めを塗りましょう?最近、タローさん、ちゃんと保湿してくれて肌も綺麗になってるのに、もったいないです」

 こう言われた時は、推しに貢ぐチャンスだ。俺はこれまでたくさんの推しを推してきた。推しは推せるうちに推す。それが俺の流儀である!

「じゃあ、このお店の日焼け止めを買います!」
「えっ、あ。うち、日焼け止めは取り扱ってなくて……」
「じゃあ、じゃあ!アオイさんのブログとかでアフィリエイトリンクがあれば、そこから買います!」
「ブログ?あふぃりえいと?ちょっと、分からないんですけど。あ、そうだ!俺が使ってるのを後で紹介しますよ」
「そ、そしたら紹介料をお支払いしま……」
「いやいや、オススメをお伝えするだけなのでー」

 あわわ。最近、推したいのにアオイさんを金銭的に推せる場面が減っていて困っている。最初は単発コースから全身脱毛コースに変えるとか、お店の商品を買うとか、アオイさんの評価が少しでも上がるように、アンケートにアオイさんを高評価「星5」にして出すとか、お店の評価を高評価でネットに書き込むとか。

 考えうる限りの推し活をしていたのだが、最近はどれも手詰まりだ。
 ぐぬぬ、推しは推せる時に推すのが俺の心情なのに。

「タローさん。もう五回目ですし、大分、髭なんかは処理が楽になって来たんじゃないですか?」
「……困難を極めてます」
「えっ?」
「どうすればいいんだ……!」
「まだそんなに?おかしいなぁ、もう効果を感じてても良い筈なんだけど」

 本当は直接何かプレゼントを渡すのはどうかと思ったりもした。でも、モノによってプレゼントは迷惑になったりする。俺に、イケメンの好みは分からない。じゃあ食べ物を、と思ったりもしたが、ファンから貰った食べ物なんて、怖くて食べられないに違いない。

 俺はうんうんと頭を悩ませた。もっとアオイさんを上手に推す方法はないだろうか。

 コンコン

 すると、俺とアオイさんの居る個室に控えめなノックの音が響いた。

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