若年最強の陰陽師はノリで婚約した女神様から服従を迫られている

星井ゆの花

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第2章

第2章 第23話 生まれ変わるアヤメの花

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「いや、こういうのをきっと因果と呼ぶのだろう……僕の外見がこの500年間一向に歳を取らないのも、彼女と別れた年齢で固定してしまう癖が付いているからなんだ。たまに、大人の容姿になれるけど」
「……! ごめんなさい。哀しいことを思い出させて。そっか、黎明君って500年以上生きているのに独身だって言っていたのは、婚約者さんが亡くなってしまったからなのね」

 自分とさほど歳の変わらない少年に見える黎明だが、それだけ長い年数生きていれば恋人の1人くらいはいても不思議ではない。だが、アヤメは何だかんだ失恋したかのように、胸がチクリと苦しくなった。
 黎明の恋人だった方のアヤメとは、一体どのような少女だったのだろうか。数えの15歳で亡くなってしまったということは、ちょうど今のアヤメくらいの年齢で天に召されたということだ。
 奇しくも、自分自身が死に戻りという生者とも死者ともつかない状態であることを知った直後に彼女の存在を知ったのだ。不思議な因果を感じているのは、当然と言える。

「あと2年、せめて君が16になってくれていれば……君の魂が僕の婚約者の生まれ変わりか確かめて、誓いの契りを交わせたのだけど。それが多分、君が現世で肉体を持って生きていけるただ1つの道」
「つまり、死に戻りの真実に気づいたとしても、黎明君と私が特定の契約をすれば現世でも生きていけるってことだよね。同じ状況に置かれているはずのスグルお兄ちゃんだって、普通に現世で生活出来ているし」

 仮にスグルがアヤメ同様に死に戻りをした肉体だと仮定して、彼が平気な理由はスイレンとの契約が関係あるのか。それとも、何か別の契約状態を作る出しているのか。詳しいことは、アヤメが知る由も無い。
 ただ、今の時点で最重要なことは、アヤメがどのようにして、死に戻りを認識してしまった肉体で現世で生きていくのか。そして、その問題を解決出来なければ、陰陽師になるために夢幻の塔へと昇ることなんて夢のまた夢だろう。

「ねえ、黎明君。私ね、もうすぐ15歳なの。現世ではまだ15歳だけど数えで16歳になるわ。試しに契約というものをしてみて、肉体の安定を図れるかやってみたいのだけど」
「……契約は、試しで出来るものではないよ。万が一、君の幼い魂が耐えきれなかったら、きっと三途の川送りだ。でもまぁ……どの道、それしか解決策がないのなら僕も君に対して遠慮する必要はないのかもね」

 見た目こそ同世代の2人だが、実際の年齢差は500歳だ。かろうじて、黎明の中で罪悪感を消せる要素があるとしたら、アヤメが前世の恋人だった場合だけだろう。
 だが、残念なことに輪廻の恋人か記憶を照合するには、アヤメの年齢はわずかに足りないのだ。元服を迎えていない人間の前世データを覗き見ることは、龍神の黎明でさえ許されていない。
 まだ、彼女は前世のしがらみにとらわれていない自由の身だ。けれど、その命がもうすぐ燃え尽きるのであれば、一か八か賭けてみたい気持ちもあった。
 それはおそらく、喪ってしまったアヤメと言う名の婚約者への罪滅ぼしだ。

「だったら……してくれるの? 契約」
「君が僕の婚約者だったアヤメの生まれ変わりなら、年齢が多少足りなくても前世の絆で契約できる可能性がある。でも違っていたら……。君は、いいのかい? 前世で恋人だったか分からない男と、いきなり夫婦になるんだよ。それに、ご神気を身体に取り込む時に怪我をするかも知れない」

 生まれ変わりの女性【アヤメ】を500年探し続けていた黎明からすると、同じ名前の似た年頃の少女を妻にするのは因果を感じるものだ。だが、アヤメからすれば、今日出会ったばかりの男の嫁にいきなり決まってしまうのだ。最後の確認をすると、実にあっけらかんとした返事が返ってきた。

「ふふっ……交際ゼロ日婚は、家神一族のお家芸なの! それにあの悪夢が本物なら……今更、この身体にご神気が注がれることなんて怖くないよ。黎明君は、私がお嫁さんじゃ……いや?」

 黒いポニーテールの髪をわずかに揺らして、首を傾げて見上げるアヤメの姿は500年前に生き別れた彼女と全く同一のもので……。
 黎明は迷いを振り切り、アヤメの前髪をあげて幼さの残るおでこに自らの唇をそっと当てた。

