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第2章
第2章 第8話 時の糸を紡ぐ西方の女神
しおりを挟む「えっと、さっきのお嬢さんってスイレンと伽羅のことですか? 確かに同じギルドチームの仲間ですが……あなたは?」
紹介状発行の待ち時間を無料のサービス緑茶でまったり過ごそうとしていた矢先、謎の少女が……。いや幼さは、残るものの女性と呼ぶべきだろう。兎にも角にも、突然美女がオレに話しかけて来た。
しかも、金髪碧眼のすこぶる美人さんである。和の神々が多い異界では、いわゆる外国人系の神にお会いすること自体珍しい。
だが、流暢な日本語を話すところを見ると、旅行者というわけではなさそうだ。それに服装だって、おかための紺色スーツの上着に同系色のズボン、コートはトラッド系の黒だ。どちらかというと、ビジネスファッションと言える。
仕事のできる女性といった雰囲気でバレッタでまとめた髪が、清潔感をもたらす。化粧も押し付けがましくないナチュラルメイクだが、艶めく朱色の口紅が色気を感じさせる。
「突然話しかけてごめんなさい……申し遅れました、私の名はモイラ。異界時間軸調査会の新米調査員ですわ。盗み聞きしていたわけではないんですが……偶然女学校時代の同窓生であるスイレンと伽羅を見かけたので……」
「あぁ……つい、話が聞こえちゃったみたいな感じかな……。オレは家神スグルって言います。立ち話もなんですし、良かったら座られた方が……今お茶を持って来ますね」
それなら、さっきスイレンたちがインターネットコーナーに向かう前に声をかけてくれれば……と思ったが、モイラさんにも事情がある様子。
丁寧に名刺をオレに手渡して、向かいの席に着く。名刺には確かに異界時間軸調査会の文字……普通に異界で活動している組織のようだ。
声をかけられたのはオレの方だが……既に緑茶を飲みはじめていたこともあり、モイラさんの分のお茶も用意することに。外では、深々と雪が降り積もっており、室内にいても温かい飲み物は必須である。
「まぁ! グリーンティーまで用意していただいて……ありがとう。実は、あの2人は現世に降りるために1度重要な情報を記憶から除去されているはずなので。私のことを覚えているか自信がなくて……」
つまりそれは、モイラさん自身も自分が所属している団体が、異界にとって機密情報となりうる組織だと認識していることを意味する。スイレンたちの話によれば、重要な情報となる部分は現世に降りる際に除去されると言っていた。
「そういえば、スイレンたちもそういうニュアンスの話をしていたっけ。けど、本当に異界時間軸調査会に知り合いが居たのか……記憶が除去されているわりにそこは合っていたなぁ」
「もしかすると、記憶というものは完全には消すことが出来ないのかも知れませんわね。奥深いことです……。ところで、家神さんはやはりこれから時間軸の調査を行うつもりですか?」
そのために、わざわざ紹介状まで申請して調査会の許可を得たいわけだが……。やはり、隠された時間の歪みに干渉するというのは、危険なことなのだろうか?
「えっ……? 実は、突然調査会から報告書が来たんですけど、依頼主であるうちの父が不在でして。オレたちは依頼内容とか詳しく知らないし、不明点が多かったので、自分たちでも調べられたらって……」
極力、怪しまれないようにこちらの事情を説明する。死に戻りによるタイムリープは、ギルド本部には報告されているが、異界時間軸調査会という組織にまで通達されているかは謎だ。ギルドの指示がない限り、自分からはあまり詳しく話さない方が良いのかも知れない。
「なるほど……クライアントが不在では、残されたご家族に不安があるのも当然ですわね。紹介状があれば、ギルドの介入ということでスムーズに【時渡り】が出来るはずですが……。詳細はまた明日以降にしましょう……お待ちしておりますわ。スイレンたちにもよろしくお伝えください。では……ごきげんよう」
上品に緑茶を飲んで、モイラさんは立ち去っていった。まとめ髪のうなじが美しい後ろ姿……コツコツと革靴の音が響いていたが、それも多くの神々の行き交うロビーラウンジのざわめきにかき消されていく。
まるで、幻でも見ていたかのような不思議な感覚にとらわれる。敢えて言うなら、本来はそこに居るはずのない人が、時間の隙間を縫って割って入って来たかのような……。
だが、紙コップには淡い朱色の口紅の跡……確かにその場所にモイラさんがいた形跡をくっきりと残している。
また明日以降に……ということは、明日の来訪はモイラさんも立ち会うようだ。いわゆる事前の面接のような形になってしまったことに、じわじわと妙な緊張を覚える。
「はぁ……なんだか変な汗かいちゃったな」
すでにぬるくなってしまった緑茶を、飲んでため息をつく。
別に悪いことをしているわけではないが、やはり自分の家を守るためとはいえ禁忌に近い術である死に戻りをした罪悪感だろう。それとも、本来は封じられていた時間軸の秘密をこじ開けなくてがいけないというプレッシャーだろうか。
「……スグルどの……。ため息などついて、さぞ緊張していた様子じゃのう」
気配すら感じさせず、背後から……スッと現れた声……どうやらオレの婚約者であるスイレンが戻ってきたようだ。久しぶりのインターネットサーフィンだという話だし、もう少し遅い帰りだと思ったんだが。
「あぁスイレン、戻ってきたんだ。それが、さっきまで人と話していてさぁ……」
振り返ると、そこには美貌がウリの睡蓮の女神とは思えない目の座った表情が……。彼女の喧嘩友達の伽羅でさえ、こうなると手がつけられないのか、苦笑いしている様子。マズイ、何か勘違いされている?
「紙コップに口紅の跡がくっきりと……ふふふ、婚約者のいない間に、他の女人と密会とは……。スグルどのも随分と大胆になったものよ……どれ、いざという時の証拠のために、浮気現場の写真を……」
警察や検事が現場を検証するかのごとく、形跡を崩さないようにスイレン自らの手で証拠写真を撮り始めた。
カシャカシャとスマホのシャッター音が鳴り響く……なんの証拠なんだよと思わず突っ込みたくなったが、慌てると余計に疑われそうだ。無罪を証明するためにも、極力平静を装う……オレは別に悪くないぞ。
けれど、相手は滅亡の花言葉を持つ睡蓮の女神……このまま呪いでもかけられたらと考えただけで、冷や汗が滲んできた。
「もうっスイレンさんったら。少しは、スグルさんの話を聞いてあげても……あら? これは……おかしいですわね」
一応は場を落ち着かせようとしたのか、伽羅がスイレンとオレの間に入る。さすがは、天女だ……気が強いようでいて、いざという時は平和主義なのだろう。
だが、スマホを覗く伽羅の表情が戸惑うようなものに変化していく……正確には困惑しているのだろうか。
証拠写真を確認するスイレンの目からは怒りの色が消え……代わりに、普段あまり見られない冷静な表情へと変化していく。
「これは……いや、確かにここには口紅の跡がついた紙コップが……」
「スイレン? 一体、どうしたんだよ。あぁ……さっきまでここにいた女神様ってスイレンたちの知り合いだって話していたぞ。だから、別に何も怪しいことなんて……。スイレン……?」
無言でスイレンがスマホの写真画面をオレに見せる。そこには、確かに置いてあるはずの口紅付きの紙コップは写っておらず……。代わりにオレがお茶を飲む姿だけが写っているのだった。
「あるべきはずのものがなく、形跡を残さず消えていく。まさに時の渡り人……思い出したぞ。時の糸を紡ぐ西方の女神……モイラ、異界時間軸調査会の新たな監査役……か」
スイレンの呟き通り、モイラさんが使っていたはずの口紅付きの紙コップはいつの間にかテーブルの上から消えていた。
まるで、彼女がこの時間の軸にいたことそのものが、幻であったかのように。
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