若年最強の陰陽師はノリで婚約した女神様から服従を迫られている

星井ゆの花

文字の大きさ
54 / 55
第2章

第2章 第26話 最後のデートと間接キス

しおりを挟む

 かつてこの町の名物であった『式神修験町秋祭り』は、地元の総力挙げて行っているだけあって賑やかだ。家神家のふもとの家から歩いてすぐの路地は、平常時だと何もない寂しげな田舎道だが今日は特別な装い。

 メインとなる神仏習合のお寺と神社付近の参道では、ここぞとばかりにビジネスに精を出す商売人達の姿。観光客も想像よりもずっと多く、少し目を離してしまうと伽羅やモイラさんがどこにいるか見当もつかなくなりそうだ。

「まずいなぁ……人だかりが凄すぎて、2人のことを見失っちゃうよ! おーい、伽羅、モイラさん……あぁ」

 サラサラの黒髪セミロングと金髪まとめ髪の後ろ姿が、人混みに紛れて徐々に遠ざかる。オレが2人を呼ぶのと同時に通りかかったえびす講の宣伝部隊がクルクルと踊り歩いてきて、すっかり伽羅達を見失ってしまった。

 呼び声を遮るようにチントンシャン、カランコロン……あちこちから楽しそうな音が聞こえてくる。
「はぁヨイヨイ! えびす様のありがたいご利益はこちらの熊手! 陰陽師の祈りが篭ったお札はこちらっ」

 オレの知る時代では、式神修験町がここまで賑わっていた記憶はまずないと言っていいだろう。当時の活気を失ってしまったことは、経済的な打撃が大きそうだ。

「あの2人とてお馬鹿さんじゃあるまいし、きちんと陰陽師のお芝居が行われる会場に行ったじゃろう。いざとなったら、会場で探せば良いのじゃ」
「う、うん……。そういう約束だったし大丈夫か」

 離れ離れになってしまった伽羅とモイラさんのことが気になるが、待ち合わせ場所が決まっているしそうれほど不安になる必要はないか。混んでいるルートを避けて目的地へ向かおうとすると、スイレンが遠慮がちにオレの方を見上げながら洋服の裾をクイっと引っ張ってきた。

「スグルどの……もしかすると、今日でスグルどのとこうして過ごすのは最後になるやも知れん。こんな非常時にこういうことをいうのもどうかと思ったのだけど……せっかく2人きりになったし。どうじゃ……思い出作りにお祭りデートをしても、バチは当たるまい」

 一緒に過ごすのは最後……とは、どちらかの身に何か起きるような予感がしているのだろうか。それとも、過去に介入することで本来の未来が消えてしまうことを危惧しているのか……? スイレンが一体どの部分で不安に思い、『最後』というセリフが口をついて出たのかは分からない。

(こんな非常時にと言ってはいるけど、万が一の場合は最後の瞬間を迎える手前だからこそ楽しい思い出を作りたくなったのだろう)

 今のスイレンは女神のチカラを封印しているせいか、髪の毛の色は普段のラベンダーカラーとは異なり黒に近いこげ茶で、服装も秋に似合う白いシャツにカーキのアウターとふんわりしたスカートのセットアップで上品だ。ごく普通の清楚で綺麗な19歳の女性……といった感じのスイレンから覚悟を決めた切なげな表情でデートに誘われたら、断る事なんて出来ない。

「うん……そうだね。オレ達の未来がこれからどう変わっていこうと、今のオレ達の心に思い出を残そう!」
「……! ありがとう、スグルどの」

 夕暮れが次第に近づいてくる式神修験町の祭りの景色は、ノスタルジックな写真の一風景のようで……次第に現実のものと認識出来なくなるのでは……と錯覚しそうになる。オレの手を引いて、祭りの中心部へと連れ出すスイレンに手はヒンヤリと冷たくまだ彼女が此処にいることを実感させられた。


 * * *


 山車とともにオカメや狐のお面を被った和装の住民達が、踊りながら練り歩く。紅白の縁起が良い提灯に、えびす講の時期に合わせた熊手が所狭しと飾られている。もちろん飲食の屋台も所狭しと並んでいて、焼きそば、たこ焼き、大判焼きなどの定番からケバブなどのちょっぴり異国情緒なものまで幅広い。

「十年以上前のお祭りだけど、人が超多くて活気付いていること以外はそれほど現代と変わらないなぁ。みんなが手にしているのがガラケーな事と、タピオカミルクティーがそれほど流行っていないことくらいか?」
 いわゆるインターネットが出来た頃から、文化は急速に変化しているが。さすがに十数年くらいじゃ、違いはスマホの普及とタピオカミルクティーくらいだ。もっとも、タピオカの流行は過去にもあったらしいけれど。

