朱の緊縛

𝓐.女装きつね

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手錠

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 情事に落ちたショーツを爪先に通す。丈の長い薄手のシャツだけという戸惑いはその声に掻き消された……え、この声って亀山さん?

「ゆ、優ちゃんっ、俺が前にあげたパソコ……っ」

 慌て店舗内のプライベート階段を降りる私を見つけた亀山さんが階段の下で言葉を詰まらせる。

 いや……なんか余計恥ずかしいし

 途中まで降りていた背中から鏡子さんに手渡されたノートパソコンを受け取り、それをカウンターに置くと私に目を合わせた奴代ちゃんが何やら視線を固めた。

 『パパ、ブラジャー忘れ……』

 正面に座る亀山さんの視線に理解を示さない私を見て、奴代ちゃんが耳打ちをした。情事から冷めきっていない胸の張りは裸のままここに立っているようだと思った途端に熱が一気に上がった私は、着替えを終えカウンターに入ろうとしている鏡子さんの背中をかわすと胸を覆いながら二階へとかけ上がった。 

 も、もうっ、あぁーバカぁ

 気恥ずかしさに地団駄を踏みながら着替える矢先、洗面所に意識を向けた。情事のままなのだもの……けれど尋常ではなかった亀山さんの姿は早々に私を一階へと向かわせた。スーツ姿っていうのも驚いたけれど、あんな亀山さんの顔は今まで見た事がないのだもの、余程だよ絶対。

 カウンターに入った私にも気付かないまま亀山さんはパソコンの画面を鋭い目付きで睨んでる。紫煙を揺らしていた鏡子さんは私と視線が合うと首を傾げた。その様子だとまだ亀山さんから何も事情を聞いていないようだ。

「あぁっくそぉっ、一体何から調べたらいいんだっ」

 そう言うと亀山さんは突然キーボードを乱雑に叩き額をカウンターに沈めた。一体どうしたんだと言う鏡子さんの言葉から亀山さんが話し始めた事情は私達から温度を奪っていった。

 皇居敷地内の病院からピコさんが突然姿を消した。そして驚愕はそれだけじゃなかった。ネット回線も無いパソコンで何をしていたのかと続いた言葉は常識的な拒絶をさせた。

 な、何これ……ネット回線も無いのにウィンドウが次々に

「じゃ、じゃあ院内の防犯カメラの記録にアクセスできないのか亀山さんっ」


――単純な事、極限になった人間は見落とす物だ。鏡子さんの言葉に冷水を浴びたような顔付きになった亀山さんがパソコンを自らの方に向け直した時、店舗のドアが鈴を奏でた。

 伊丹さん、そして後ろに平田さんの姿が見える。明らかに連れ合いながら二人がドアを開けた。演習場以来平田さんが来店するなど一度もなかった事だ。その異質は私に来店を迎える言葉など許すはずもなかった。

「すまないな、亀山。事情は車で説明する」

 そう言うと亀山さんの左腕を引き寄せ、問答無しに手錠をかける。戸惑いながらの抵抗は伊丹さんの腕力に敵う筈もなく、亀山さんはそのままドアへと引きずられていった。

「何だそれはっ、伊丹っ事次第じゃ許さ……」

 気配を激しくした鏡子さんがカウンターを飛び越え、伊丹さんの背中に飛び掛かる寸前、平田さんが屈強な腕で抱き締めるように鏡子さんを抑えた。

「落ち着けっ鏡子、全ては柏木スミレを救出する為の計画、その為に俺が加わっているんだ」
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