若年最強の陰陽師はノリで婚約した女神様から服従を迫られている

星井ゆの花

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第2章

第2章 第14話 似て非なる家族関係

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 突如として現世に出来た異界の喫茶店は、なかなかの盛況ぶり。あらかじめ、モイラさんが会議室の予約を入れておいてくれたから入店できたものの、飛込みでは席に座ることすら難しかっただろう。

 この場所に来た目的は、美味しいコーヒーだけではない。15年前にタイムワープして出来てしまった時間の僅かな歪みを調整する場所として、活用するのだという。
 調整時間を稼ぐために、夕食もこの喫茶店で食べることになった。時刻は現在17時、一気に時間を超えたので普段よりもお腹が空くのが早い。

 大正モダンを彷彿させる和装系メイド服のウェイトレスさんが、4人分の食事をワゴンに乗せて、運んできた。ここに入店した時はウェイトレスさんには遭遇しなかったので気付かなかったが、メイド喫茶に来たような錯覚を覚える。

「お待たせしました。チーズカレードリアとサラダのセットです。霊力回復ドリンクは食事のサービスですので、どうぞ」
 一見すると、アイスティーにも見えるドリンクの正体は、異界特有の回復アイテムだった。

「ありがとうございます。へぇ……霊力回復ドリンクがサービスでつくなんて、常連になっちゃおうかな」
「うふふっ! 実は、異界の神々がエネルギー切れしないように、メニューのひとつずつ工夫されています。では、ごゆっくり」

 ここの喫茶店が人気のある理由って、ウェイトレスさんの衣装が可愛いからなのでは……と邪推が生まれてしまう。おそらく今のオレの表情は、僅かながら崩れているだろう。

「んっ……スグルどの、随分嬉しそうじゃのう。そんなに霊力回復ドリンクが飲みたければ、わらわが日夜こしらえるぞ」
「えっ……あぁそうしてもらえると助かるよ。あはは……せっかく出来立てドリアだし、早速食べようか」

 だが、嫉妬深いことで有名な睡蓮の女神様と婚約している手前、女性に関してはポーカーフェースを貫かなくてはならない。思わず伸びそうになった鼻の下を、キリッとした表情で引き締めてごまかす。

「うむ……チーズだけではなく、目玉焼きまでトッピングされていてなかなか美味そうなカレードリアじゃのう。サラダも、今流行のサラダチキン入りじゃ」

 グツグツと音を鳴らして、焼きたてほやほやであることを主張するチーズカレードリア。見たところ上に乗っている目玉焼きは半熟で、割ればトロリと中身がこぼれ出しそうだ。

「他にも美味しそうなメニューが並んでましたけど、3人ともカレードリアにすると言い始めると私も食べたくなってしまったんですよね。ふふっ美味しそう……早速ひとくち」

 おしぼりで手を拭いて、カレードリアを口に含むモイラさん。ゆっくりと咀嚼する姿は上品、オレも品良く食事しなくては。

「あはは……確かにモイラさんだけ別のメニュー頼むのも寂しいですしね。結局、全員同じメニューになっちゃったけど……オレ達って同調意識が高いのかも。うん、アツアツで美味しいよ」

 オレ以外の3人は同じ女学校出身だというし、なんだかんだいって波長が合いやすいのだろう。一見するとタイプの異なる3人だが、食事する際の姿勢の正しさやスプーンの持ち方などは共通する雰囲気がある。

「同じカマドのご飯を食べると、団結力が生まれると言われていますし。今回は、新しいチームとしての最初のミーティング。お揃い感があって良いと思いますわ。ではいただきます……うん、チーズと卵のおかげでマイルドになっていて食べやすいです」
「むむっ! 伽羅だけ食レポなんぞしおって、なんだかズルいぞ。ふむ……確かに中辛のカレーに半熟の目玉焼きやチーズがミックスされて、辛いものが苦手な人でも食べやすくはなっているのう。これはこれは……もしかすると、今後の名物メニューになるかも知れん」

 何故、食事の感想にまで対抗意識を燃やすのか分からないが、皆このメニューを気に入ったらしい。ほどほどのところまでドリアを食べたところで、サラダチキンにも挑戦してみる。

「このサラダチキンというものは、現世で流行っているものですよね? 噂には聞いていましたが、こうやってほぐして有ると食べやすいです。レタスともマッチしてますし」
「ふぅん、異界にもサラダチキンの流行は伝わっているのか。ダイエットメニューとして有名らしいけど、オレは初めて食べるよ。確かにほぐしてる方が、負担がなくていいな」

