戦国武将の子 村を作る

琴音

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嫁取りとこれからの事

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今朝玄之助の家臣盛山が板垣の所に用事で来たのを見かけた。ついでに子の様子を聞いたところ時殿は大分落ち着き玄之助は初めての子にそれは嬉しそうにしていると聞き、

「この後行っても迷惑にならぬか?」
「何を言うかとも思えば。幸三郎様がお越しになるのに何が迷惑ですか。玄之助様は兄上様の話をされる時のお顔は子供の頃に戻った様に嬉しそうですよ」
「そうか。ならば一時後に子の顔を見に行かせて貰おう。伝えておいてくれ」
「畏まりました」

朝の支度を終えて野良仕事に出る前に少し寄ることに。

「時殿ご苦労だったな。身体は辛くないか?」
「兄上様今は大分落ち着いて床上げももうすぐです。お気遣いありがとう存じます。それと珍しい甘いお菓子が嬉しゅうございました」

顔色も良くなり腕に抱く子も良い顔で寝ている。

「気に入ってくれたか。板垣に褒美を出さねばな」
「兄上私からも感謝致します」
「気に入ってくれたなら良い。ほんに良い子だ」

寝ているが抱いてくれと渡され、

「フフッ懐かしいな。幸太郎が赤子の時を思い出す」

腕に感じる重さ、乳臭さに記憶が呼び起こされる。咲は私と五つ違いだが時殿は玄之助と六つ離れているから今二十か。まだまだ子は増えるだろう楽しみだ。
長居も疲れるだろうと短時間で暇することにした。

我が屋敷は村の中央に位置し皆が来やすい位置だが弟の屋敷はそこより奥まった場所にある。歩いても小さな村だからすぐだ。

父の頃には小屋のようだった家も他の村との交流によりそれなりの屋敷にした。村の者の家も家と呼べるものにした。木はこの山から切り出し大工を城下に近い村から呼び寄せ指導をしてくれた。その甲斐合ってか村にも大工を志す者が数人今は城下に働きに出ている。もう帰っては来ぬだろうが良き職人になってくれれば文句もない。

「兄上本日はご足労感謝しております。出産の時はウメも貸して下さり大変助かりました」
「ああ…女手は出産の時は多い方が良いからな。咲も後少しだ」

ふふっと玄之助は微笑み、

「兄上の所は二人目ですね。賑やかになりそうだ」
「そうだな。その為には稼がなければならぬ」
「ですね。今年の年貢は増えているのでしょうか?」

名主様とウメに諌められた。

「お仕事の話しはここでは…」
「はは。無粋であったの済まぬ邪魔をした。困ったことはウメか板垣に言えば良い。お前の所で足りなければな」
「感謝致します兄上」

弟の屋敷を出て道を歩いていると子供が目に入る。親の手伝いでウロウロ畑や田に精を出している様子にああ……子供はいい村に活気が出るからのう。自然と笑みが溢れた。

「今戻った」
「おかえりなさいませ。下の村の名主様がお見えです」

屋敷に入るなりウメが……ん?何かあったのか客間に向かい襖を開けると上座に一見人の良さそうな男が座っていた。

「お待たせしました。大勝様」
「いやいや対して待っておりませんよ」

この男は四十半ば位の遣り手の名主だ。藩士の末の息子で今も武士。藩に任されている金鉱の管理が主な仕事だが、名主として村の管理も一手にしている。歴代この藩士の家から名主が来るらしい。上座に座り薄く微笑んでいる大勝に私は床に座り微笑みながら、

「本日は何用で?」
「ふふっ…良い話ですよ。こちらに嫁に来てもいいと言う娘を見つけまして…」

おおなんと。
話を聞くとこの名主の「大平村」と下の「清沢村」から一人ずつ見つけたそうだ。板垣の所と五助の所の息子が対象のはずだ。

「はい。十五と十八ですね。頼まれてた息子が二十と二十一と伺っております」
「こんな山奥によく…」

ふふっと声が漏れ、

「どちらの娘もどこかで二人と会ったことがあると話していたそうです。それで今回の話しを清沢の慎之助様に話したら来てもいいと」
「おお…わかってて嫁にありがたいな。こちらで日取りを決めても宜しいか?」
「勿論。決まり次第文を下されば用意させますよ」
「ではそのように。因みに大勝様はこの後は急ぎの用などございますか?」
「いえ…特には」