「ふふっ。確かに、現代の祭りじゃったらSNS映えを狙った自撮りとタピオカミルクティーの屋台で盛り上がっていそうなものじゃからな。服装は祭りということもあって、和装の住人が多いからジェネレーションギャップは感じにくいかのう。ふむ……お芝居が始まるまで時間があるし、わらわたちも腹ごしらえするか!」
「ああ、間違えて時代が進んだ硬貨を使わないように……っと。現代のお金は元の時代に置いてきたんだっけ? なら、安心して買い物を……食べ歩きしやすいように大判焼きにしようかな?」
 祭り特有のソースの香り漂う美味しそうな焼きそばやたこ焼きも魅力的だが、箸や爪楊枝を使うようだし移動しながらの食事なら大判焼きが適しているだろう。

「大判焼きとな、小豆とチーズのどちらが良いかで迷うのう……。うむ、小豆じゃ! 店主、小豆の大判焼きを1つ」
「じゃあ、オレはチーズにするよ。すみませーん、チーズの大判焼き1つ。会計は2人一緒で」

 屋台で売られている大判焼きは二百円程でリーズナブルだったが、男のプライドからスイレンにお金を払わせるわけにもいかず、オレが会計をする。

「あいよ! まいどありっ。熱いから気をつけてな」

 大判焼きは薄い紙のケースに入れられていて、焼きたてのホクホクとした感覚が手からもじんわりと伝わってきた。
「じゃあ早速、いただきまーす。んっ。チーズがトロッと伸びて美味しい! どうしたスイレン?」
 早速食べ始めると、スイレンのジィッと見つめてくる視線にふと気づく。なんだろう? 本当は、小豆じゃなくてチーズの方が食べたかったのだろうか。

「……スグルどの、その。スグルどのの食べたチーズの大判焼き、わらわにもひとくち……」
 何か言いたげな目で見つめられて、さらにオレが食べた後の大判焼きをねだられて、思わず足が止まる。このままでは他の歩行者の邪魔になってしまうため、仕方なく道の端っこの方に移動して歩行者を避けることに。

「いいけど、これってオレの食べかけだし。もしチーズの方が良かったならもう一個買っても……」
「そ、そうじゃなくて……スグルどのからひとくちもらうことに意味があるのじゃっ。そ、その……恋人同士がデートでよく食べ物を分け合っているじゃろう?」

 気を遣って大判焼き屋台で新しいものを購入するように提案すると、スイレンは顔を赤らめながら慌てて、本当の目的を説明し始めた。まさか、そんな街角のカップルみたいな真似をしたかったとは……いや、彼女も普段は年頃の若いお嬢さんだ。

「えっ……ご、ごめんスイレン。気が利かなくて……はい、じゃあ。あーん!」
「ふむ……んっ確かによく伸びるのう。ふふっ。これでスグルどのと、間接キッスじゃ。うふふっスグルどのったら顔が真っ赤じゃぞ!」

 満足げにスイレンは、オレよりちょっとだけ先を歩くためにくるりと前を向いた。そのため残念ながら、現在のスイレンの表情はオレには見えない。

「す、スイレンッ……まったく。からかわないでくれよ。もうっ会場に急ぐぞ」
 後ろを向き僅かに肩を震わすスイレンが、その時に嬉しくて笑っていたのか、それとも近い将来の別れを予感して泣いていたのかは今となっては確かめることすら出来ない。

 ただ、残念なことにこの秋祭りのデートがオレと女神スイレンの『今生の別れの前のデート』になってしまうのだった。
 何気ない日常を、さりげない会話を……もっと噛み締めておけば良かったと、行き交う人々の魂が次第に薄れゆく中……感じることになるのである。

 気がつくと祭りの会場に到着する頃には、何度も繰り返されたタイムリープの余波で人々の肉体から『魂が内在している』ものは少なくなった。

「あ、あれっ……なんだろう? せっかく会場に着いたのにみんな、人形みたいになって。伽羅、モイラさん……スイレンまでっ。一体、何が起きているんだ? これじゃあ、オレだけが抜け殻の世界に取り残されているみたいじゃないかっ!」

 ――音も風も感情の揺らぎも全てが停止して、残されたのは芝居の舞台に立つ母まどかの抜け殻と魂が迷子のオレのみ。千年間の因縁を描いた陰陽師芝居が、オレの魂の前で静かに始まる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...