朱の緊縛

𝓐.女装きつね

文字の大きさ
44 / 47

常磐の一文

しおりを挟む

 アメリカ国防総省より約一万三千キロの距離にあるイスラム共和国パキスタン。

 俺達は合流した三人と合わせ五人で本丸となるロータスを目前にまで捉えた。堕ちて当然のような戦局は随分と久しいが、逆立つ全神経が痛くまで感じるのは快楽に等しい。

 ペンタゴンから送られる亀山の指示は恐ろしい程的確ではあったが、実戦は数学通りにはいかなかった。相手は半世紀以上も宗教を謳い文句に殺し合いを続けてきた連中だ、セオリー通りの戦略をしていたら必ずトラップが待ち受ける。正直安部のライフルと奴代ちゃんの力が無ければ鏡子を本丸、ロータスの城塞に導くのは不可能だった。

 カオダボはその財力に戦車や砲台まで揃えていた。それは間違い無く戦闘ではなく戦争だ。だが米軍、国連も軍を出せるに至らない現段階では二人の力が無かったら十分と持たなかっただろう。しかし俺達は最早もはや一人も欠ける事無く本丸を捉えた。それを遮るのは人工的に作った雑木林だけだ。

 地形的に戦車等大げさ物では無いだろうが城塞を守る最後の砦が我々を易々と迎える訳は無い。亀山の仕事でも雑木林に何が有るのかは皆目のようだ。


――踏み入れる雑木林、俺の背中には喰わえタバコでライフルを持つ安部、知る気配とは別格の空気を纏った天久と奴代。そして何か据えた様まるで無口な鏡子が続く。

 各世界に拠点を持つカオダボを完封までに制圧する為に軍は既に動いている。しかし制圧が始まるのはロータスの城塞が落ちるのが合図、つまりは俺達次第という事だ。

 朽ちた地面は僅かなぬかるみにパキパキと足音を鳴らし尽きぬ風が雑木に音を奏で続ける。その中を進む五人だったが、二十分程で脚を止めた安部が突然天空に向け銃弾を弾いた。

「平田っ上、かなりの数だっ」

 安部の声に空を仰ぐと揺れる木陰に紛れた幾多の影が乱雑無造に跳ねている、っつ……忍者ごっこかっ

 拳銃所持はしているが安部のような腕は無い俺はならばと二本の鞘を抜いた。およそ三十人、安部とならいける。

「鏡子っ、二人を連れて乗り込めっ」

 算段があった俺は三人を背に送り安部と前衛を食い止めた。しかしライフルを機関銃のように扱うとはさすが演習場唯一の生き残り、合格者だ。

 鏡子達の気配が薄れた頃、安部の息使いが背中にまで響く。時期敵も全滅のはずだがと僅か生まれた疑念は先の想定を砕いた。討ち倒した一つの塊からぬるりと影が立ち上がり対に割れたのだ。となるとざっと百人か……くそっ、見誤った、

 覆い被さるように数を益した敵勢が不規則に螺旋を絵描き捕らえるか如く我らの八方を塞いだ。互い合わせた背中には数多安部の困憊が伝わる。
 
 この数に……一斉に来られてはっ、

 術なく慚愧ざんきを奥歯に軋ませた時、円陣をひとつの光が切り裂き見事に十程の身体を半身から裂いた。跳ねた長身に大差ない漆黒をさらさらと踊らせた女性が身の丈ほどの刀を細腕一本で反しながらニコリと微笑みを見せたのだ。

「まったく、来て早々とは老いた身体に毒だぞ忠国っ」

「はは、相変わらずですね美穂殿は」

 困ったものだ、親程の年代の二人に株を奪われるとは……戦場は人の能力を引き出すとは言うが、これはまったくもってやっていられない。


 だが太刀を握る拳にまるで羽根が舞ったようだ。安部と馴れ合うようにもたれていた背中が火花のよう弾けた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...