Re:二周目の公爵令嬢〜王子様と勇者様、どちらが運命の相手ですの?〜

星井ゆの花(星里有乃)

文字の大きさ
15 / 43
第1章 一周目

第12話 キミと一夜を過ごしたい

しおりを挟む

 年に一度行われる焚書の儀式は、悪魔が人間を誘惑するために作られた書物を神の炎で浄化する大切な儀式だ。神殿が一流大学に依頼して、いつの間にか増えていく禁断の書物を根こそぎ焚書にするのである。
 何故、禁断とされているものが、毎年のように蔵書として復活してしまうのか、それは誰にも分からない。人間には為せない技だからこそ、悪魔の書物としてこの世から抹消するのだろう。

 焚書になった本のタイトルは、『幻の帝国神聖ミカエル帝国』とか、『あの国が滅んだ理由、ミカエル帝国の謎』とかのいわゆる歴史考察書だ。今は亡き、幻の巨大帝国を振り返るテイストのものばかり。

「この本もお焚き上げ、一応この歴史振り返り系の本もお焚き上げかな」
「自分たちの住んでいる国が、滅んでいる設定の本がこんなに沢山あるなんて。なんだか気が滅入るよね」
「無駄話してると、教官に怒られるよ。黙ってやらないと」

 フィヨルドはこの時点で、十二歳から十八歳になるまで既に6年間もの間、この神聖ミカエル帝国に留学していた。が、焚書について知ったのは大学に入学してからだ。

(どうする? この神聖ミカエル帝国は、本来あるべき歴史を歪めてまで存続している国だ。どうりで、ご神託でなんでも決めたがると思っていたけど。定期的に歴史を改変するために、人々の運命を矯正的に変えていたんだ。政治や結婚、商業施設のプランに至るまで)

「今日の焚書の儀式は、たとえ王族であっても、お国の人に話さないほうがいいと思うよ」
「えっ。それってどういう?」

 ボランティアという名の焚書作業を終えたフィヨルドに、サラッと忠告をしてきたのは、同学年の賢者コースの生徒だった。確か彼も、優秀な成績をおさめて奨学金で入学してきたエリートのはず。世界レベルの頭脳を持つ優等生として、新入生代表でスピーチをしていたのが記憶に新しい。

「ほら、法律って言うのは現地法がめっぽう強いんだ。例え海外からの留学生であっても、それが一国の王子様であっても。神殿は秘密を漏らしたら、どういう態度を取るか分からない。まぁこの国ではお告げによって婚姻する際に、大体の人は秘密を知っちゃうんだけどね」
「うん。何となく、言いたいことは分かっているよ。けどさ、箝口令を敷きたいのなら、どうしてオレ達みたいな学生にわざわざ作業を手伝わせるのだろう」

 そう、外部に情報を漏らしたくないのであれば、そもそも学生なんかに作業を手伝わさせずに秘密裏で焚書の作業を行えばいいのだ。煽るような形で、焚書作業をさせるなんて、まるで試されているみたいだとフィヨルドは思った。

「そうだね、多分。僕達市民を、この国に縛るためなんじゃないかなぁ。キミだって、もう6年間もこの国に滞在しているんだ。そろそろ『足抜け』が出来なくなっているんだよ」
「足抜けが出来ない……か。確かに、もう祖国には居場所がないだろうし、この国で骨を埋めることになりそうだ」
「悲観的になることないさ、キミはこの国ではきっとよいポジションをもらえる。なんたって、あのルキアブルグ家に住んでいるんだろう? 王族じゃなくなったとしてもこのままご令嬢と結婚して、公爵に納まればいいだけだ。まぁお互い頑張ろう!」

(頑張ろう……か。でも、確かにヒルデを見捨ててノコノコ国に帰ることなんか、出来ないよな。この国が何者かによって改変された国だとしても、今更それを覆すことも出来ない。オレは個人としてヒルデと幸せになる人生だけ選んで行こう)

 なるべく不都合な情報は見て見ないふりをして、無難に大学生活をエンジョイしていく。なかなかのイケメンに成長したフィヨルドに告白をする女性もいたが、すでに恋人がいるという理由で断っていた。


