18 / 55
第1章
第17話 甘い痛みを甘酒に添えて
しおりを挟む死に戻ってから半日以上が経った。不幸の呪いから逃れるために、きっかけとなった例の落石事故を防ぐことから対処する事になったオレたち。
「絶対境界ギルド入会合格おめでとうございます! 正式なメンバーズカードを発行いたしましたコン。初めてのクエストは……『落石の呪いを解除せよ』いきなりS級クエストですが頑張って下さい!」
キツネ耳受付嬢に、正式なギルドが決まったことを報告してクエストを受理。
マスターにも改めて挨拶、すると今後の計画とアドバイスが伝授される。
「頑張れよ、滅亡レベルの呪いはいきなりすべて解くことは出来ない。だから、きっかけとなるフラグをひとつずつ消していく作業が肝心だ。洞察力を磨くことを忘れるなよ」
事故にかけられた呪いの解き方とオレに欠けている能力値を上げる札を授けてもらった……後は戦うだけだ。
取り敢えず、ゲートをくぐり現世の家神荘へと帰還する。
* * *
「ふぅ……なんとかなりそうで良かったな。本番は明日の早朝だけど……」
「みゃあ、スグル様は運転手の車で通学していますからバス通学はしていないにゃ。だから、バスに乗らずに運転手と一緒にみんなで現場に移動するといいのにゃ」
「ずいぶんと、家神家の暮らしぶりは変わったのう。なんというか、外と少し距離をはかるようにしているのじゃな」
「ああ、ふもとの家で起きた何かしらの事件は16年前に起きたって設定になっているらしいから。人付き合い自体警戒しているのかもな」
1巡目とは異なり、裏山の別荘を本宅として使うようになった2巡目では姉や妹による婚約祝い料理は登場しなかった。代わりに、おかかえシェフによる和のおもてなし料理でスイレンを迎え入れた。
大広間に並べられた料理は数々の精進料理を中心に、鯛やマグロの刺身、季節の果物など。
基本的に、肉料理は避けているようだ。
「スイレン様、家神一族に嫁がれたお祝いの料理です。レンゲ族の女神様のお口に合うと良いのですが……。霊力を損なわないように、精進料理を中心にお祝いの魚料理を調達しました。材料は、異界より取り寄せたものです」
「まぁ、精進料理だけじゃなく鯛やマグロまで頂けるなんて贅沢じゃのう。しかも、異界からわざわざ取り寄せて……」
明日の早朝すぐに、落石が起きる予定の現場に行って戦わないといけないことを考えると、霊力を保ちやすい食事が良いだろう。
「スグルのことよろしくね、スイレンちゃん!」
「スイレンお姉ちゃんと一緒に暮らせて、嬉しいなっよろしくね」
ツグミ姉ちゃんは、1巡目と違いスイレンのことをさん付けではなくちゃん付けで呼ぶ。アヤメはお姉ちゃん呼びだ。これも、変化の一種なのか。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「あのさ、もしかして鯛やマグロも異界から取り寄せたの? 一応、山をおりて街に出れば魚も手に入るけど……」
「はい。ここは現世の中でも特に山奥ですし、料理人は皆異界の民ですので、そちらの方が手配がしやすいのです」
(1巡目では、姉ちゃんとアヤメが近所の商店街で婚約したことを言い振り回しながら買い物したから、次の日は情報が筒抜けだったけど。もしかして、どこかで姉ちゃんたちも同じ展開になるのを避けているのかな? 記憶がなくても、勘で危険を回避しているのか)
ところどころ、変わってしまった生活に若干の違和感を感じながらも、今度こそ誰も死なせないように……と決意を新たにする。
「スイレンちゃん、大浴場の一番風呂……入ってきていいわよ! せっかく、家神へ嫁いで来た記念だもの」
「えっ……ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……」
スイレンが一番風呂をもらうのは、1巡目と同じ展開か。風呂は大きめの浴室の他にもそれぞれの部屋に用意されているので、オレは部屋の方を使わせてもらった。
「はぁーさっぱりした!」
ドライヤーで髪を乾かし天然水のペットボトルで水分補給。ぼんやりと、新たな自室のベッドに身体を預けて天井を見上げる。家具からカーテンから、何から何まで洋風で調えられており、別荘にそのまま住んでいるという感覚が拭えない。
「この部屋って、昔からオレが別荘に泊まるときに気に入って使わせてもらってた部屋だっけ? まさか、2巡目では自室になるとは……」
