若年最強の陰陽師はノリで婚約した女神様から服従を迫られている

星井ゆの花

文字の大きさ
40 / 55
第2章

第2章 第12話 似た瞳の2人

しおりを挟む

「ご馳走さまでした。暑い季節だから、お素麺は食べやすいし。精進料理の高野豆腐の唐揚げも、すごく美味しかったです。そろそろ帰らなきゃ……バスは……」

 初めて食べる高野豆腐の唐揚げはもちろんのこと、夏の定番そうめんや冷やしたラタトゥイユ、黒ごまの豆腐も美味しくて満足だ。小さい方のスグルも、離乳食である短く切ったそうめんとラタトゥイユを食べて満足したのか眠そうである。

 いろいろと名残惜しいが、必要な資料も揃ったし、そろそろ帰らなくてはいけない。一旦、現代に戻ってふもとの家を調べ直して、再びこの時代に来ることになる予定だ。
 その頃まで、この女性が無事でいてくれるといいのだけれど。

「喜んでもらえて良かったわ。これからの時間はもっと暑くなるから、少し涼んでからバスに乗った方がいいわよ」
「えっ……じゃあ、お言葉に甘えてもう少し休ませてもらおうかな」

 確かに、もうすぐ最も暑くなる昼の14時台だ。寒い季節から突然真夏にタイムワープしてきているせいで、身体がかなり参っているし、ここで涼ませてもらった方が良いだろう。

「あら……スグルはお昼寝の時間かしらね? ここで寝るならタオルケットを持ってこないと」
「うーん、むにゃむにゃ……」

 小さいスグルは、眠い目をこすりながら既にお昼寝モードに移行している様子。のんびりとしたこの空間は、平和な夏のひと時といった雰囲気だ。
 淡い水色のタオルケットをかけてもらう小さいスグルの顔をチラリと見る。この子が、オレの小さな頃の姿なのだろうか。流石に1歳児の頃の出来事は記憶にないので、思い出すことが出来ないけれど。随分と、幸せそうなのは傍目から見てもよく分かる。

 クーラーのよく効いた部屋で飲む食後の冷たい緑茶は格別だ。キリリと冷えた緑茶をゴクゴクと体内に流し込んでいると、ピンポーン! と来客を報せるベルの音。

「まどかさーん! まどかさん居る? 秋祭りのチラシが出来たから持ってきたんだけど」
「はーい、今行きます! 町内会の人が来たから、うちの子をちょっと見ていてね。多分、すぐ終わると思うけど」
「あっはい。分かりました」

 意外なところで判明する女性の名前……どうやら彼女の名は『まどか』さんと言うらしい。残念ながら、現代の家神一族にまどかさんという女性の名は無い。そして、オレの母の名前とも違う。

(どういう事なんだろう。この後に起きたとされる事件でまどかさんに悲劇が起きたと仮定しても……この小さいスグルは? このチビがオレ自身だとすると、オレだけ生き残って両親だけが消えたのだろうか)

 この仮説が真実だとすると、オレが両親だと思っている人は、叔父さんと叔母さんという続柄になりそうだ。どちらにしても、家神一族である以上は血縁者であることには違いないだろうが、ちょっと複雑な心境である。
 家神一族は因縁深い陰陽師の家系なので、血縁関係に秘密の一つや二つあっても、なんら不思議はないけれど。

 すぐに終わると思われていた町内会の人の用事は、いつしか世間話に変化しているようで、話し声が聞こえてくる。

「それでね~! この間、うなぎを食べに行った時に偶然幼馴染に会って……。そしたら、地元のテレビ局の取材がその店で始まって……」
「あはは……うなぎって、この県の名物ですものね。テレビでもよく紹介されてますし。私も何度か食べましたが、美味しいですもの」
「でしょ! まどかさんもいい県に嫁いで来たわよぉ~」

 町内会の人は元気な人のようで声が大きく、ハキハキと良く喋る。田舎特有の大らかさが伝わってきてなんだか新鮮だ。

 オレの知っている時代の式神修験町は、人の目を気にしてそれほど大声で話す人は見かけないから。もしくは、何かのきっかけで大きな声で世間話をするような雰囲気ではなくなってしまったのかも知れないが。
 最近では主婦の井戸端会議すら、見かけたことがない。

「あっ! そうそう、それでこのチラシ! 出来れば、陰陽師関係の人にも配ったり張り紙して欲しいんだけど……」
「ちょうど今日も観光にお客様が来ているんです。早速渡しておきますね」
「あらっ! 早速、役に立つわねぇ良かったわぁ。じゃあ、また今度……」
「ええ、ありがとうございました」