 * * *


 フィヨルドの『恋人ヒルデ』が十六歳になったある日、その日はたまたまルキアブルグ公爵が長期出張で邸宅におらず、メイド達もその手伝いで忙しそうだった。
 まだ恋人になったばかりの2人は、口付けを一度交わしただけで、いわゆる男女の契りは交わしていなかった。

(ヒルデとそういう仲になるなら、今夜がチャンスだ。本当は、結婚するまで、彼女の純潔を守ってあげたかったけど。うかうかしていたら、そのうちジークさんに掻っ攫われてしまう)

「夕食後にそっちの部屋に行ってもいいかな? 今夜は、『泊まり』で」
「……はい。お待ちしておりますわフィヨルド」

 そっと耳打ちをして、ヒルデとデートの約束を取りつける。いつも跳ね返ってばかりの生意気なご令嬢ヒルデも、恋人であるフィヨルドの前ではウブな生娘だった。

 星空が綺麗に見えるその晩。
 薔薇の湯船に浸かり身支度を整えたヒルデは、愛しい人と契るために天蓋付きのベッドに座り、物思いにふけっていた。浴室から聞こえていたシャワーの音がキュッと止まると、濡れた素肌にタオルを巻いただけのフィヨルドがヒルデの隣に腰掛ける。
 熱く見つめ合う2人を阻むものは誰もいない、ゆっくりと口付けを交わすヒルデとフィヨルドは……ついにベッドへと倒れ込んだ。

「はぁ……ヒルデ。いいよね」
「んっフィヨルド、わたくし。やっぱりちょっとだけ、怖いですわ」
「大丈夫だよ、ヒルデ。オレも初めてだけど、大切にするから」

 照れるヒルデの服にそっと手を掛けると、意外なことにシャワーを浴びたのにきちんと下着をつけていたらしい。ネグリジェの胸元を開くと、清楚なレースの白いブラジャーが見え隠れする。

「あっ恥ずかしい。見ないで……」
「ヒルデは可愛いから、平気だよ。ブラ、外してもいい?」

 こくん、と小さく頷いてフィヨルドに身を任せるヒルデ。フロントホックのブラに手を伸ばして、外そうとするがホックの飾りが引っかかってしまいなかなか外れない。

「あっあれ? ごめんね。この飾りなんか複雑で」
「んっフィヨルド早く。こんな状態で焦らされたら、かえって恥ずかしいですわ。それでも知恵の輪大会の準優勝ですの?」
「もうっそれは子供の頃の話だよ。んっほら取れた」

 クスクスとお互い笑いながら、気持ちが和んだところで、2人で協力し合いながらブラに手を掛ける。
 プツンっと、ブラのホックをようやく外すと、ぷるんっとしたヒルデの白く柔らかな胸がフィヨルドの前に現れた。

「やぁ……ん」
「ヒルデ、綺麗だよ。どうしよう、これから」
「フィヨルド。わたくし、覚悟は出来ておりますわ。大丈夫だから、きて」
「ん……! いくよヒルデ……!」

 お互い初めてで、男女のアレコレの勝手が分からないなりに、懸命に結ばれようと清らかな契りに挑む。いや、挑もうとしたその時だった……!

 ガチャガチャッ!
 せっかく閉めていたヒルデ自室の鍵を、マスターキーでこじ開ける何者かの影。

「やぁヒルデ、ただいま~。お父さん、急に出張から帰ってこれ……て……?」

 タイミング悪く、まさに結ばれようとしたその瞬間に、娘の部屋にサプライズで帰宅してしまった可哀想なルキアブルグ公爵。
 天蓋ベッドの上では、何やらスタンバイしているヒルデと、覆いかぶさっているフィヨルドの姿が。

「おっっお父様っ?」
「ひぃいいいいっ。ルキアブルグ公爵ぅううっ」

 美しい星々が見えていたはずのその日の晩、ルキアブルグ邸には愛娘を叱るオヤジの雷が一筋落ちたと言う。けれど、それは彼らが平和だった頃の話。

 愛し合うヒルデとフィヨルドの身に、更なる試練が襲い掛かる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

処理中です...