世話焼き男の物作りスローライフ

悠木コウ

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連載

第86話

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 日本から異世界に転生して早十年。自分――ユータ・ホレスレットは都市エーベルに建てられた自分の店の一室でくつろいでいた。
 魔法を使うことができない"無能"と呼ばれるハンデを背負ったものの、自分には二つの特別な力があった。
 一つはどんな言語も任意の言語に変換できる力。

 古代の文字――魔導言語を脳内で日本語に変換して読むことができれば、それを文字としてそのまま書くことが可能だ。
 初めて見る言語でも認識し、変換し書き記すことができる。
 更には三年前のフリアントの街で起きた一件で文字としてだけではなく、言葉という音としても理解できる力が身についた。

 もう一つの特別な力は『記憶の図書館』だ。
 前世で得た知識が本として収納されている空間。
 とある本を開くとその空間へ移動できる。

 その二つを使って魔導具の開発を行い、現在では魔法を使えないという欠点を無くすことができている。
 魔導具というのは、魔法と同じような現象を引き起こせる道具のこと。
 魔力を流すだけで魔導具に刻んだ効力を発動出来る優れものだ。

 現在、その魔導具の力をふんだんに使って作り上げたマッサージチェアに自分は身体を預けている。

「あぁ~ここ最近は座り仕事ばかりだから、これを作って本当に正解だったよ」

 三年前に自分は商人になるため、王都にあるメルト学院に入学した。
 今は無事学院を卒業し、エーベルで自分をお店を持つまでになった。

 開業三ヶ月ながら初めに開いた飲食店の経営は好調な滑り出しで、その後売り出したシャンプーやリンスを始めとした女性向け商品も順調な売れ行きである。
 それによって得たお金で魔物から取れる素材を色々と購入して作り出したのが、このマッサージチェアだ。

 グレイトフルバイソンという牛の魔物から取れた皮を使い、内部には粘体の魔物であるスライムから取れるスライムゼリーを主に使っている。
 作っていた面白かったのがスライムゼリーだ。
 前にシャンプーハットを作る時、ゴム状の物ということでスライムゼリーを使ったことがある。
 その時は気が付かなかったが、実はスライムゼリーは魔力を込めると硬度が増すのだ。

 しかも部分部分に魔力の量を分けることが出来る。
 マッサージチェアの足部分にある揉み玉スライムゼリーの場合、揉み玉には魔力を八、突起部分には魔力を六。
 という風に分けることで適度な硬さを以って、スライムゼリーが足を揉みほぐしてくれる。

 背中を叩く振動、首や足がもみほぐされる心地よさに息が漏れる。
 そんな自分に、年寄でも見るかのような視線を向けてくる存在が一人。
 純白の体毛をした四足の魔物、ドラウクロウだ。

「まだ若いと言うのに随分と年寄り染みた様子だな」

 彼は身体を丸めて窓から差す日差しを浴びている。

「書類の整理とか商品開発の企画書をまとめたりとかで、ずっと座りっぱなしだったから身体がなまってね」

 こればかりは仕方ないよ、と返した言葉にマッサージによる振動が乗る。
 現在の時刻は正午をまわった頃、街は日が明けた時刻から少しばかり静まりを見せていた。
 午前中に行う仕事は無事片付き、こうして休んでいるわけだ。

 マッサージチェアに座ったまま、顔を傾けて窓に視線を向ける。
 窓の先は中庭。視線の先には一本の木がなっている。
 その木を背もたれにするように一人の少女が眠っていた。

 その少女が背を預けている木に視線を向けたまま、ぼーっとしていると自分のお腹から空腹を訴える音が鳴った。

「お腹が減ったね」

「昼時だからな」

 今度は四肢を体に内側にしまい座っているドラウクロウに視線を移した。
 庭にいる少女――ドリアードと目の前のドラウクロウは神子と呼ばれる存在である。
 一度命を落とした後、神に昇華出来うる素質を持った魂へ、仮初かりそめの身体を与えられた存在。
 それが神子。

 そして、神子に人の世界と人間について教える役目を担ったのが自分だ。
 そのために神様が自分をこの世界に転生させた。

 神子に人らしさを教えるのが役目とはいえ今の所、普通に生活を送っているだけ。
 はたしてこれでいいのかは分からないが、神であるイフレット様からは特に何も言われていない。
 そもそも、ここの所は彼に会えていない。

 『記憶の図書館』に赴いても置き手紙の一つもない。
 まあ、以前から何も言われていないのでとりあえず問題はないと思う。

「昼ごはんは外に食べに行こうか」

 マッサージチェアから立ち上がり、体を軽く動かしながらそう言った。

「ほう、よい案だな。外食といえばやはりあそこか?」

「当然。ちょうど新作料理の味見をお願いされていたんだよね」

「ドリアード殿はどうする?」

 ドラウは庭で寝ている彼女を一瞥して聞いてくる。

「食事に行ってくるだけだから、あのまま寝かせておいて大丈夫だと思うよ」

 そもそもドリアードは人の形を取っているが、本体は彼女が現在背もたれにしている木である。
 人のように振る舞えているため時々忘れそうになるが、彼女は人ではないのだ。
 そんな彼女の食事は魔力であり、その魔力は地面から補給している。
 そのため、人の食事は食べることができない。

 一緒に連れて行っても彼女は退屈しそうなので、寝ておいてもらうことにした。
 そのことをドラウに告げると、よっぽどお腹が空いていたのか彼は勢いよく立ち上がり口を開く。

「そうか、では行くとしようか」

「その前にちょっと寄っていきたい場所があるんだけどいいかな?」

「問題ないが、どんな用があるのだ?」

 お腹が空いているため、待ちぼうけを喰らいたくないのだろう。

「友達を食事に誘おうと思ってね」

 そう言って、ドラウと一緒に友達の元へと向かった。
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