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7:[推し 沼 落ち方]【検索】
しおりを挟む「好きが重なり過ぎて、頭痛が痛いみたいな?あ、でもこの場合。どっちかというと「大好き過ぎ」って意味になるのかな……?あぁ、なんかワケ分かんなくなってきた。っはは」
わかる!「好きピが好き」って「推しを好き」って言ってるのと同じだから、好き過ぎてたまんなくなってる人みたいだ。
それ、前ブログに書いた時、俺も思ったんです!アオイさん!
「わっ、わかるぅっ!」
まだ二回しか会ってない筈の人なのに、アオイさんは「分かるぅ」って事ばっかり言ってくれるので、昔からのオタ友みたいな錯覚を覚えてしまう。いや、最近は学生時代のオタ友も皆、結婚したり転勤したりしたせいで全然話せてないんだけど。いや、だからこそめちゃくちゃ嬉しくて。
「……うれじい」
多分アオイさんは二十代前半で、十個くらい年が離れてる筈なのに。それに、俺と違ってイケメンだから俺とは全然違う遊びとかを沢山知ってるだろうに。友達もいっぱい居るだろうに。
「ね?好きピが、そもそも“好きな人”って意味なのに」
「う、うん!」
コツン、コツンと、頭の片隅で沢山ナニかが落ちる音がする。
そう、これは俺が「推し」に出会った時にいつも聞こえてくる音だ。俺は、まだ二回しか会っていないアオイさんに、完全に落ちてしまったのだ。
そう、“推し”の沼に。
「まぁ、一応質問に答えておくとですね」
アオイさんは何でもない事のように言いながら、カチャカチャと、今度は脱毛の機械を準備し始めた。やっぱりアオイさんの腰には、好きピの葵ちゃんが揺れている。
あぁ、推しが推しのキーホルダーをしている。好きピが好きみたいな状態だ。ん、はっぴーだ。
「宮森さん。好きになるモノに年齢とか顔とか関係ないですよ」
アオイさんがすっごく素敵な笑顔で、ド正論を口にしてくる。
「俺、普通に漫画とかも読みますし」
そうなんだ。アオイさんって他にも漫画とか読むんだ。他にどんなの読むんだろ。
「好きピは普通に面白いから好きなんです」
そっか、そっか。うん、確かに好きピは面白い。一見、絵が萌えアニメっぽいから嫌厭されがちだけど、中身はソレだけじゃない事は見ればすぐに分かる。
「戦闘シーンの迫力なんて、さすが“スタジオ工房”って感じだし。あのストーリーテリングはさすが平定監督って感じですし」
まさか、アオイさんみたいなイケメンの口からアニメ会社のスタジオ名や、監督の名前までもが出てくるなんて思いもよらなかった。
アオイさんは……ホンモノだ!
「ね、宮森さん……いや、タローさんもそう思いませんか?」
「あっ、あっ」
わかるぅ!
アオイさんは両手に、前回俺が号泣した拷問具を持ちながらニコニコ笑っていた。正直、あの痛みに再び襲われるなんて考えるだけで背筋が冷えるけど、何故だろう。今の俺は体中がポカポカして仕方がなかった。
「さ、タローさん。今日も一緒に頑張りましょう!」
「は、はい!」
その日、俺は麻酔クリームを塗って脱毛に挑んだものの、やっぱり痛くて泣いた。でも、チラチラ見えるアオイさんの腰に見える葵ちゃんのキーホルダーのお陰か、前回よりは痛くない気がした。
アオイさんは「タローさんが、ちゃんと保湿してくれてるからですよ」って褒めてくれて嬉しかった。
「タローさん、頑張って全身綺麗になりましょうね!」
「はい!」
その日、俺は一番高額な全身脱毛コースを申し込んだ。
これから行うのは「脱毛」じゃない。「推し活」だ。
5月25日
【脱毛レポ②】二回目の髭脱毛!
こんにちは、コタローです。
オタクが脱毛サロンを選ぶ時のコツって何だと思いますか?
結論から先に言います!(コレ、なんか仕事が出来る人みたいですね^^)
「推し」のやっているサロンに行く事です。
俺はオタクなので、正直、脱毛とかってお金がかかる割に、あんまり自分の中の価値観と見合っていない気がしてたんです。
このお金があったら、好きなアニメの円盤が買えるな、とか。ガチャが何回引けるな、とか。
(これ、共感してくれるオタクは多いハズ!)
そんな事ばっかり考えてたので、今回まで実はコースを組まずに単発で髭の脱毛をやっていました。ほら、これだといつでも辞めれるじゃないですか。
でも、今回満を持して全身脱毛コースを一括払いで申し込みました!わーい!わーい!
何故かというと、担当をしてくれるアオイさん(男)が、この度、俺の「推し」になったからです!
アオイさんは多分俺より凄く若くて、格好良いんですけど話が合うんです。好きピの話をしてても凄く盛り上がるし。
とにかく、格好良くて、優しくて、面白いです。まさに、葵ちゃんみたい!
そんなワケで、俺はこれから脱毛に行くのではなく「推し活」の為に脱毛サロンに通う事になりました。
皆さんも、脱毛サロンが怖い場合や、続ける自信が無い場合はサロンのスタッフさんを「推し」にすると良いと思います!
推し活たのしー!はっぴー!
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≪名前:イケメンしゃちくん≫
コタローさん、いつも楽しく見ています!脱毛サロンに推しを作るって凄い発想です!さすが、コタローさん!
≪名前:ボンボン≫
推しのサロンに行く事、確かにそれは真理かもしれません。俺も推しの居るサロンを探してみます!
これは、GWも終わり、夢も希望も失われた社内の一角での会話である。
「宮森さーん。もう完全にカモがネギ背負ってる所を一呑みされてんじゃん。笑うわ」
「っていうか、まだ全身コースじゃなかったんだな」
「だから、向こうも本気で落としにかかったんだろ。タローさんって見た目オタクだし、アニメの話でもしてりゃすぐ懐くと思ったんだろうな。さすが接客のプロだぜ」
「キャバクラみたいだな」
「同じようなモンだろ。ま、本人も推し活とか言って分かっててやってんだから幸せなんじゃね」
「……オタクって凄いなぁ」
「な。脱毛サロンのスタッフの……しかも男まで推しに出来るなんて、守備範囲広すぎ」
こうして、今日も今日とて誰とも会話をしない宮森タローは、フロアの一角で、自分が若手社員達から謎の憧憬の念を送られている事に、一切気付かずアニメを見て過ごしているのであった。
応援ありがとうございます!
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