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第1章 一周目
第12話 キミと一夜を過ごしたい
しおりを挟む年に一度行われる焚書の儀式は、悪魔が人間を誘惑するために作られた書物を神の炎で浄化する大切な儀式だ。神殿が一流大学に依頼して、いつの間にか増えていく禁断の書物を根こそぎ焚書にするのである。
何故、禁断とされているものが、毎年のように蔵書として復活してしまうのか、それは誰にも分からない。人間には為せない技だからこそ、悪魔の書物としてこの世から抹消するのだろう。
焚書になった本のタイトルは、『幻の帝国神聖ミカエル帝国』とか、『あの国が滅んだ理由、ミカエル帝国の謎』とかのいわゆる歴史考察書だ。今は亡き、幻の巨大帝国を振り返るテイストのものばかり。
「この本もお焚き上げ、一応この歴史振り返り系の本もお焚き上げかな」
「自分たちの住んでいる国が、滅んでいる設定の本がこんなに沢山あるなんて。なんだか気が滅入るよね」
「無駄話してると、教官に怒られるよ。黙ってやらないと」
フィヨルドはこの時点で、十二歳から十八歳になるまで既に6年間もの間、この神聖ミカエル帝国に留学していた。が、焚書について知ったのは大学に入学してからだ。
(どうする? この神聖ミカエル帝国は、本来あるべき歴史を歪めてまで存続している国だ。どうりで、ご神託でなんでも決めたがると思っていたけど。定期的に歴史を改変するために、人々の運命を矯正的に変えていたんだ。政治や結婚、商業施設のプランに至るまで)
「今日の焚書の儀式は、たとえ王族であっても、お国の人に話さないほうがいいと思うよ」
「えっ。それってどういう?」
ボランティアという名の焚書作業を終えたフィヨルドに、サラッと忠告をしてきたのは、同学年の賢者コースの生徒だった。確か彼も、優秀な成績をおさめて奨学金で入学してきたエリートのはず。世界レベルの頭脳を持つ優等生として、新入生代表でスピーチをしていたのが記憶に新しい。
「ほら、法律って言うのは現地法がめっぽう強いんだ。例え海外からの留学生であっても、それが一国の王子様であっても。神殿は秘密を漏らしたら、どういう態度を取るか分からない。まぁこの国ではお告げによって婚姻する際に、大体の人は秘密を知っちゃうんだけどね」
「うん。何となく、言いたいことは分かっているよ。けどさ、箝口令を敷きたいのなら、どうしてオレ達みたいな学生にわざわざ作業を手伝わせるのだろう」
そう、外部に情報を漏らしたくないのであれば、そもそも学生なんかに作業を手伝わさせずに秘密裏で焚書の作業を行えばいいのだ。煽るような形で、焚書作業をさせるなんて、まるで試されているみたいだとフィヨルドは思った。
「そうだね、多分。僕達市民を、この国に縛るためなんじゃないかなぁ。キミだって、もう6年間もこの国に滞在しているんだ。そろそろ『足抜け』が出来なくなっているんだよ」
「足抜けが出来ない……か。確かに、もう祖国には居場所がないだろうし、この国で骨を埋めることになりそうだ」
「悲観的になることないさ、キミはこの国ではきっとよいポジションをもらえる。なんたって、あのルキアブルグ家に住んでいるんだろう? 王族じゃなくなったとしてもこのままご令嬢と結婚して、公爵に納まればいいだけだ。まぁお互い頑張ろう!」
(頑張ろう……か。でも、確かにヒルデを見捨ててノコノコ国に帰ることなんか、出来ないよな。この国が何者かによって改変された国だとしても、今更それを覆すことも出来ない。オレは個人としてヒルデと幸せになる人生だけ選んで行こう)
なるべく不都合な情報は見て見ないふりをして、無難に大学生活をエンジョイしていく。なかなかのイケメンに成長したフィヨルドに告白をする女性もいたが、すでに恋人がいるという理由で断っていた。