私は襖を少し開けウメに目配せをした。すぐにウメや他の小間使いが料理と酒を持ってきた。

「大したもてなしも出来ませんが…」
「ほほ…いやこれは珍しいですね…」

大平にも売りには行っているが余り採れないものは村で消費してしまうし調理が越後とは違うらしく喜んでくれたようだ。

「ははは馳走になりました。連絡をお待ちしてますよ。では」
「感謝致します。またこちらからも挨拶に伺わせて頂きます」

手を握る振りしてそっと金子を袖に入れた。大勝はニヤッと笑いお付きの者と帰って行った。袖の下は上の者には有効でそれが欲しくてわざわざ半時掛けて来たんだろうからな。部下が多いと暇で羨ましい限りだ。

だが嫁はよかった。明日にも五助を呼び出して話してやらねばな。その後少し野良仕事をし夕げが終わる頃、玄之助が年貢の話を聞きたいと訪ねて来た。

「兄上…こんな刻限に申し訳ございません」
「構わぬ。私とお前二人だけの兄弟ではないか」

ウメが酒を私の仕事部屋に運び下がった。

「まあ飲め」
「はい…」

玄之助はお猪口を手に取り私は酒を注いだ。自分は手酌で…

「兄上私が!」
「良い…二人しかおらぬ。気を使うな玄之助」
「はい。兄上」

クイッと煽りため息を付いた。

「あまり良い知らせではないがな、今年は三割五分だ。万が昨年のようだと蓄えが足らぬから冬が越せないかもな…」

暗澹たる気持ちしか湧き上がらない。

「兄上材木は売れませんか?」
「それは私も考えたが職人を呼び戻して指導を受けてやるにしても何年も先だ。道普請せねば大きな荷車も通れぬ…」
「そうですね……」
「それにな玄之助。定期的に売らねば意味はない。あっという間に売り尽くしてしまうから植林もしなければ。現状人手が足りぬ」

はは…浅はかでしたと呟く。
越後は流通が良く物があれば売れる。陸路でも海路で堺でもどこへでも…だが物がなければ意味はないしここには何もなく新しい発案どころか生きていくので精一杯だ。

「済まない、私の力不足だ…」
「そんな!兄上は頑張っておられます!二つの村とも交流を持ち今回嫁を手配したのですよね?ここまで村の形になったのは兄上の力です!」

下を向き握り拳が震えている。そっと近づき手を重ねて、

「お前は良くやってくれているありがとう。村人の相談はお前の方に行っているんだろう?私の所にはどうにも出来ないものだけ回してるのは知っているぞ?」

情けない顔をして、

「少しでも兄上の役に立ちたくて…でもそんなものでは足りないのです」
「ふふっそんな事はないぞ?私は嬉しく思っている」

私の顔を見上げたまま、

「兄上…私は上の兄ではなく貴方と残された事を幸せに思います……」

肩をポンポンと叩き、

「その言葉だけで私は頑張れる…嬉しいぞ玄之助」

自分の不甲斐なさに泣き出した玄之助を慰めなから酒を勧め、子供の頃の楽しかった昔話に華を咲かせ笑い合った。夜も更けしたたか酔った所をウメに頼み客間に布団を敷かせ寝かせた。板垣には屋敷にこちらに泊まると連絡に行かせた。こんなにも慕ってくれる弟がいる。枕元に座り寝顔を見ていると……

なにか対策を取らねばいつか本当に飢えて……しかし材木は良い案かも知れぬ。このままでは限界が近いのは肌で感じているし村が維持出来そうもないと感じれば皆山を降りるだろう。

それはこの地を預かる者としては最悪で父に顔向け出来ない。私たちを置いて行ったのも多少の愛着がこの地にあったからだと信じて今まで来たのだから。

弟の寝顔を見ながらそんな事を思った。
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