 どうやら、用事が終わったようだ。チラシの束を手に持って、まどかさんがニコニコと部屋に戻ってきた。そして、先程話していたようにオレにチラシを一枚手渡す。

「毎年、このあたりの町内会が主催して行うお祭りの宣伝チラシ。今日、完成したばかりなんですって。良かったらどうぞ!」
 毎年行うとの話だが、オレの知っている時代ではこのお祭りは行われていないはず。多分、途中で辞めてしまっつのだろう。

「秋の式神修験町祭り、知られざる陰陽師の伝説を田舎神楽で紹介。屋台や人気の占いコーナーもあります……か。面白そうですね」

 見たところ、町おこしの名物っぽいお祭りだ。どうして無くなってしまったのか不思議なくらいチカラを入れているのが伝わってくる。

「うちからも、陰陽師関係の催しを考えているのよ。毎年、父が陰陽師占いのコーナーを行なっていたのだけれど、今年はどうしても抜けられない用事があって出来ないから。もしかしたら、私が父の代わりに占いを行うかもしれないの」
 お祖父さんは、かなりのやり手陰陽師はずだが、この日は不在というわけか。もしかすると、異界での仕事の日と被ってしまったのか。

「へぇ……もしかして、お嫁さんに来る前に占いの勉強をしていたんですか?」
「ええ、まぁそんなところよ。何日間か続くお祭りだし、その間は子どもを富士五湖に住む兄夫婦の家に預かってもらうことになっちゃうのが、気がかりだけど。これも家神一族伝統の為だし……まぁ頑張らないとね」

 富士五湖に住む兄夫婦、つまりオレの現在の両親に当たる人たちだ。ここにいる小さいスグルがオレ自身だと仮定した場合、兄夫婦の家に預けられてそのまま育てられた……と考えるのが自然の流れなのだろう。
 だとすると、この秋のお祭りの頃にもう一度タイムワープすれば、もしかしたら……悲劇が起こるのを防げるのか?


 * * *


「今日は、お世話になりました。次は、友人達も連れて秋祭りに来ます。それじゃあまた……」
「えぇ、楽しみにしているわ。お友達にもよろしくね」

 だいぶ日差しが落ち着いて来た頃、帰路のためにバス停へ。分かりにくい道だということで、途中まで案内してくれる。秋祭りに行く約束をして、夕日を背にしばしの別れ。チビのスグルもちょこちょこと一緒にくっついて来た。
 一瞬だけ、まどかさんの表情を見ると黒目がちの大きな瞳がまるで花の浮かぶ水面のように青く揺らめいた気がした。人ではない……まるで、蓮の花の女神のような美しさ。

 不思議そうにまどかさんをジッと見つめるのがバレてしまったのか、思わず苦笑いし始める。

「あはは……私の目って、生まれつきちょっぴり青いのよ。私の出身地域ではそれほど珍しくないんだけど。ごめんね、びっくりした?」

「えっ? いえ、オレの方こそすみません。なんだか、じろじろ見ちゃって。そっか、目の錯覚だと思っちゃった」
「みんな初めは驚くから……あら、でもあなたもよく見ると……私と似た瞳の色のような……。もしかしたら、どこかで共通のご先祖様がいるのかも知れないわ! ということは……やっぱりあなたも陰陽師さん?」

 共通の先祖というより、直接的な血縁なのかも知れないけれど。まだ、確定しているわけではない。だが、まどかさんについて分かったことがある……。

 昼間はまどかさんの霊力が封印されていて気づかなかったが……おそらくオレなんか足元にも及ばない霊力の持ち主なのではないかということ。それは、おそらく人間の遺伝だけでは維持できないものだ。
 おどけるようにオレが陰陽師であることを指摘するが、日が落ちていくにつれて霊力が高まるなら……オレが既に人ではなく『家神』であることに気づいてしまった可能性も。

「えっ? あはは……陰陽師だなんて、そんな。まだ駆け出しのヒヨッコです。あっ……バスが来ちゃった。それじゃあ……本当にお元気で」

 心の中で、ご無事で……と付け加える。

「ありがとう……またお会いしましょう! どこかの陰陽師さん!」

 バスに乗り込むと次第と遠ざかるまどかさんと、小さい頃のスグルの姿が見える。平和だった頃の、記憶にないはずの夏のひと時が終わる。

 田舎道をグラグラと走るバス、自然とタイムワープが切れて来たのか……ゆらゆらと陽炎のように道が揺らめき……。気がつくと、現代の式神修験町の駅前に到着していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...