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第七章

第49話『ツーマンセルvsツーマンセル』

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 各々の作戦会議が終わり、次は対戦相手の発表。

「じゃあ、僕と叶の相手は彩夏と結月」
「わかった」
「はいはーい、手加減しないよー」
「よしきた、全力で行くよーっ」

 やる気全開の彩夏と結月に対して、どうしてよりにもよってという目線を送ってきているだろう叶。
 その目にはほんの少しだけ殺気が込められているような気もする。

 僕も一方的に攻撃されて喜ぶ趣味はない。
 他の組み合わせに比べると、一番攻撃力が高い組に間違いないけれど、だからこそ、必要なこと。
 だから、そこは許してほしい……。

 つ、次。

「桐吾と美咲の相手は一華と一樹」
「よろしくね」
「私も頑張るよ」
「よ、よろしくね」
「よろしく頼む」

 相も変わらずクールな桐吾。
 握る杖に力が入り、緊張の色が見えている美咲。
 控えめに構える一華、あれは相手を油断させているのだろう。

 ここで疑問が浮かぶ。

 こういうお祭り事みたいなものには、前のめり気味だった一樹のテンションが高めではない。
 少しだけ不思議ではあるけれど、誰だっていつでも絶好調というわけではないのだから、それもそれでいい練習だ。
 本当に体調が優れないのであれば、自己申告してくれるだろうし、今は様子見でいいかな。

「じゃあ、始めようか」

 
 まず初めに、僕と叶対彩夏と結月。
 相手の手に構えられているのは片手直剣と片手短杖。
 対する僕たちは、両手小盾と片手直剣に小盾。
 組み合わせの中でも一番の攻撃力を行使する2人、当然のことながら勝機が目に宿っている。