 普段何気なくコンビニで売られているサラダチキンだが、あいにく田舎町でコンビニの数も少ないため、今回初めて食べる。鳥のささみはたまに食べるが、一応サラダチキンとは別物というカテゴリー扱いだ。
 イメージ的にはダイエット中の若者が、そのままのサイズをかぶりつくものだと思っていたが。実際には、鶏肉をほぐしたり焼いたり調理してから食べる人も多いそうだ。

「家神さんは、ご自宅ではこういう食事はなさらないんですか?」
「両親……いや正確には叔父と叔母だけど。育ての親と一緒に住んでいた時は、普通にカレーなんかは食べていたよ。けど、海外出張後は食べる機会が減ったかな? まぁ最近は、スイレン達がいろいろ作ってくれるけど」

 自然の流れとはいえ、思わず両親の話題を出してしまい自分で気まずくなる。オレが両親だと思っていた人達は、実際には叔父と叔母だった。けれど、何も疑問を持たないほど普通に養ってくれていたし、感謝しなくてはならない。

「ふむ……スグルどのがカレー好きなら、わらわが定期的にカレーの日を担当するぞ」
「そうですわね! いろんなジャンルのメニューに挑戦しましょう。私が初めて訪問した時みたいに、フカヒレスープなんかも美味しいですし」
「ああ、じゃあこれからも、料理を期待しているよ」

 なるべく内心の動揺をさとられないように、平静を装う。食事が済んで時間調整が終わったら、家に帰らなくてはいけないのだ。
 これまで姉と妹だと思っていた人達が、実際には従姉妹だとしても。普段通り変わらず接していかなくては。

 気持ちを落ち着けるために、霊力回復ドリンクで、心と身体をクールダウン。

 やがて時間調整が終わり、食事とミーティングもほどほどにモイラさんが用意してくれた車で帰路へと着くことになった。任務の間は、モイラさんも家神荘で生活するということ。その辺りの手配も、すでに時の女神の時間調整で織り込み済みだ。


 * * *


「すっかり、遅くなっちゃったな。半日出ていただけなのに、何年も離れていたみたいだ」

 日が暮れ、ライティングが施された庭を抜けて、玄関前に辿り着く。
 もともと大きな別荘だった家神荘は、まるで宿泊施設か何かのように感じられた。我が家のはずなのに、なんだかぎこちない感覚が胸の辺りに疼く。

「タイムワープ後は、僅かな情報量の差の調整だけでも、そのような焦燥感に襲われることもありますわ。注意事項としては、今回の時間調整で家族間の認識が変更されている可能性があります。例えば、叔父さんとの関係が明瞭になったり、お姉さん達との関係が従姉妹という感覚の強いものになっていたり」

 なるべく考えないようにしていた家族間の部分だが、意外な展開に思わず足を止める。まさか、オレ自身の認識が変化しただけで、周りの認識にも変化を及ぼすとは。

「えっ……オレがタイムワープで得た情報が、ツグミ姉ちゃん達にも影響するってこと?」
「そういうことです。ですから、出来れば受け身の姿勢で会話をするように心がけて下さいね。もしかすると、妹ではなく従姉妹だったアヤメさんの『初恋の人は実はスグルお兄ちゃんなのっ!』なんて展開もあるかも知れませんし」

 お堅い印象のクールビューティボイスのモイラさんから、意外な萌えボイスが発せられて困惑する。むしろ、本物のアヤメの声よりも萌え萌えしているのだが。

「ちょ……モイラさん! からかうのはやめて下さいよ。だいたい妹が従姉妹だったくらいじゃ、身内であることには変わりないし」
「いえいえ、私はラノベというものの定番展開を申し上げているだけで……一応勉強したんですよ。現世における文化、らいとのべる、あにめーしょんなど」

「むぅう! そういえば、スグルどのには本来最低5人婚約者いる予定じゃったな」
「えぇ……妹さんが従姉妹だったからといって、すぐにお嫁さん候補の仲間入りをしているかは謎ですけど……」

 何故か、スイレンや伽羅もモイラさんの予測に同調している。もしかしたら、オレの気持ちをリラックスさせようとしているのかもしれないけれど。

 緊張しながら、玄関のベルを鳴らすと猫耳メイドのミミちゃんやツグミ姉ちゃん、アヤメから『お帰りなさい』の声。変わらぬ態度にホッとするが、それはオレがいわゆる鈍い証拠だったのだろう。

 これまでとは、似て非なる家神荘での暮らしが始まろうとしていた。
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