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水着と世界秩序
しおりを挟むアメリカ合衆国、バージニア州にあるアメリカ国防総省。俗に “ ペンタゴン ” と呼ばれる施設内の一角に今回の事案で新しい部屋が作られた。他と隔離されたような黒く統一された百五十平米程の空間に二百インチのディスプレイが正面に鎮座し、約三十台のモニターが狭しと壁に掲げられている。それは亀山の為に作られたと言って良いだろう。真ん中ほどに構える一台の椅子は亀山の到着に千秋を窺っていたようだ。
拘束する腕を外し専用機で移動した十三時間程の間に現時点で知りうる限りの情報は伝えたのだが、いざ目前にした異質な空間に亀山は呆然と立ち尽くしている。ひとつ間違えたら世界を巻き込む大戦になるというのは、いくら呑気な亀山でもそれは想像を絶するプレッシャーなのだろう。
踏入れた室内には既にスーツ姿の男性が一人、軍の制服を纏った男性が二人、我々の到着を時遅しと構えていた。目線を運ぶ即座にスーツ姿の男性が流暢な日本語で亀山に歩み寄る。 “ クリィシィ ” と名乗った彼はどうやら責任者のようだ。
室内に皆が揃い詰めた緊張が僅か静隠した時、背中にチクリと意識が刺さった。知れぬ気配、突如表れた一人の男性が壁を背に凭れかかっている。多少の経験と刑事としての自負は持ち合わせていたつもりだが、細身で長身、優男と言うような風貌のその男性は存在を一切悟らせなかった。何か凍てつく驚異が自分の背筋を滑っていくようだ。
すると私の気配を察知したのか、平田が男性に近付き至極当たり前のようケタケタと肩に腕を周した。平田曰く、彼はとある試験に唯一合格した人間で、拳銃、ライフルの腕は世界レベルの持ち主らしい。
「安部さんだ、この人に撃てないモノは無い。なにせ六百メートル先からブラジャーのホックを射てるんだぜ、まぁ映画みたいに現実離れな人だ」
「いや平田さん、なんか凄さが良くわっかんねーしっ……安部だけにアベンジャーズっ」
平田の説明もアレだが本当に亀山という男はどこまでも抜けたヤツだ。いや、この緊張感には必要だったのかもしれない。妻が誘拐されている亀山が一番に錯乱していてもおかしく無いのだから。クリィシィは半ば呆れたようだったが、交じる会話に弛み薄ろいだのは相違無かった。
椅子にゆっくりと腰を降ろす亀山を促したクリィシィは深呼吸をさせた後、耳打ちに注釈しているようだ。亀山の影をすっぽりと隠す程大きな椅子に次々とコードが繋がれてゆくその光景は恰かもSF映画だ。
――「Rready?」
亀山から離れたクリィシィがキーボードを弾くと一番大きなディスプレイを残し全てのモニターが色彩を放ち始めた。
「あとは亀山さんの意識がリンクすれば敵の場所、動きや作戦までの情報が全てここに写し出される。その情報はリアルタイムで現地でのミスターヒラタ、アベに送られる。勝つ……ショウサンはあるか?」
問われた二人が顔を見合し言葉を選ぶ間にメインディスプレイに信号らしき縞が乱れ光り始める。先にクリィシィから聞いた説明だと世界中のネットワークにリンクした亀山の意識がこの事案の情報を全て拾い上げて尚最重要の攻略を写し出すらしい。最低限の被害と最善の作戦で攻め込む。つまりは戦争を数学で弾き出すという訳だ。
肝となる作戦が今まさに映り出そうとしているディスプレイを見据える皆が渇唾を飲んでいただろう。
――「ご主人さまぁ~この水着小さくてきわどすぎますぅ」
大きな胸を揺らすうら若い女性が二百インチのディスプレイを覆った。即座に近寄ったクリィシィにブラジャーのホックとか言うから悪いんだと言い訳をする亀山の姿……恥だ、日本の恥じだ。誰だこんな奴連れて来たのは。
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