朱の緊縛

𝓐.女装きつね

文字の大きさ
43 / 47

水着と世界秩序

しおりを挟む

 アメリカ合衆国、バージニア州にあるアメリカ国防総省。俗に “ ペンタゴン ” と呼ばれる施設内の一角に今回の事案で新しい部屋が作られた。他と隔離されたような黒く統一された百五十平米程の空間に二百インチのディスプレイが正面に鎮座し、約三十台のモニターが狭しと壁に掲げられている。それは亀山の為に作られたと言って良いだろう。真ん中ほどに構える一台の椅子は亀山の到着に千秋を窺っていたようだ。

 拘束する腕を外し専用機で移動した十三時間程の間に現時点で知りうる限りの情報は伝えたのだが、いざ目前にした異質な空間に亀山は呆然と立ち尽くしている。ひとつ間違えたら世界を巻き込む大戦になるというのは、いくら呑気な亀山でもそれは想像を絶するプレッシャーなのだろう。

 踏入れた室内には既にスーツ姿の男性が一人、軍の制服を纏った男性が二人、我々の到着を時遅しと構えていた。目線を運ぶ即座にスーツ姿の男性が流暢な日本語で亀山に歩み寄る。 “ クリィシィ ” と名乗った彼はどうやら責任者のようだ。

 室内に皆が揃い詰めた緊張が僅か静隠せいおんした時、背中にチクリと意識が刺さった。知れぬ気配、突如表れた一人の男性が壁を背に凭れかかっている。多少の経験と刑事としての自負は持ち合わせていたつもりだが、細身で長身、優男と言うような風貌のその男性は存在を一切悟らせなかった。何か凍てつく驚異が自分の背筋を滑っていくようだ。

 すると私の気配を察知したのか、平田が男性に近付き至極当たり前のようケタケタと肩に腕を周した。平田曰く、彼はとある試験に唯一合格した人間で、拳銃、ライフルの腕は世界レベルの持ち主らしい。

「安部さんだ、この人に撃てないモノは無い。なにせ六百メートル先からブラジャーのホックを射てるんだぜ、まぁ映画みたいに現実離れな人だ」

「いや平田さん、なんか凄さが良くわっかんねーしっ……安部だけにアベンジャーズっ」

 平田の説明もアレだが本当に亀山という男はどこまでも抜けたヤツだ。いや、この緊張感には必要だったのかもしれない。妻が誘拐されている亀山が一番に錯乱していてもおかしく無いのだから。クリィシィは半ば呆れたようだったが、交じる会話に弛み薄ろいだのは相違無かった。

 椅子にゆっくりと腰を降ろす亀山を促したクリィシィは深呼吸をさせた後、耳打ちに注釈しているようだ。亀山の影をすっぽりと隠す程大きな椅子に次々とコードが繋がれてゆくその光景はあたかもSF映画だ。


――「Rready?」

 亀山から離れたクリィシィがキーボードを弾くと一番大きなディスプレイを残し全てのモニターが色彩を放ち始めた。

「あとは亀山さんの意識がリンクすれば敵の場所、動きや作戦までの情報が全てここに写し出される。その情報はリアルタイムで現地でのミスターヒラタ、アベに送られる。勝つ……ショウサンはあるか?」

 問われた二人が顔を見合し言葉を選ぶ間にメインディスプレイに信号らしき縞が乱れ光り始める。先にクリィシィから聞いた説明だと世界中のネットワークにリンクした亀山の意識がこの事案の情報を全て拾い上げて尚最重要の攻略を写し出すらしい。最低限の被害と最善の作戦で攻め込む。つまりは戦争を数学で弾き出すという訳だ。

 肝となる作戦が今まさに映り出そうとしているディスプレイを見据える皆が渇唾を飲んでいただろう。


――「ご主人さまぁ~この水着小さくてきわどすぎますぅ」


 大きな胸を揺らすうら若い女性が二百インチのディスプレイを覆った。即座に近寄ったクリィシィにブラジャーのホックとか言うから悪いんだと言い訳をする亀山の姿……恥だ、日本の恥じだ。誰だこんな奴連れて来たのは。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

処理中です...