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常磐の一文
しおりを挟むアメリカ国防総省より約一万三千キロの距離にあるイスラム共和国パキスタン。
俺達は合流した三人と合わせ五人で本丸となるロータスを目前にまで捉えた。堕ちて当然のような戦局は随分と久しいが、逆立つ全神経が痛くまで感じるのは快楽に等しい。
ペンタゴンから送られる亀山の指示は恐ろしい程的確ではあったが、実戦は数学通りにはいかなかった。相手は半世紀以上も宗教を謳い文句に殺し合いを続けてきた連中だ、セオリー通りの戦略をしていたら必ずトラップが待ち受ける。正直安部のライフルと奴代ちゃんの力が無ければ鏡子を本丸、ロータスの城塞に導くのは不可能だった。
カオダボはその財力に戦車や砲台まで揃えていた。それは間違い無く戦闘ではなく戦争だ。だが米軍、国連も軍を出せるに至らない現段階では二人の力が無かったら十分と持たなかっただろう。しかし俺達は最早一人も欠ける事無く本丸を捉えた。それを遮るのは人工的に作った雑木林だけだ。
地形的に戦車等大げさ物では無いだろうが城塞を守る最後の砦が我々を易々と迎える訳は無い。亀山の仕事でも雑木林に何が有るのかは皆目のようだ。
――踏み入れる雑木林、俺の背中には喰わえタバコでライフルを持つ安部、知る気配とは別格の空気を纏った天久と奴代。そして何か据えた様まるで無口な鏡子が続く。
各世界に拠点を持つカオダボを完封までに制圧する為に軍は既に動いている。しかし制圧が始まるのはロータスの城塞が落ちるのが合図、つまりは俺達次第という事だ。
朽ちた地面は僅かなぬかるみにパキパキと足音を鳴らし尽きぬ風が雑木に音を奏で続ける。その中を進む五人だったが、二十分程で脚を止めた安部が突然天空に向け銃弾を弾いた。
「平田っ上、かなりの数だっ」
安部の声に空を仰ぐと揺れる木陰に紛れた幾多の影が乱雑無造に跳ねている、っつ……忍者ごっこかっ
拳銃所持はしているが安部のような腕は無い俺はならばと二本の鞘を抜いた。およそ三十人、安部とならいける。
「鏡子っ、二人を連れて乗り込めっ」
算段があった俺は三人を背に送り安部と前衛を食い止めた。しかしライフルを機関銃のように扱うとはさすが演習場唯一の生き残り、合格者だ。
鏡子達の気配が薄れた頃、安部の息使いが背中にまで響く。時期敵も全滅のはずだがと僅か生まれた疑念は先の想定を砕いた。討ち倒した一つの塊からぬるりと影が立ち上がり対に割れたのだ。となるとざっと百人か……くそっ、見誤った、
覆い被さるように数を益した敵勢が不規則に螺旋を絵描き捕らえるか如く我らの八方を塞いだ。互い合わせた背中には数多安部の困憊が伝わる。
この数に……一斉に来られてはっ、
術なく慚愧を奥歯に軋ませた時、円陣をひとつの光が切り裂き見事に十程の身体を半身から裂いた。跳ねた長身に大差ない漆黒をさらさらと踊らせた女性が身の丈ほどの刀を細腕一本で反しながらニコリと微笑みを見せたのだ。
「まったく、来て早々とは老いた身体に毒だぞ忠国っ」
「はは、相変わらずですね美穂殿は」
困ったものだ、親程の年代の二人に株を奪われるとは……戦場は人の能力を引き出すとは言うが、これはまったくもってやっていられない。
だが太刀を握る拳にまるで羽根が舞ったようだ。安部と馴れ合うように凭れていた背中が火花のよう弾けた。
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