死に戻りをするまではずっと、ふもとの家の和室の部屋を使っていたから不思議な感じだ。
* * *
コンコンコン……誰かが部屋のドアをノックする音。といっても、同じ家神荘で暮らす住人は家族か使用人か……もしくは今日から同居するスイレンしかいないわけで……。
「はい、どうぞ!」
「……スグルどの……その、お話ししても?」
「! スイレンッ? ああ、中に入って!」
「……では、失礼します……」
スイレンの寝巻きは1巡目のときとは別の柄の薄手の浴衣で、お風呂上がり特有のしっとりした素肌が布越しに透けるように感じられる。長い髪はアップヘアで後ろで束ねており、むき出しになった白いうなじがチラつく。
これに似たシチュエーションは、1巡目でもあったが前回は家族の目があった。だが、今回は自室にオレとスイレンの2人っきりだ……婚約したての若い2人が密室に……意識しないはずがない。
「いよいよ……明日じゃな……。1巡目と運命を変えられるか、心配で……」
「スイレン……大丈夫だよ」
「ごめんなさい、スグルどの……。本当は、もっと婚約者らしい楽しいおしゃべりをしようと思ってきたのに……。ほら、1巡目はすぐに事件が起きてあまり婚約者同士の時間が作れなかったから……」
そういえば、1巡目では、婚約したもののそれっぽい雰囲気だったのは始業式の朝まで。その後は事件が発生してしまい、あまり楽しい雰囲気ではなくなってしまった。
もっと婚約者らしい時間を楽しみたかったという気持ちは、オレも同じだ。
「1巡目みたいなことにはならないし、させないよ。今からでも、婚約者っぽい時間をたくさん増やそう! えっと……あのっ座って……! ああ、飲み物いれようか? 冷やし甘酒で良い?」
「うむ、そうじゃな……ありがとう。スグルどの!」
にっこりと微笑むスイレンは、どこか切なげで、抱きしめたくなる衝動にかられる。
スイレンをソファに腰掛けさせて、冷蔵庫から冷やし甘酒を取り出しガラスのコップに注ぐ。当たり前だが、ノンアルコールで未成年でも安心だ。
オレ自身の緊張を現すかのごとく、勢いよくドクドクと紙パックから注ぎ込まれる白濁色の液体が、落ち着きなく少しだけ飛び散ってしまう……。慌ててテーブルを拭くも、動揺が隠せていないようだ。
「ふふっ美味しそう……じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます」
こくん、こくん……とゆっくりと小さな唇でオレが注いだ白い液体を飲み込むスイレン。ゆっくり、静かに躍動する喉の動きのあまりの艶っぽさに、オレもゴクリと喉を鳴らす。
「んっスグルどのも、飲みたいのか?」
「えっと……ああ、それで終わりだから……その……」
「んっ? スグルどの、半分まだあるぞ?」
不思議そうな表情で、半分余った冷やし甘酒のコップを差し出すスイレン。飲んでいる途中に話しかけたからなのか、唇にはほんのりまだ白濁の液が光っている。
別に残りの冷やし甘酒をクレと強請っているわけではない。オレが欲しいのは、そっちではない。欲しいのは、彼女の可愛らしい唇だ。
「……そ、その……どうせくれるなら……スイレンッ!」
「スグ……んっ……」
思わず、衝動的にスイレンを抱きしめて口付ける。もし、万が一……明日失敗して、またスイレンを失うことになったら、と考えたら居ても立っても居られなかった。
「好きだよ、スイレン……。絶対に、今度こそ幸せにしてあげるから……」
「スグルどの……私も……好きっ」
同時に、半分だけ残った冷やし甘酒はカランコロンとした音を立てて、赤いじゅうたんに転げ落ちてしまった。
コップは、テーブル下の溝に引っかかり転がった勢いと反動でゆらりゆらりと溝の間を行ったり来たりと、勢いが鎮まるまで反復運動を繰り返している。
ドクドクと赤いじゅうたんにじんわり染み込んでいく白い液体が、赤い生地に混ざって……。
やがて、オレたちの気持ちが通じ合ったのを察知したかのごとく、ピンク色に染まった。
「スイレン……明日もあさっても……その先のずっとずっと何年も先も……ずっと一緒だから」
「うん、スグルどの……信じてる……」
繋いだ手から、お互いのとくんとくんとした鼓動が伝わる。
甘く切ない痛みが、オレとスイレンのお互いの胸をいっぱいにしたその訳は……アルコール分ゼロの甘酒のせいだけじゃなさそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる