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第2章
第2章 第9話 時を渡る九星の年盤
しおりを挟むギルド本部からの紹介状を片手に、ついに異界時間軸調査会へとやってきた。
真冬の……しかも早朝の移動は、凍りつく地面や震えるような寒さとの戦いだ。幸い、昨日の雪はそれほど積もらずに済んだようだが、凍った地面は不安定で危うい。
しかも、重ね着した上に厚手のコートを着込んでいるにも関わらず、これでもかというほど寒さが襲ってくる。なかなか厳しいものがあったが、これも家のためと言い聞かせた。
調査会の敷地はかなり広く、入口の門から建物までの移動にも時間がかかる。今の季節が雪のシーズンだから咲く花は限定されているが、春先ごろからは色とりどりの花々が咲き誇るらしい。
「この広い庭園も、春に来たら綺麗なんだろうなぁ……。これだけ広ければ植物園としてやっていけそう」
ふと、やたら広い庭園に思っていたことを口に出してしまう。我が家の庭園も結構広めだが、流石にここの敷地よりは小規模だ。
「もともとは、植物を育てる敷地だったのを調査会が本部として買い取ったそうですわ。現世で言うところの明治期に、時間調整をする組織として設立した……とされています。異界の組織の中では、まだ若い部類と言えるそうです」
伽羅が、異界時間軸調査会の歴史……というパンフレットを見ながら、組織について説明してくれた。
明治期設立で若い組織と言われてしまうあたり、異界の組織が長い歴史を持つものばかりで構成されているのを実感させられる。
「ふぅん……人間の感覚からいうと、明治に設立なんて結構歴史の長い組織に感じるけど。そういえば、昨日オレが会った時間の女神様……モイラさんって、スイレンたちとは同じクラスだったのか?」
いつのまにか、その場にいた形跡を消してしまうという不思議な力を持つ女神のモイラさん。正確には、モイラという名は伝統のある女神ネームを継承しているだけで、彼女個人の名ではないらしいが……。
スイレンだって、睡蓮の女神だからスイレンと呼ばれている……というし、神々は個別の名を持たなくても生きていけるのかもしれない。
「うむ、ちょうど最終学年の時に3人同じクラスになってのう。モイラは、他所の国からきた外国人生徒の中でも、特に成績優秀者じゃった。資格試験に合格して、異界時間軸調査会に入ったはずじゃ」
「へぇ……優等生ってことだな。じゃあ、この異界時間軸調査会って組織も相当エリート組織?」
現世に降りる際に記憶を部分的に除去されていたスイレンと伽羅だったが、モイラとオレが接触したことによりだいぶ記憶を取り戻したらしいし……いろいろ聞いてみても良いだろう。
「ええ、かなり……エリートの団体でしょうね。それに時間軸を操れる神以外は、就職できない組織ですし。特殊な機関であることは間違いないですわ」
何だかんだで、話しているうちに調査会の建物前へと到着。お屋敷のようなドアの前で呼び鈴を鳴らすと、メイドさんが案内してくれる。紹介状を手渡して、内容確認をしてもらい中へ……。
「ご予約の家神様ですね。紹介状を確認させていただきます……ご案内いたしますわん!」
しかも、犬耳と尻尾付きの可愛らしい犬神様系のメイドさんだ。メイド服は品の良いロングスカートで、昔ながらのメイドスタイルと言える。
本当に、調査組織なのだろうか……メイドさんが雇われているなんて。うちにも猫耳御庭番メイドがいるので、他所のことは言えないが……。
「時渡りの儀式はモイラ調査官が行いますので、この部屋でお待ちくださいわん」
しばらくすると、スーツルックのモイラさんが登場。書類を片手に、歩く姿はとても新人には見えない威圧感だ。
「家神様、先日はどうも……スイレン、伽羅も久しぶり。お待ちしておりましたわ。時渡りの説明をいたしますので……奥の転移室へどうぞ」
* * *
時渡りの目的時間は、15年前の夏から秋にかけて……。
流石にコート姿では目立つので、コートとセーターを脱いで長袖シャツとジーンズという季節的に浮かないファッションに変更。
靴はブーツではなく、持参したスニーカーである。
「服装は、こんな感じで浮かないよな?」
「ええ、流行にとらわれないファッションであれば。15年前の街並みを家神さんが歩いていても問題ないかと……」
転移室には、八角系の風水盤が四方八方にかけられており、いわゆる九星気学の方位を記している。
これらの方位は、毎年変化していくもの。オレも【異界術師】という職業に就いている身……。つまり、元を辿ればいわゆる陰陽師なので、それなりに気学の知識もある。だが、専門家というわけではない。
「では、異界時間軸調査会の監視の下、家神スグルの時間転移を行います。因縁の根源となる歪みを発見し、そのポイントを確認することまでは当団体が許可しますので……」
「もしかして、時渡りにはこの方位盤を使って行うんですか?」
壁面に掛けられた方位盤を指して、これから行う時渡りの儀式について確認する。
「ええ、時渡りしたい年代に該当する方位盤に霊力を込めて、対象者を転移させていきます。私の霊力を使って行いますが干渉地点が呪われた土地である以上、家神一族の人間が時間軸に転移する……というだけで霊力的に精一杯なので……。家神さん一人だけを転移させますね。ところで、家神さんは方位盤の知識は……?」
「そこそこは、理解しているつもりだけど。えっと……恵方に向かって恵方巻きを食べる方位が毎年変化するのは、恵方を決定する十干や風水年盤の九星の方位が毎年変化するから……ってことですよね? 基本は五黄土星が中心にいて、八つの星が周りの方位にいるけれど。その中心は毎年変化する……」
例えが、スーパーやデパートで人気の恵方巻き……馴染みのある食べ物で、あまり陰陽師らしさを感じられないかもしれないが。ちょうど恵方巻きのシーズンの冬ということもあり、自然とこの話題になってしまった。
つまり、風水盤の九星の中心となる星は毎年順番に変化して、クルクルと運気が巡っているのだ。中心となる星にはそれぞれ特徴があり、どの方位になんの星が収まるかによってその年の吉方位が変化する。また、十干の巡りも変化するので恵方が毎年違うのだ。
「そうですね、毎年中心となる方位がその年の運気を司っています。良い方角、悪い方角が毎年変化するのもそのためです。説明すると長くなるので……家神さんが理解していればそれで良いでしょう」
九星気学の話もほどほどに、早速時渡りのために15年前の方位盤の前に立つ。オレとしても初めての時渡りなので、因果の歪みを見つけたら場所の記録のみ行いすぐに現代に戻って来るつもりだったが……。
「一応、時渡りを行う前に注意事項を説明してもよろしいでしょうか?」
「えっ……はい、よろしくお願いします」
「すでに時間軸として現在の世界線が完成している限りは、15年前に起きた事件を解決して、何もなかったことにすることは出来ません。個人的な感情で、完結した世界線を乱さぬように……いいですね?」
真剣な面持ちで、注意事項を語り始めるモイラさん……15年前なんてオレはまだ赤ん坊のはずだし。知り合いすらいないわけだから、個人的な感情が乱れる可能性なんかないはずだが。
「スグルどの、今回は歪みのポイントだけを抑えればいいのじゃ……! 呪われている地点さえ判明すれば、現代でお祓いが出来るからな。焦らぬよう……」
「一緒に行けなくて心苦しいですが、ご武運をお祈りしておりますわ……気をつけて。一度目の時渡りでポイントが見つからなかった時は、撤退するのも策の一つですわよ!」
随分と2人とも慎重である……それだけ、時渡りという儀式は危険なのだろう。
「平気だよ! 心配しなくていいからさ。じゃあ、行ってきます」
変に負担をかけないように明るく手を振り、方位盤の霊力に身を任せて時渡りを始める。
最近は3人ないし、メイドのミミちゃんも加えて4人でクエストを行なっていた。なので、余計単独任務に懸念が生まれるのだろう。
(大丈夫……オレには15年前に因縁なんかないし。気持ちなんか乱れない……乱れるはずがない)
次第にウトウトとした眠気が襲ってきて……気がつくと、15年前の家神邸の前にタイムスリップしていた。
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