 だけど、こっちだって負けるつもりはない。

「――始めっ!」

 美咲の合図によって幕が開ける。
 開幕早々、仕掛けてきたのは結月――後方から追従する様に彩夏の炎魔法。

 ――今だ。

『カンッ』
「っ!」

 右の盾を鳴らし、叶はそれに気づいて僕と同じに右へ飛ぶ。

「うっわ、なにそれ」
「ふーん」

 結月はそのまま真っ直ぐに通過、同じく彩夏の魔法も空振りに終わる。

「まだまだー!」

 彩夏の意気込みが聞こえ、再び結月も地面を蹴り突進してくる。

『カツッ』
「なるほど、こういう感じね」

 今度は左の盾を鳴らし、同時に左へ回避。

「うっそでしょ」
「……」
「あーもう、まだまだー!」

 彩夏は炎魔法の三連射を繰り出してきた。
 あれは普通ならば回避困難の攻撃。

 ――だけど、今なら。

『カンッ、カツッ、カツッ』

 合図の元、右――左――左と完璧に呼吸の合った回避をみせる。

「はぁっ!? そんなのないでしょうよ!」

 こちらの戦術は変わらない。
 回避と防御の徹底。

 結月もさすがに思うこともあったのだろう、一度彩夏の位置まで飛び戻った。

「ねえ志信、私は驚きが隠せないよ。あっちは絶対に気づいてないね」
「かもしれない。でも、油断はできないよ」
「だね」

 一息つき終えると当時に、あちらの意見交換も終わったようだ。
 結月が再び突進の兆候をみせる。

「くるよ」

 想定通りの突進。
 だけど、彩夏の魔法の軌道が弾幕となる。

「おりゃりゃりゃりゃーっ!」

 一つはこちらに向かって飛んでくるも、他の二発は向かって左側の宙へ飛んでいく。

 結月の顔に笑みが浮かんでいる。

 ああ、そういうことか。

「叶、受けてっ!」
「はいよ」

 剣と盾がぶつかり合う。

「つーかまえたっ」
「攻撃じゃ勝てないけれど、防ぐことなら負けないよ」
「力比べ―っ!」

 結月の怒涛の攻撃が繰り出される。
 素早い数度の刺突。
 風切り音が鳴る斬撃。
 その華奢な体からは想像のできない剣圧。

 対する叶は、身のこなし軽く防いでいる。
 柔軟な対応力で剣と盾を巧みに扱い、剣の軌道を逸らす。
 防御だけではなく、一瞬の隙を突く攻撃も見事だ。

 あれだけ見れば後は任せるだけでいい――彩夏が居なければ。

「私を忘れてもらっちゃダメだよーっ」

 そうくるよね。

 まるで結月の背中を狙った同士討ちにもみれる攻撃が飛んでくる。
 だけど、その目的は連携を図る攻撃。

「私たちも2人だからねっ」

 想定通り、結月は横へ飛んだ。

 だけど――。

「マジックバリアッ」

 体勢を崩していた叶は、回避が困難であった。
 それをも狙った攻撃、だけど、僕たちだって2人だ。

 赤光する薄い膜が砕け落ち、彩夏の攻撃が無効化された。

「志信、ありがとう」
「出たー、それずっるーい」
「ずるいのはお互い様ってことで」

 結月からの文句は理解出来なくもないけれど、今は敵同士。
 四の五の言っていられる状況ではない。

「ファストヒール、フィウヒール――これで、仕切り直し」
「なんだか、仲間なのに志信のことがちょっと怖いよ。少しだけ結月が言った最初の言葉が理解できたかも」
「でっしょー?」
「僕を怪物みたいに言うのはやめてほしいんだけど」

 会話の最中、貴重な情報を見逃しはしない。
 対話する結月の体力は、こうして話していれば余裕が伺える。
 だけど、今この時を休憩時間と膝に手を突く彩夏。
 体力的な問題もあるのだろうけれど、単純に魔法の乱発が問題だろう。

「じゃあ行くよー!」

 こうなってしまえば、実質的に二対一。
 だけど油断ができないのもまた事実。
 なんせ、あの結月という人間は予想不可能な攻撃を繰り出し、的確な攻撃を仕掛けてくる。

『カンッ』
「っ!」

 合わせて回避して距離を取る。

 そう、無理に打ち合って隙を見せてしまえば、敗北の確率が増えてしまう。
 それに、未だ可能性を秘めている彩夏を視界外に置いておくのは危ない。

「へえ~」
「どこからでもどうぞ」
「ふぅ~ん」

 少し肝が冷えた。
 自信満々に叶は結月を挑発。
 モンスター相手には全く通用しない言葉による挑発は、対人戦こその醍醐味とも言える。
 頭に血が上った人間というのは、簡単ことさえ見失い、ミスを犯す。

 だけど、後々が怖いからほどほどにお願いね……。

「はーぁっ!」
『カツッ、カツッ、カンッ』
「あーっもう!」

 僕たちは息ぴったりに回避を実行。
 結月もいよいよ苛立ちが前面に出始めた。

 だけど、回避の選択を取って正解としか言えない。
 結月の動きは風のように機敏で、末恐ろしいぐらいに正確だ。
 叶を信頼していないわけではないけれど、正面から撃ち合い続けてしまえば、間違いなく負ける。

 彩夏は……ああ。
 完全にへたり込んでしまっている。

 そして、美咲の声で全員が動きを止めた。

「そこまで!」

 終了の合図。

「えー! まだまだ戦いたかったのにー」
「ダメだよ。時間は時間。それに、私たちだってまだ戦ってないんだから」
「……はーい」

 不服そうに返事をする結月はこちらに歩み寄ってきた。

「ねえ、今度は私と組もうよ」
「機会があったらね」
「ぶー」

 結月は頬を膨らませ吹き、待機組の位置まで歩いて行った。

 次に叶。

「お疲れ様。短い時間だったけれど、凄く貴重な経験ができたよ」
「こちらこそありがとう。叶のおかげで選択肢がさらに広がった」
「いやぁ、結月の言葉をいよいよ理解出来たよ。志信とは絶対に敵として戦いたくないね。だから、今後ともよろしく」
「そうだね、僕も叶が味方でいてくれると助かるよ」



 次の対戦となる、美咲と桐吾対一華と一樹の結果は、美咲と桐吾に軍配が上がった。
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