* * *
フィヨルドの『恋人ヒルデ』が十六歳になったある日、その日はたまたまルキアブルグ公爵が長期出張で邸宅におらず、メイド達もその手伝いで忙しそうだった。
まだ恋人になったばかりの2人は、口付けを一度交わしただけで、いわゆる男女の契りは交わしていなかった。
(ヒルデとそういう仲になるなら、今夜がチャンスだ。本当は、結婚するまで、彼女の純潔を守ってあげたかったけど。うかうかしていたら、そのうちジークさんに掻っ攫われてしまう)
「夕食後にそっちの部屋に行ってもいいかな? 今夜は、『泊まり』で」
「……はい。お待ちしておりますわフィヨルド」
そっと耳打ちをして、ヒルデとデートの約束を取りつける。いつも跳ね返ってばかりの生意気なご令嬢ヒルデも、恋人であるフィヨルドの前ではウブな生娘だった。
星空が綺麗に見えるその晩。
薔薇の湯船に浸かり身支度を整えたヒルデは、愛しい人と契るために天蓋付きのベッドに座り、物思いにふけっていた。浴室から聞こえていたシャワーの音がキュッと止まると、濡れた素肌にタオルを巻いただけのフィヨルドがヒルデの隣に腰掛ける。
熱く見つめ合う2人を阻むものは誰もいない、ゆっくりと口付けを交わすヒルデとフィヨルドは……ついにベッドへと倒れ込んだ。
「はぁ……ヒルデ。いいよね」
「んっフィヨルド、わたくし。やっぱりちょっとだけ、怖いですわ」
「大丈夫だよ、ヒルデ。オレも初めてだけど、大切にするから」
照れるヒルデの服にそっと手を掛けると、意外なことにシャワーを浴びたのにきちんと下着をつけていたらしい。ネグリジェの胸元を開くと、清楚なレースの白いブラジャーが見え隠れする。
「あっ恥ずかしい。見ないで……」
「ヒルデは可愛いから、平気だよ。ブラ、外してもいい?」
こくん、と小さく頷いてフィヨルドに身を任せるヒルデ。フロントホックのブラに手を伸ばして、外そうとするがホックの飾りが引っかかってしまいなかなか外れない。
「あっあれ? ごめんね。この飾りなんか複雑で」
「んっフィヨルド早く。こんな状態で焦らされたら、かえって恥ずかしいですわ。それでも知恵の輪大会の準優勝ですの?」
「もうっそれは子供の頃の話だよ。んっほら取れた」
クスクスとお互い笑いながら、気持ちが和んだところで、2人で協力し合いながらブラに手を掛ける。
プツンっと、ブラのホックをようやく外すと、ぷるんっとしたヒルデの白く柔らかな胸がフィヨルドの前に現れた。
「やぁ……ん」
「ヒルデ、綺麗だよ。どうしよう、これから」
「フィヨルド。わたくし、覚悟は出来ておりますわ。大丈夫だから、きて」
「ん……! いくよヒルデ……!」
お互い初めてで、男女のアレコレの勝手が分からないなりに、懸命に結ばれようと清らかな契りに挑む。いや、挑もうとしたその時だった……!
ガチャガチャッ!
せっかく閉めていたヒルデ自室の鍵を、マスターキーでこじ開ける何者かの影。
「やぁヒルデ、ただいま~。お父さん、急に出張から帰ってこれ……て……?」
タイミング悪く、まさに結ばれようとしたその瞬間に、娘の部屋にサプライズで帰宅してしまった可哀想なルキアブルグ公爵。
天蓋ベッドの上では、何やらスタンバイしているヒルデと、覆いかぶさっているフィヨルドの姿が。
「おっっお父様っ?」
「ひぃいいいいっ。ルキアブルグ公爵ぅううっ」
美しい星々が見えていたはずのその日の晩、ルキアブルグ邸には愛娘を叱るオヤジの雷が一筋落ちたと言う。けれど、それは彼らが平和だった頃の話。
愛し合うヒルデとフィヨルドの身に、更なる試練が襲い掛かる。
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