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遮那王の血
しおりを挟む扉の鈴音が鳴る。平田さんはウイスキーの入ったロックグラスを空にした後、扉に背中を消した。響き渡る鈴音はまるで魔法のように降り続いていた雨を止めた。
「俺はこれからパキスタンに向かい、亀山の指示で雑魚共を制圧する。お前らの出番はその後だ。鏡子、それまでの間に任せたい事がある」
話しによると、調査で浮上した人物は奴代ちゃんを操っていた神弥宮のようだ。権威に欲を濁しカオダボと精通、結託して拉致を手引きした。そして防犯カメラの映像には、もう一人の人物、トゥーハンドレットアルファの “ 波岡 ” が映っていた。二人を確保、もしくは裁決を下せと平田さんに託された。
「パパっ、ママ。すぐ戻るから私ちょっと出かけてくるねっ」
唐突に繕うような笑顔を私達に残して奴代ちゃんが外に駆け出ていった。その背中が見えなくなった頃合い、扉に鳴っていた鈴音が不自然に止まった。
――「しっかし天久まで監視対象とはなぁ、そこまで気がついているのか公安は」
「な、夏稀さんっ……それに」
白いドレスを纏った三人の女性が肘を立てて座っていた。その見馴れた顔は私と鏡子さんに体温を戻させてくれた。
ブロンドの長い髪に透けるように白い肌。端の席で頬杖をついている女性が「シャナだ。身体があった時の名前はね」と微笑む。
「中に私が居るせいでテロメアの劣化が止まっているのとほんの少しの特異能力……すごいですね、公安って。天久君のそんな事まで嗅ぎ付けるなんて」
二年前と何ら変わらない篝さん。唯一の違和感は篝さんが客席に座り、私がカウンターの中に居る事だ。
あれからの彼女達は頻繁に私達とグラスを傾けるという事はなかった。なんでも『思念体』と言っても寿命というかエネルギー切れという物があるらしく、それが無くなると一度有機体、いわゆる人間として生まれなくては記憶ごと完全に消滅してしまうらしい。
私の中には篝さん、夏稀さんの記憶が存在する。しかしそれは断片的でしかなかったのだろう。続いた夏稀さんの言葉を鍵に記憶が洪水のように甦る。ここに居る皆と出逢った事、そして今回の事案が縁と繋がっていった。
「天久、これは千年に及ぶ私達の因縁なんだよ」
ひとつ間違えたら世界戦争、本来ならば私達が関わるような事案では無い。しかしピコさんを拉致された以上私達はただ見ている訳にはいかない。だけど本質はそこじゃないんだと夏稀さんは私に言った。
「私達とこうして顔を合わせるのも最後だな、思念の無駄遣いだ。夏稀ちゃんは織屋さんに、篝さんは天久君に。そして私は妹の中に入る。討つぞ天久の兄、義平をっ。そして終わらせようこの醜悪な縁を」
「はいっ」
扉を背中にした奴代ちゃんが立っていた。シャナさんの抱擁に堰を切ったように泣き崩れる。どうやら矢部さんとの恋縁に終止符を打ってきたらしい。叫び続ける腕の中にシャナさんが溶けきった同時、涙を止めた奴代ちゃんはゆるりと顎を上げ異次元の風格で私達を見据えた。
「静御前、義経、鈴鹿御前……いや遮那王、立烏帽子神女っ。我、天照と妹神丹生都比売貴様らと命を共にしようぞっ」
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