朱の緊縛

𝓐.女装きつね

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鬼切り丸

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 銀爪を牙城門前に掻き止める。そびえ待つ奴代が天空を仰ぐその先、普段ならば厳重な警備に囲まれているはずの皇居はまるで現し世では無いよう人影が消えていた。迎えに瞼を起こした鏡子に何かぬたりとした重量感が見える。意想外に深傷だったのか随分な残痕に奴代は案じ駆け寄った。

「鏡子さん……」

「あぁ……神弥宮、やつが義平だ。考えてみればあいつは世界をどーこー程の大物じゃない。片手間で終わらせるぞ、奴代っ」

「き、鏡子君……近付くなと残しただろ、私はいづれ回復するが、君は普通……生身の女の子なんだぞっ」

「波岡さん、この身体がどうであれ私の理念は死なない……大丈夫だ。九時の間奥、奴代がそこに浪岡さんの娘を見た。忠国、そっちを任せてもいいか?」

 首元の鈴音を凛と揺らしながら愁う皆を余所に鞘をするり抜き落とし、悠然ゆうぜんと牙城の観音に平を圧し蹴る鏡子。その様、風貌風格は天の魔焰まえんその物だ。それは他者に一辺の言葉をも許さなかった。


――紫の禁裏――

 深淵の奈落。人の気配が無いのは真夜中の所偽しょいでは無いだろう、此処に居る者達は現し世の常軌を逸脱しているのだから。亡者の招き……否、蚕食さんしょくなのか、彼女達は迷いなく紫の禁裏を開けた。

「千年ぶりだな義平よ、鎌倉の悪源太も随分と女々しくなったものだな」

 おごたかぶる如く頬杖を浸けたまま神弥宮は憤慨ふんがいを向ける鏡子に瞼と口元を捻らせた。倚子いしに座したその姿はまるで獣人ようだ。神弥宮は内に滞っていた義平を放ったのであろう。

「鈴鹿御前、手負いの貴様なぞ取るに足りぬわっ」

 揺らりと膝を立て鞘を抜いた神弥宮。想像足らない機敏さで鏡子めがけ突進するが即座に奴代がその太刀に向けて霊気を放った。彼女の術、その冷気は生けとし有るモノ全てを氷結するのだが、どうやら神弥宮は術避けを施していたようだった。そうだろう、なにせ記憶が無い間神弥宮は散々に奴代を利用していたのだから。

「き、鏡子さんっ」

 奴代を越え切りかかる神弥宮の太刀を高い飛躍でかわす鏡子。手負いとは言え今の彼女は東の鬼神、立烏帽子神子なのだ。

 空中で太刀で奮う鏡子は生まれる真空を使い自在に飛びながら神弥宮に鎌鼬かまいたちのような傷を刻んでいく。響く首元の鈴音が大きくなる度に三尺一寸、鈴音の鳴る朱い柄巻の太刀、大通連 “ 鬼切り丸 ” と呼ばれた刀はその名を誇るよう千手が如く加速していった。

 神弥宮……義平の首は落ちる膝を避けると二つ三つと転がり床に朱を散りばめた。

「鏡子さんっ、その身体」

「翁の膝元にまで届けばいい、朽ちるとも理念は死ないさ。それよりな奴代、恐らく……すまないが頼まれてもらえるか?」

 我が娘を腕に抱く迄の小一時間、波岡には随分な長さだっただろう。力尽きる様に瞼を閉じた波岡を乗せ忠国はステアリングを握った。異国へと飛ぶ二人を残して。
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