「龍神の守りを君に。大丈夫、きっと上手く行くから」

 神として夫婦の契約を滞りなく済ませるために、そのまま1つしかないベッドに彼女を座らせる。
 アヤメ着込む巫女装束をそっと整えて、胸元の前に手をかざす。成長途中の柔らかな胸が、呼吸のたびに怖がるように揺れている。すると、黎明のご神気に反応するように、アヤメの人間としての結界が紫がかった半透明の盾のような形で具現化した。

「……んっ。黎明、くん」
「いいかい? これから君を神の肉体へと変える儀式を行う。初めてご神気を注ぎ込まれるのは、魂が痛がるかも知れない。人間としての結界を破らなくてはいけないからね。けれど、これで君の身体は生まれ変わる」
「うん……私、生まれ変わりたい。来て……結界を壊して……私にご神気をちょうだい。痛くてもいいから……あっ。はぁっ……」

 予期するよりもわずかに早く、黎明の龍神の魂が2人の目の前に現れてアヤメの中にある結界をこじ開け始めた。

『ギシャァアアアアッ!』

 ドォンッ、ドォンッ! と、暴れる龍がアヤメの目からも見て分かるように、チカラを強めていく。

 黄金色に輝く龍神の魂は、無い道を開くため結界の入り口を叩きつけるように往復する。盾状の結界は龍神にそのガードを叩かれて、ピキピキと亀裂が入り始める。

「……私が、私で無くなる感じ。きゃあっ」
「くっ……亀裂が出来たね。思い切って結界をこじ開けるよ。痛いかも知れないけど、少し我慢して」
「はっ……黎明君。いたい、早く」

 人間としての最後の抵抗なのか、アヤメの結界は亀裂に入り込んだ黎明の龍神を、ギュウギュウと閉じ込めようとする。それでも、結界を破ろうと龍神は行ったり来たりしながら確実に中へ中へと進んでいく。

「……君の中に、僕の龍神を全て捧げるから。くっ……亀裂が狭いな……チカラを抜いて。僕の魂を受け入れることを怖がらないで」
「んっ……黎明君。来て、黎明君っ……! あっ……ああああっ!」

 パキンッ……! と、ついにアヤメの結界は破られて、黎明の龍神を魂の中へと受け入れた。龍神の光輝くご神気と結界のカケラは、グルグルとかき混ぜられるように融合する。

 それからは、まるで水の中をアヤメの花が泳ぐように溶け合うばかり。龍の神様から注ぎこまれるご神気は、アヤメを人間から肉体を持つ霊体へと変えていくのであった。


 * * *


「アヤメの奴、遅いな。せっかく姫様が待ってくれているのに。すみません瀬織津姫様、まさか試験を受ける本人がなかなか到着しないなんて」

 一足先に夢幻の塔を昇りきり、姫様こと瀬織津姫様と面会を済ませていたスグル一行。古い時代の神だという美しい姫様は、水神の長であるとともに機織りの女神だという。通りで織物とは縁が深い天女である伽羅が、恐縮して接していると思った。

「なんだか、アヤメどのよりも先に姫様のところでお茶を頂いてしまって悪い気がするのう」
「みゃあ。ジャスミン茶も飲茶セットも美味で、メイドとしては勉強になりますにゃ」

 塔の頂上である姫様の部屋は、天蓋付きの豪奢なベッドに大理石の大きなテーブル、黄金の家具など豪華絢爛だ。
 織姫的な要素がある女神様のせいか、短冊や笹がバルコニースペースに設けられており、リゾートに遊びに来たかのように錯覚する。

「……まさか、このまま時間が過ぎて不合格なんてことは。試験内容は短冊に願いを書いて、笹に吊るしだけの簡単なものなのに」
「いえ、大丈夫ですわよ。アヤメの花言葉は【良い便り】、きっとアヤメさんも運命のパートナーとともに、この短冊に願いをかけてくれるでしょう。そうすれば、銀の川が流れる日に私が彼女を一人前の陰陽師にしてあげられますわ。あら……? 噂をすれば、素敵な方とご一緒の様子。彼がアヤメさんの彦星様かしら?」

 素敵な方……というから、まさかアヤメに恋人が? と、驚いた。が、アヤメとともに現れたのはかなり年齢の若い美少年だった。もしかすると、将来的にはカップルになるのかも知れないが、見るからに可愛らしい組み合わせだ。
 何はともあれ、無事で良かったとホッと胸をなでおろすスグルたち。


 アヤメの願いは短冊として笹に掛けられ、天の川が見える頃に瀬織津姫の手によって天にあげられるのである。
 彼女の陰陽師デビューを飾る最初の仕事は、迎え盆が始まる7月の中頃に決定した。

 例のふもとの家を巡る15年前の事件の解決へ向けて、少しずつ刻の針が動き始める。
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